第28話 洞窟
2020/7/31 誤字を訂正しました。
「もう、図書館には用ないよね?」
「多分な」
「それじゃあ、位置情報は消しておく」
位置情報は消してから上書きしないといけないから、先に消しておこう。
「ああ、いいぜ」
「次は、城門前か……」
「昨日、びのが兵士と話している時に、登録しておいたから、一瞬で行けるよ」
「図書館に来たときは、人通りは少なかったから目撃者もいなかったけど、城門前は、すごいひとだかりだぞ。もし見つかったらパニックになるだろ?」
「勇者の特殊能力ってことで、きっと誤魔化せるよ」
「適当な誤魔化し方だな」
「じゃあ、時間かかるけど、城門前まで歩く?」
私は意地悪くびのに質問する。
「ワープでよろしく」
「そうでしょ」
時短が好きなびののことだ。
絶対そうこたえると思ってた。
私たちはコンパクトを覗き込み、城門前の橋のところに移動する。
「え? いきなり人が現れた!!」
「モンスターじゃないか?」
「え? モンスターですって?」
大声のするほうに視線を向けると、綺麗なお姉さんが私たちの出現にびっくりしていた。
うん、これ、パニックになりそうだ。
「だから、ワープしたら、みんなびっくりするって言ったのに、びのがワープしたいっていうから……」
私はびののせいにする。
「いや、覧、言ってなかったよな。むしろオレが心配していたことだよな?」
「あはは……お姉さん、気にしないでくださいね。モンスターじゃなくて、これは新しい魔法なのです……そう、魔法ギルドがごにょごにょ……それじゃあ、失礼します」
適当に誤魔化し、爽やかに挨拶をすると、木札を見せて走って城門の中へと入った。
人生で一番早く走ったんじゃないかってくらい、走りに走った。
「次からは、人気のないところにワープしてくれよ」
びのは涼しい顔でお願いをしてきた。
「はぁはぁ……うん、今から、登録、しなおしてくる」
私は息も絶え絶えで返事する。
「了解。じゃあ、オレは、ナルを探しておくから、登録し直したら、城門前に来てくれ」
もうわがままだな、びのは。
私は人通りの少ないところを探し登録した。
大通りから少し離れたところから少女がスタスタとこちらに近づいてくる。
あれ? あれはナル?
あるいは、魔王・近況のそっくりさん。
私は近づいてくる少女を警戒しながら様子をうかがう。
「あ、昨日のお姉さん。こんな人気の少ないところで何してるの?」
ナルは裏路地にいた私に声をかけてきた。
ワープの場所を登録している……とはもちろん言うわけもない。
「ナルに言いたいことがあるんだ」
ここで私がびのの彼女だからちょっかいかけないでくれる……って釘をさしておくか?
いや、それだと私が余裕のない女に見られるし、このことがびのにばれれば、私の印象も良くなくなるかもしれない。
「何? 改まって?」
ナルはきょとんとして私の言葉を待っている。
「びのと会った?」
「びのって、昨日一緒にいたお兄さん?」
「うん、そう。貴女を探しているはずなんだけど」
「ううん。今日はまだあってないよ」
すれ違いか……
ナルには頼みたくはないのだが、他に似た仕事をしている人がいないなら仕方ない。
とりあえず、ハードスライムの居場所を知ってるナルをキープしておかなければ。
「それじゃあ、ハードスライムの住処を教えてもらえる?」
「え? あそこは初心者が行くところじゃないよ」
ナルは悪いことは言わないからやめた方が良いと忠告してきた。
「私はもう初心者ではないの。ハードスライムも倒したしね」
「本当にあのハードスライムを倒したの?」
「うん、本当だよ。びのと一緒だったけどね。だから、ハードスライムの住処を教えて欲しいの」
勝ち誇ったかのように私は伝える。
「分かったよ。でも、他の人には秘密ね」
「うん。秘密」
私はお姉さんぶって、かがみこみ、ナルの前で内緒のポーズをする。
「今から行くの?」
「ええ、今から行くの」
「じゃあ、ついて来て」
「ちょっと待って。まだびのが来てない」
「覧」
遠くからびのが手をあげて走ってくる。
まったく、今までどこに行ってたんだ?
