第27話 情報(酔狂・大凶)
2020/7/31 誤字を訂正しました。
「酔狂は、見た目セクシーなお姉さんらしいよ」
私は疑問を持ちながらも、本を読み続ける。
「へー、セクシーなんだー。会ってみたいなー」
魔王の説明をしているのに、まるで他人事のように話を聞いているびの。
王子に気が向いたら討伐するって言ってあるからかもしれないが、びのはどこまでも暢気で悠長だ。
「私の方がセクシーに決まってるけどね」
魔王なんかに負けていられないため、張り合った。
「そりゃ、覧にかなうほどセクシーな女性はいないだろ」
自分で顔がほころぶのがわかる。
そうだよね、私ほどセクシーな女性なんていないよね。
もう、びのは正直なんだから。
「で、どんな能力なんだ?」
「酔えば酔うほど強くなる能力」
「逆を言うと、酔わせなければ勝てる……ってことか?」
「もしかするとね」
ヤマタノオロチは酔わせて勝ったけど、今回は酔わせなければ勝てるのならこの魔王は一番楽かもしれない……
「なるほどな。最後の大凶は?」
「大凶は、ページが破れていて、分からない」
「そうか……」
びのは適当にぱらぱらとめくる。
「あれ? オレにも読めるぞ」
「え? 言語能力がないのに?」
私の言語理解能力がないと読めないものだと思ったが、びのにも読めるようだ。
「なんでだろう?」
「全値全能の能力かな?」
「便利な能力だ」
もしそうなら、私が代読する必要もなかったじゃないか。
「……ん?」
びのはぱらぱらと本をめくると、何かに気付いた様子。
一体何に気付いたんだろう……
「どうしたの、びの?」
不思議に思った私はびのに尋ねた。
「こういう書物って、どっちかっていうと、預言書めいていて、予測的な感じで書いてあるのかと思ったら、断定的な文章が多くないか?」
「あ、言われてみれば、そうかも」
まるで魔王達の能力を直接間近で見たような書き方だ。
「それに、この本の字体、覧の書く字に似てないか?」
そんなわけあるはずがない。
そう思ってもう一度本に目を通す。
似てると言われれば似てるかもしれない……
ただ、インクがにじんでいるから判別しづらい。
「似てるかもしれないけど、きっと別人だよ。そもそも、ジオフの世界に来たことがはじめてなんだから」
「そうか? 文体も覧の書く論文風だったからついそう思ってしまった」
「偶然だよ、偶然」
「うーん、そうかなあ? 保存状態が良かったのか、使われている紙はあまり古くないし、カビ臭くもない。確認するが、覧がオレに内緒でここにきて、魔王の特徴を書いたっていうドッキリではないんだよな? サプライズパーティー的な」
「そんなことしません」
びのの誕生日までまだ先じゃないか。
それなのに、なんでこんな手のこんだドッキリをしなければいけないんだ……
「なんか、しっくりこないんだよなー」
「ここにある本はきっと複本なんだよ。だから保存状態がいいんだ。原書は城にあるんだよ、きっと」
図書館に入るにも厳戒態勢が敷かれていることから推測するに、紙自体が高価なのだろう。
そうであるならば、ビンテージの原書が図書館にあるとは考えにくい。
「がせねたじゃないよな?」
「うーん、そればっかりは分からないね。伝説って眉唾ものだし……」
「ひとまずは、ここに載ってる情報を信じてみるか。何も知らないよりはいいしな」
「そうだね」
その通りだ。
情報があるということはそれだけで成果なのだ。
「それにしても、謎だよね……」
「何がだ? 大凶の能力か?」
ページが破れていたからそれも気になる。
「それも気になるけど、それよりもこの原本が一体誰によって書かれたのか……だよ」
「昔、未来を視ることができる予言者がいたんじゃないか?」
「予言者か……」
確かにその説明ならつじつまがあう。
本とは誰かのために何かを残すための手段の一つだ。
偉大な予言者が未来に起こることを現代の私たちのために書にしたためた……
確かにあり得るだろう。
「こんなに断定的に書く預言者も珍しいけどな」
「でも他には考えられないでしょ?」
「うーん、そうだな……いや、考えられるぞ」
びのは何かひらめいたようだ。
表情から察するにあまりいいひらめきではないな、うん。
「一応、伺いましょうか……」
「この世界がループしてて、未来のオレたちが過去のオレたちに送ったメッセージ説」
「ふふふ……さすが中二病のびの。そんなことあり得ないよ」
真面目な顔をして私に言うびの。
冗談がくると分かってはいたが、この戯言は面白すぎる。
この世界がタイムリープしてる?
