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第3話 実験

 「実験に協力…………覧、最初からそれが狙いだっただろ?」


 疑いの目でこちらを見てくるびの。



 ばれたか。


「そんなわけないじゃない」


 平静を装って、ウソをついたついでに、吹けない口笛を吹く。


「おい、覧。嘘ってばればれだぞ?」


「うん、私が嘘ついてるってことがわかるくらいには、目が覚めてるね、びの」


「寝ぼけてたら、契約破棄していいのか?」


「ダメ。絶対」


 私は腕をクロスさせ、胸の前で大きなバッテンを作った。


「だと思ったよ……んで、実験は安全なんだろうな?」


「びのの頑丈な体ならね」


 アメリカンジョークで返す。


「うわっ、出たよ、マッドサイエンティスト。安全性を確かめずに、すぐ人体実験したがるんだから」


「うへへへ、びのの体ならいくら傷つけても問題ないよー……って、私、そこまでマッドサイエンティストじゃないから」


「あ、『そこまで』……ってことは、多少は自覚はしてるんだ」


「そりゃ、多少はね」


 いや、本当に、多少ね。


「良かったよ、自覚してくれて。覧は自分のことをマッドサイエンティストだって、一生自覚しないものかと思ってたんだ」


「2年もびのと一緒に生活していれば、なんとなくわかりますー」


 まったく、びのは酷いな、まったく。


「いや、2年じゃ気付かないと思ってた」


「日にちにして約730日だよ? 十分長いと思うけど……」


「そうか、ついに覧は自分がマッドだって気付けたか……お義兄ちゃんは嬉しいよ……ということで、実験なんか忘れて、今日はお祝いにしよう。何が欲しい? お義兄ちゃん特製の手作りケーキか?」


 びの手作りのケーキ……あれ、筆舌に語りつくせないほど、美味なんだよな……


 想像しただけでよだれが……


「……って、私の実験の話だよ。なんでお祝いの話しになってるの?」


「ちっ、気付いたか……」


 舌打ちをするびの。


 危ない、危ない。


 びのの常套手段、話のすり替えに誤魔化されるところだった。


「しかたねーな。やってやるか」


 びのは、私の頭を軽くぽんぽんと叩いた。


 キュン。


 私の胸キュンメーターが振り切れんばかりの胸キュンですわ。


「さすが、びの。じゃあ、今すぐ……」


 私は、びのの手をひき、びのを実験器具のほうへ連れて行こうとした。


「うん。今すぐ着かえるから、出てってくんない?」


「着かえてるところを最後まで見届けてあげてもいいんだからね?」


 なんなら、写真で撮影した上に、動画でも撮影してあげるんだからね?


 ついでに、加工や編集もしちゃうんだからね?


 販売・配布……はしないで自分だけで楽しんじゃうんだからね?


「あ、そーゆーの間に合ってます。出口はこちらです、お嬢さん」


 びのは私を紳士的に部屋の外へと誘導し、私を部屋の外へと出した。


 ここは冗談でも『最後まで見届けてください、お願いします』って言うところでしょ、びの。


 

 …………


 ……


「はい、びの、パーフェクト・プロテイン(抹茶味)」


「ん、サンキュ」


 びのは私が手渡したプロテインを一気にごくごくと飲み干した。


「それにしても、中学生が寝起きにプロテイン飲む?」


「朝ごはんだよ、朝ごはん」


「その朝ごはんをプロテインにしてるのが変だって言ってんの」


 中学生が朝からプロテインなんて、絶対おかしい。


「睡眠だって運動してるようなもんだろ? 運動した後はプロテインに決まってるじゃないか」


「それ、根本的に意味とり違えてるよ」


 本気で言ってるのが、怖いんですけど。


「意味をとり違えていても構わないぜ」


 びのは、すがすがしい笑顔でキメ顔をする。


「何で?」


「理由が欲しいからさ」


「理由? どんな理由?」


「覧がわざわざ栄養を考えて調合くれたパーフェクト・プロテイン(抹茶味)を摂取する理由がね」


「びの……」


 そうやって、私の心を弄ぶ。


 まったくもー、ずるいな。びのは。まったくもー。


「私、頑張って毎日プロテイン作るから」


 こうこたえるしかないじゃないか。


「ありがとう。ついでに、覧と一緒に学校登校したいんだが」


「学校は時間の無駄。ついでに学校行くほど私、軽い女じゃないんで……と言いたいところなんだけど、今日は行こうかな? 学校」


「おいおい、マジかよ? 明日の天気は、きっと槍が降ってくるに違いない……天之逆矛か、ロンギヌスの槍か、アキレスの槍か……何だと思う?」


 びのは、窓から空を見上げ、冗談まじりで私に尋ねた。


 私が学校に行くだけで、なんで槍が降ってくるんだ……


 確かに学校へは旅乃家に来てから登校してないけどさ。


「何、馬鹿なことを言ってるの、びの。全部の槍に決まってるじゃない」


 あえて話に乗ってみる。


「確かに、槍が降ってくるなら全ての槍だな!!」


 お前も話に乗っかるんかいっ!


「そんなわけないでしょ。私が学校行くからって、そんな伝説級の槍は降ってきません」


 テレビのレポーターが『天気予報をお伝えします。発達した低気圧とともに、戻衛覧さんが学校に登校したので、明日の天気は槍が降るでしょう。降ってくる槍の種類ですが、天之逆矛、ロンギヌスの槍、アキレスの槍など伝説級の槍ばかりでしょう』……って、どんだけ異常気象なんだ。


「伝説級かどうかはともかくとして、槍は降ってくるかもしれないぜ」


「ぜったいに、絶対に降ってきません!!」


 真面目な顔で私に語りかけたところで、同意なんかしてあげないんだから。


 ……ってか、この展開、物語の最終回みたいだな。


 悪いボスが、ふははは……学校へ行くだと? お前が学校に行けば、槍は絶対に降ってくるのだ。


 私、学校に行くの諦めません。槍は絶対に、絶対に降ってきません。ぜったいに、絶対に降ってきません……みたいな。


 私が行くのはびのと同じ中学校だから、小学校にはいかないんだけどね。


 そのことはびのには黙っておこう。


「なあ、覧、カオス理論って知ってるか?」


 どうしたんだ? 藪から棒に。


「最初の設定がほんのちょっと違うだけで、結果に大きな差が出る理論でしょ?」


「じゃあ、カオス理論のバタフライエフェクトは?」


「蝶々の羽ばたきが地球の裏側で竜巻を起こすかもしれないという効果のことでしょ?」


 カオス理論とバタフライエフェクトがなんだっていうんだ?


「この理論に基づけば、覧が、学校行くなんて言ったら、本当に槍が降るかもしれない」


「なんで、私が学校に行くと宣言すると、槍が降るわけ?」


 私が学校に行って槍が降るのであれば、もう学校へは一生行かない。


 風が吹けば桶屋が儲かるレベルでありえないことだけど。


「オレが今日中に槍を何本か買っきて降らすからさ。そうすれば、覧が学校に行ったら槍が降る理論が成立する」


「無理矢理こじつけるのは科学者のすることじゃないよ」


 私は大げさにため息をつき、あきれ口調で返答した。


 念のため、無理矢理こじつけることをデータの改ざんだと教えておいたほうが良いだろうか?


「オレは科学者じゃなく、ただの中学生だから、問題ないだろ?」


「ただの中学生が槍が降るほど何本も購入したら、それはそれで問題になりそうだけどね」


「ははは、違いない」


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