第31話 暗号読解
「え? お二人は解読できたんですか?」
びっくりしながら大臣が尋ねる。
「ああ、多分な。ヒントもあったし、1文に1文字~4文字。しかも、ひらがなとカタカナの混合された文となれば、あれしかない」
「そうだね。きっと、あれだ」
「あれとは?」
「「モールス符号」」
びのと声が揃う。
良かった、同じ考えだった。
「モールス符号?」
「ああ。異世界じゃ知らなくても仕方ないかもな。本来は、『ツー』という長符と、『トン』という短符から構成された通信手段だ。今回は、ツーがひらがな。トンはカタカナで構成されているな」
「1文字から4文字だから、今回は、アルファベットだね」
「ああ、ヒントの『こ』は平仮名1文字だから、ツー。つまりは、『T』をあらわしている。『レハつ』は、カタカナ・カタカナ・平仮名の三文字だから、トン・トン・ツー。つまり、Uを表している。あわせて『TU』。だから、『つ』だ」
「最初の文字は、『つ』で平仮名一文字だから、『T』。と『ギの』は、カタカナ一文字と平仮名一文字だから、トン・ツーで『A』……このように解読すると、『TAIJUNOSIRO』。つまりは、大樹の城だ」
「大樹の城ですか?」
きょとんとする大臣。
あれ、もしかして、間違っていただろうか?
「うん。大樹の城だよ。もしかして、この世界にその名前の城はないの?」
私は困ったような顔をして尋ねた。
「あ、いえ、近くにあります。すみません、あまりにも見事な推理で驚嘆しておりました」
あ、そういうことね。
もっとびっくりして褒めたたえていいんだからね。
「ちなみに、次の満月っていつだ?」
「今日でございます」
今日か。
だから、王宮はこんなにもバタバタしていたってことか……
確かにな。
もし、私たちが挑戦状のことを知らずに元の世界に居たままであったなら、次に来た時、この城は滅びてました……なんて未来もあったのか……
「オレ達に準備をさせないためか? よっぽど、近況はオレ達と早く戦いたいらしい。オレ達はこの世界3日目で、レベルも碌にあげてないのにな」
「そんなの魔王には関係ないよね?」
ゲームじゃあるまいし……
むしろ、私たちのレベルが上がるまで待ってくれてる魔王って、滅茶苦茶優しくないか?
「ああ、確かにそうだな。だが、それにしても魔王が知るのがはやいと思わないか、覧。どこかからこの世界に勇者がいるという噂が魔王側に漏れたんだろうな……そうでないと、ダウゴに挑戦状なんかたたきつけられない……」
びのは私のほうに顔を向ける。
「そうだね」
私もびののほうを向き直った。
「「一体誰が……」」
言いながら二人で王子を顔を見る。
「この次期王様を疑うのか?」
「いいや、可能性の一つだ。本当に誰にもオレたちの存在をばらしてないんだろうな?」
びのは口では疑っていないふりをしているが、ほぼ間違いなく王子が怪しいと睨んでいる。
勇者だと知っていたのは、門であった兵士に王子に大臣、ミドラしかいないはずだ。
お城までは兵士に丁重に迎えられたとはいえ、傍目では勇者だと気づかれない。
兵士に関して言えば、大臣が口止めの緘口令を出していたはずだし、ミドラには守秘義務がある。
情報が漏れるとしたら、王子しかありえない。
そうでなければ、挑戦状が城の中にいる王子に直接来た説明がつかないしね。
「もちろんだぞ。確かに、貴族たちを安心させるために、勇者がいたと話はしたが、誰が勇者だとは言ってないぞ」
「「やっぱり犯人はお前かーーーーー!!」」
びのと声を合わせて王子を睨みつける。
「え? いや……何か悪いことでもしたのか?」
もう、呆れてため息さえでない。
この王子、いい加減にして欲しい。
『王子様からきいた話なんだけど』……って貴族が話を広めていったら、いつの間にか魔王陣営にも伝わったんだよ。
勇者の名前を知らなかったから、噂の出所の王子に挑戦状を渡すしかなかった……
だから、ここに挑戦状が届けられた。
そう考えると、つじつまが合い過ぎ。
……ってか、この次期王様がこんなんで本当に大丈夫なのか、この国。
「まあ、いいじゃないか。この次期王様が無事だったんだから」
そういうことじゃないんだよ。
お前が何も言わなければ、こんなにも早く挑戦状が届くなんてことはなかったんだよ。
十分な準備をして戦うことができたかもしれないってのに……
なんで秘密にしなかった?
「お前の頭の悪さはよくわかった」
びのも私と同じことを考えていたのだろう。
「え? もしかして、挑戦状が届いたのは、この次期王様のせいなのか?」
自分で自分を指差し、マヌケ顔をする王子。
お前以外に誰がいるんだ……
「とりあえず、その責任をとるという意味でも、ポーションとMPポーションを用意してくれるか?」
「ああ。わかった。大臣用意しろ」
大臣は御意にとかしこまると、席を外した。
おい、王子。
まず、謝れよ。
お前のせいで、挑戦状が届き、準備もあまりできないまま戦場へと向かわなければならないんだぞ。
何が、『ああ。わかった。大臣用意しろ』だよ……
ジオフの世界が滅びようが関係ないってこっちが思ったら、行かない選択もできるんだからね?
「お待たせいたしました」
大臣が大量のポーションを袋につめて持ってくる。
「覧、お前のポーチに詰め込めるだけ詰め込んどいて」
「了解」
「お、ようやくやる気が出てきたか。そうだよな、行かないと死者がでるかもしれないんだもんな」
まじで空気の読めない王子だ。
「罠じゃなきゃいいけどな」
「罠? どういうことだ?」
「この挑戦状は陽動で、オレと覧が大樹の城に行っている間に魔王が現れて、王子は殺され、町は壊滅状態……なんてことにならないといいな」
「おいおい、最初からこの次期王子の命が目的なら、魔王に会った瞬間、もう死んでいるだろう?」
そうだ。びのの論理には穴がある。
だけど、この王子は一度懲らしめないと、気が進まないというのが本心だろう。
「もしかしたら、お前は死んでいるかもしれないな」
「なんだと?」
「魔王・近況は、記憶も姿形も同じになれるらしい。お前、近況が化けてるんじゃないか?」
「ははは……そんなことないだろう。俺は、自分だという自覚がある。だから俺は本物だ。それにその挑戦状も本物だから、街が壊滅状態になることはないだろう」
うん、この王子は本物だ。
本物の大バカ者だ。
なんで自覚があるから自分なんだよ?
言ってることの意味が分からない。
それに、この挑戦状が本物だということは分かったけど、内容が本当だということを知る術がないじゃないか。
送り主は近況って書いてあるけど、罠かもしれないんだよ?
大樹の城に行ったら、4人すべての魔王がいたら、びのと私は命を落としかねない。
もうこの国、嫌だ。
「びの」
「ああ、そうだな」
びのの名前を呼ぶと、びのも分かったようで、返事を返した。
死んでもバカは治らない。
この人と関わっても時間の無駄だ。
そう私たちは判断したのだ。
「軍の指揮権借りるぞ、王子」
「非常事態だ。いいだろう」
しぶしぶ了承をするダウゴ。
なんで、しぶしぶなんだよ。
そこはお願いしますだろっ!
どんだけ上から目線なんだ、こいつ。