そんなはずないじゃない。
「そんなにウケるとは思わなかったぜ」
「ははは……私もこんなに笑うとは思わなかったよ」
「ま、この本の筆者はあんまり気にしなくていいんじゃないか?」
「そうだね」
確かに、本が誰の手によって書かれたかは今回の場合あまり大切ではないのかもしれない。
「魔法については?」
「昨日私がインストールした通りだね。特に目ぼしいことは書いていない」
「そうか」
「びのは覚えるの? 魔法」
「そうだな……」
「なんなら私の魔導書貸してあげるよ」
これが一番手っ取り早い魔法の覚え方だ。
何の努力もなく一瞬で覚えられる。
「いや、それは勘弁。なんか、生き物が体の中に入ってくるみたいで気持ち悪かったし――」
えー、文字が体に入ってくる感覚は、最初は気持ち悪かったけど、終わってみたらそんなでもなかったよ。
まあ、びのがしないというなら無理には勧めないけどさ。
「――それにその魔導書で魔法を覚えてしまうと、その魔導書を持っていないと魔法が使えないんだろ?」
「そうだね」
確かに、この魔導書で魔法を覚えると、魔導書が手元にないと魔法を唱えられないという弊害もある。
「じゃあ、やっぱり地道に覚えてく?」
「それが一番の近道だろ。魔導書も杖も持ってないけど」
「あ、それなら大丈夫。手からも直接出せるから」
「まじか?」
「マジだよ、びの」
魔導書や杖はあくまで、魔法を強化する補助的な役割が大きい。
剣なんかなくったって、素手でも攻撃はできる……みたいな感覚だ。
「いくつか覚えておけば? 教えてあげるよ」
「じゃあ、ハードスライムを倒したいから、氷魔法だけは覚えておこうかな」
確かに、ハードスライムを一匹倒すだけで、一気にレベルアップから、氷魔法は覚えておいて損はないはずだ。
「それなら、風と水魔法を覚えればできるよ」
よし、このままびのに魔法を覚えさせちゃおう。
「ちなみに、風魔法を覚えると、索敵魔法も覚えられるよ」
「一石二鳥だな。風魔法」
「そうだね。ちなみに、空気中の魔素は見える?」
「どうやって見るんだよ?」
「目を凝らして空気を見るとだよ」
目を凝らして空気を見る……なんて中二病っぽいセリフだ。
自分で言って恥ずかしい。
びのは私の羞恥心など気にすることなく、空気に目を凝らす。
「ああ、なんとなく見えてきた。なんか、3色ないか?」
私も目を凝らすと、無色、水色、茶色の3色が見えた。
さすが天才びの、中二病のような説明でもすぐに理解してくれる。
「それじゃあ、無色透明の魔素を手のひらに集めてみて」
「集めるって、どうやって?」
「イメージするんだよ。魔素が手に集まってくる感覚」
私はびのの目の前で無属性の魔素を集め、ゴルフボール位の大きさにした。
「なるほど、イメージか……」
びのもイメージをして魔素を集める。
「お、イイ感じに集まってきてるね。さすが、びの」
「だろ!」
サムズアップするびの。
「このイメージをジオフの世界では、無属性の魔素を集めるといいます」
「へー、魔素を集める……ね」
「ああ、びの、それだと魔素を集めすぎかも……練習なんだから、もっと小さくしないと、この図書館が吹っ飛ぶよ」
それこそ、テロだと疑われるレベルだ。
「了解」
私が指摘した通り、びのは指先に集めた魔素を分散させ、ピンポン玉くらいの大きさにした。
「あとは、呪文を唱えながら、その魔素のボールをMPを使って放出すれば……」
「「エア・ウィンド」」
ぶわっ。
「きゃあ!!」
2人で同時に魔法を唱えたので、図書館の中で、突風が巻き起こり、司書さんのスカートが風に揺れた。
「図書館で魔法の練習はお控えください」
「「すみませんでした」」
スカートが翻りそうになった司書さんに怒られたので、2人で同時に謝り、本を返してそそくさと図書館を後にする。
「びの、すごいね。風魔法、もうできてるよ」
「なんとなく分かってきた。水魔法は、空気中の水色の魔素を集めればできるということか?」
「うん、そうそう」
「ウォーター・ウォール」
びのは道すがら私の前で水魔法をかける。
「あとは右手にエア・ウィンド、左手にウォーター・ウォールをそれぞれ唱えて、それらを融合させると氷魔法になるよ。とりあえず、私はアイス・フリーズって名付けてる」
「アイス・フリーズ」
びのは私の言ったとおりに氷魔法を唱えた。
「へー、結構楽だな」
「もう、教える必要ないね。さすが、全値全能の能力者」
教えたことは何でもすぐに吸収しちゃうね。