第30話 暗号
2020/7/31 誤字を訂正しました。
「あ、そうだ。ハードスライムでも狩りに行くか?」
びのは家に着くなり、思い出したかのように私に提案する。
「え? 今から行くの?」
「行かないのか?」
家に1度帰って来たあと、外には出たくない。
毎日筋トレをしているとはいえ、結構疲れてしまったし、足に豆ができるかもしれないし。
この疲れた状態でハードスライムと戦ったら、また捕食されかけてベトベトになってしまうかもしれない。
「向こうの世界、夕暮れになったとたんに冷え込んだからもう行きたくないな……」
やんわりと断る。
「じゃあ、オレだけでも――」
いや、びのが行くなら、私も行くけどね。
びのに何かあったら大変だし。
主に、ハードスライムの狩場を知っている女性騎士が、ハードスライム狩りに失敗して、びのに助けを求めて、びのが格好良く救出して、その後、一緒にご飯でも……なんて展開になるかもしれない。
「浮気はダメ」
「なあ、覧、何言ってんだ? オレはソロでハードスライムを狩りに行くだけだぜ?」
「人はそれを浮気と言う」
「言わねーから。それを浮気と言わねーから。それが浮気なら、ソロで何かしたら全部浮気になっちゃうじゃねーか」
「私以外のことに気が行っている時点で、それは浮気」
ソロでするなんて何てけしからん!!
「束縛系女子か!! そんな暴論、認められるかっ!!」
「なんと言われようと、ソロ、ダメ、絶対!!」
「びの、覧ちゃん、ご飯できたわよ」
私たちが浮気について言い争っているとちょうど母から夕ご飯の準備ができたという声がかかった。
私はすぐさま扉をすっと開けて、晩御飯の香りを部屋の中へと誘った。
うーん、醤油のかぐわしい香り。
さすがのびのもこのかぐわしい香りにはかなうまい。
「まあ、とりあえず、一時休戦して晩御飯を食べるか」
「異議なし」
はい、計画通り。
2人で部屋を出て、階段を下りる。
「今日は、鏡開きだから、お雑煮よ」
「もう、1月11日か……」
びのは呟きながら、お餅を口へと運ぶ。
「うわー、美味しそうだね、びの」
「本当だな、覧」
「喉に詰まらせないように、よく噛んで食べてね」
「分かってるよ、母さん。それでは、いただきます」
びのは箸を器用に使って、お餅を口へと運ぶ。
そうだ、一口でいい、一口食べろ、びの。
心はまるで白雪姫に出てくるリンゴを渡すお妃のような気持ちだ。
「あー、美味しい」
「いくらでも食べられそうだね」
びのはそのあとも、黙々とぱくぱくとお雑煮を食べ続ける。
よし、このままいけば……
「幸せだ。お腹一杯。あとは歯を磨いて寝るか……」
美味しいお餅を食べれば、びのはきっとやる気を失うと思っていたが、ここまでうまくいくとは思わなかった。
計画以上の成功だ。
きっともう、ハードスライムのハの字も覚えていないはず。
結局私たちは異世界へは行かずに、就寝した。
…………
……
「覧、今日も一日、探索と行くか」
「お弁当も作ってもらったしね」
「よし、じゃあ、いざ、無限の異世界へ!」
「レッツ・ゴー」
オレと覧は、城壁前へとワープした。
「あ、やっぱりここに来た。良かった、ここにいて」
昨日一緒にワープした場所を覚えていたのだろうナルがいた。
口ぶりからして、どうやら私たちを待っていたようだ。
「あれ? ナルじゃないか。どうしたんだ? まさか、ハードスライムの狩場を誰かに教えたんじゃないだろうな?」
確かにあり得る話だ。
どこかの貴族がいいからハードスライムの居場所を教えなさい……と大金を積んだとか。
「違うよ、びの」
「じゃあ、どうしてここに居るんだ?」
「びのと覧、王子様が探してるんだよ」
ダウゴ王子が?
私たちを?
一体何のために……
「何かあったのか?」
「わかんない。だけど、一大事みたいなんだ。昨日の明け方から、兵士たちが二人を探しているんだよ。普通、明け方から人探しなんかしないもん。事情は分からないけれど、とりあえず、ナルと一緒に、城へ来て」
私とびのは顔を見合わせて、こくりと頷いた。
鏡でワープしようかとも思ったのだが、何が起こっているか知らない王城周辺にワープしたら、今度は何が起こるかわからない。
そんなに遠くもなかったので、私たちはナルについていった。
ナルについていくと、町のいたるところに私とびのの似顔絵が貼ってある。
ナルが言った一大事なのだろう。
「びのと覧を連れてきたよ」
城門前で兵士に告げるナル。
「何かあったのか?」
びのは兵士に尋ねた。
「良かった。早急に王子様にあって直接話を聞いてください。我々は他の兵士たちに勇者様が見つかったことを報告しますので」
どうやら、兵士達も詳しくは聞かされていないが、急いでいることには間違いないようだ。
私たちは王宮へと向かった。
…………
……
「何があった?」
びのは、王子に問いただす。
「びのと覧に挑戦状が届いた」
「挑戦状だと? 誰からだ?」
挑戦状に心あたりのないびのは、さらに王子に問う。
「魔王の一人、近況だよ」
びのは眉をひそめる。
「それは本物なのか?」
びのは疑いの目で訊く。
実は届いた挑戦状は王国を混乱の渦に巻き込みたい愉快犯が出したという可能性もある。
「本物だ。間違いない」
「何故そう言い切れる?」
「なぜなら、この挑戦状を受け取ったのは、この次期王様だからな」
え?