「……ちょうどびのも来たから、教えてほしいの」
「うん、分かった」
「もう、びの、何処行ってたの?」
「ナルを探して聞き込みをしていたんだ。まさか、覧のほうがはやく見つけるとは思わなかった」
「そう。もうナルには話をつけてある」
「サンキュ、覧」
もっと感謝してもいいんだからね?
「それじゃあ、ついて来て」
私たちは、ナルの後についていった。
「なあ、ここ、昨日のスライムの狩場じゃないか?」
「うん、そうだよ。そこから、険しい道を辿っていくと……」
私たちは、街道から外れた道なき道を進んでいった。
…………
……
「はい、到着」
2時間ほど道なき道を行きやっとたどり着く。
正直、私の記憶力をもってしても、案内なしでここまで来れるかどうかわからない。
「はい、到着……って、モンスターなんかどこにもいないじゃないか」
びのは憤慨してナルにつっかかる。
「この洞窟の中にハードスライムがうじゃうじゃいるんだよ」
「本当か?」
「それじゃあびの、索敵魔法を使ってみて」
「そうだな。索敵魔法!!」
びのは風魔法を応用して索敵魔法を使う。
「おいおい、ハードスライムどころかモンスターの気配すらしないぞ……もしかして、オレ、きちんと魔法がつかえてないのか?」
「え? 本当に? 索敵魔法」
びのが魔法を使えていない……いや、そんなことはないはずだ。
目を閉じ、半径12メートルを立体的に把握する。
周囲にモンスターの気配はない。
たしか、ナルは洞窟の中だと言っていたな……
MPを大量に消費し、より広い範囲で周囲を探る。
洞窟の中には何もいない。
「本当だ。びのの言う通り、どこにもモンスターがいない」
私は目を開けた。
「どうなってるんだ?」
びのは激昂してナルに尋ねた。
まさか、ナルが案内しすぎて、狩りつくしたってオチじゃないだろうな。
「今は昼間だからね」
ナルは落ち着いた様子でこたえる。
「昼間だといないのか?」
「昼間、ハードスライムが行動してるのは冒険者にとっては常識でしょ?」
「オレ達は、知らなかったぞ。モンスターがいないところにオレたちを連れてきたのか?」
「え? 昼のハードスライムがいないうちに罠をしかけるんんじゃないの?」
ナルは当然のように訊き返す。
「罠? そんなもの仕掛けないぞ。すぐさま狩りたくてここに来たんだからな」
「お兄さん、知らないみたいだから教えておくね。『ハードスライムの生態をしらない冒険者はハードスライムを狩らない方がいい』……昔からのことわざ」
「なるほどな」
「分かってくれた?」
「いや、モンスターが最近出始めたばかりなのに、そんなことわざがあるわけないだろ」
「ばれたか……」
頭をポリポリ掻きながら、舌を出すナル。
そんなことしても、全然可愛くなんかないんだからね。
「びのにウソは通じないから。正直にいいなさい」
私はウソ発見器のスイッチをオンにした。
「いや、本当に夜まで待つしかないんだって。奴らは寝床に戻るためにうじゃうじゃとでてくるよ」
ウソ発見器がならないところをみると、どうやら本当のことを言っているようだ。
「それじゃあ、何故先にそれを言わなかった」
「さっきも言ったけど、罠をしかけると思ったんだ。それに夜紹介しろって言われたならお断りしてたよ。だって、お兄さんたち、狩りは昨日が初めてだったんでしょ? もしも数で押されてお兄さんたちが負けちゃったら、ルナまで食べられちゃうじゃない」
確かにその通りだ。
私たちは、昨日一匹だけハードスライムを倒しただけなのだ。
もし何匹もハードスライムが現れたら、ひとたまりもないかもしれない。
「で、どうするの? 一応ハードスライムの狩場を教えたけど、このまま夜まで待つ? それとも一度戻ってからまた来る? 待つ場合は待機料金が発生して、戻ってまたここに来るなら、その分また料金が発生するけどね」
どちらにせよ料金が発生するシステム……
これはナルに一杯食わされたな、びの。
「覧」
「オッケー。登録だね?」
私はこの場所の座標を登録する。
「登録? 登録って何を登録するの?」
聞き慣れない言葉にナルが訊いてきた。
「あ、こっちの話だ」
実は案内なしに一瞬でここに来れることがばれたらナルの商売あがったりだろうしな。