挑戦状を受け取ったのが、ダウゴ……
ありえないでしょ。
なんでそもそも、王子が直接挑戦状をもらってるんだよ?
この王宮の警備は何してたんだ?
ここの警備はザルなのか?
あるいは、全員魔王の手下とか?
「訊きたいことは山ほどあるが、とりあえず状況を教えろ」
びのも同じことを思ったのだろう、ため息まじりで王子に尋ねた。
「ああ。あれは昨日の晩、深夜をまわった頃だった……」
なんでホラー風に話始めるんですかね?
「この次期王様と大臣がこの部屋で下世話な……いや、とりとめのない話をしていたんだ……」
ピー。
何かの音がする……って、これウソ発見器だ。
ウソ発見器が反応したってことは、下世話な話してたんだね。
大臣と。
「ん? これは何の音だ?」
王子がきになったようで尋ねてきた。
私はとっさに鞄の中に手を入れ、ウソ発見器のスイッチを切る。
「あ、なんでもないです。さあ、話を続けてください」
ウソ発見器だと正直に話したら面倒くさいことになりそうな気がしたので、王子に話を促した。
「その時だ。急に窓の外で霧が出てきてな……」
霧……確か、近況は霧の体を持つ魔王だったはずだ。
……ということは、直接魔王がこの城に来たことになる。
「その霧が人の形になっていた……気が付いたら挑戦状が落ちてたんだ」
いや、そこだよ詳しく知りたいのは。
霧が人の形になっていて、そのあとどうなったの?
端折っちゃいけないところを端折らないで欲しい。
「気がついたら? まさか、気絶していたのか?」
びのが訊くと、まずいという顔をする王子と大臣。
あ、気絶してたんだ。
話を端折りたくて端折ったわけじゃなく端折らざる終えなかったってことか。
その考えはなかった。さすが、びの。
「そんなわけないだろ。な、大臣?」
「ええ。もちろんです。気絶するわけありません。我々は、戦ったんです」
声を震わせながら王子と大臣は確認をとるようにして言い合う。
大臣は戦ったって言うけど、もし、本物の近況なら物理も魔法も効かないんだぞ。
この二人は何とどうやって戦ったのだろうか?
己との恐怖心と戦った……とでもいうのか?
戦った結果、気絶ってこと?
「二人ともいつもより、声が半音上ずってるけど……」
「「そんなわけない」」
私が指摘するとむきになって反論する王子と大臣。
「へー、そうなんだ」
私は、バッグの中から、ウソ発見器を取り出し、スイッチを入れた。
「もう一度聞くけど、気絶してないんだよね?」
「「もちろんだ」」
王子と大臣、2人で声を合わせて頷く。
ピー。
ウソ発見器が反応する。
やっぱり気絶したんだな。
うん、ウソ発見器を使うまでもなく知ってたけどね。
むしろ、異世界でもウソ発見器が正しく動くかどうかのテストだったけどね。
ほぼ無敵の魔王と対峙して、命があっただけましだ。
「まあ、二人が気絶したかどうかは問題じゃない。大切なのはその挑戦状が本当であるということだ」
「そうだ。大切なのは、挑戦状が本物だということだ。まあ、次世代の国を担う次期王様と大臣が気絶などするはずないがな」
ははは、そうですね。
「確かに、問題は挑戦状だ。どんな挑戦状か見せてみろ」
「ああ、これだ」
びのは王子から挑戦状を受け取った。
私も後ろから覗きこむ。
勇者へ
つ
ギの
マン
ゲつまで
にこコ
マで
オイデ
こない
とし
しシゃ
ガデル
この暗号がとけるかな?
ヒント
こ
レハつ
近況
「『つギのマンゲつまでにこコマでオイデこないとししシゃガデル』から、『次の満月までにここまでおいで 来ないと死者がでる』までは解読できたのですが、ここが何処にあたるのか分からなくて」
大臣はお手上げ状態だという。
「ふーん、覧、この暗号どう思う?」
不敵に笑うびの。
もしかしてこの暗号、もうびのは解いてる?
私はびのから手渡され、もう一度最初から挑戦状を読み直した。
最後の
こ
レハつ
……がヒントなんだろうな……
「もしかして、『あれ』じゃないかと思うんだが……」
『あれ』?
「ああ、なるほど、なるほど。多分、びのの予想している通りだと思う」
私は大きく頷いた。




