第26話 情報(近況・増強)
「すごいな。転移魔法といっても過言ではない」
びのは独りごちる。
私の道具、もっと褒めてもいいんだからね?
図書館の前は人通りも少なく、私たちが転移してきたことに驚く人もいない。
昨日のように入り口で木札を見せて、図書館へと入る。
「昨日、レファレンスをお願いしていた者だ」
「あ、はい、魔王と魔法についてですよね? ここに資料がまとめて置いてあります」
カウンターにいた人は昨日とは違う人だったが、すぐに分厚い本を十冊ほど渡された。
レファレンスを使うだけで、通常は金貨1枚もかかるのだ。
きっと、レファレンスを利用する人間は少ないのだろう。
「ありがとう。この本は家に持って帰っていいの?」
びのはお礼をして、貸し出しできるかを尋ねる。
「いいえ、それはできません。あちらの閲覧スペースでご覧ください」
お姉さんは木で作られた机と椅子を手のひらで案内した。
あ、やっぱりか。
この世界では本そのものが貴重なんだろうな……
だから貸し出しをして失くしたとか汚したとかを防ぐために、閲覧スペースでしか読むことはできないということか……
本を持ち、カウンターから離れ、閲覧スペースで私に本を渡す。
「びのが読めばいいじゃない?」
「適材適所だ。覧は速読ができるだろ?」
「びのだってできるじゃない……」
「オレのは覧の見様見真似だから、覧より遅いだろ。それにオレには覧のような言語能力がなかったはずだ。よろしく頼むよ」
「もう、しかたないなー、びのは」
びのに頼られた私は嬉しくなって、本をぱらぱらとめくりながらすべての文字に目を通した。
「どうだった?」
「すごいよ。びの。魔王のことが色々と分かった」
「例えば?」
「魔王、ヨンキョウの名前。魔王は、近況・増強・酔狂・大凶の4体で、それぞれ特殊な能力を持っている」
ここまで詳しく書かれているなんて思わなかった。
一体いつの時代に誰が書いたのであろうか?
「そいつらの能力は分かってるのか?」
「うん。本によると4体のうち、3体までは分かってるみたい……」
「ほう、それは大収穫だな」
「一人ずつ解説を読んでいくね」
「よろしく頼む」
「まず、魔王・近況。実体がなくて、霧の姿をした魔王みたい」
「へー、霧なら、魔法で吹っ飛ばして霧散させればいいじゃないか」
「それは無理だね」
私はきっぱりと断定した。
「なんで?」
「霧状の近況には、物理も魔法も効かないからだよ」
ヒューっと口笛を吹くびの。
「それならどうやて倒すんだ?」
「近況は、私たちの記憶や能力をコピーするみたいだから、倒すなら、私たちに化けた後だね」
「そうか。それなら合言葉でも決めておくか?」
「記憶はもちろん、次にする行動もコピーできるみたいだから、今、合言葉を決めても意味はなさそうだね……」
「うーん、魔王と人を見分けることができればいいんだが……」
考え込むびの。
「そうだ、覧の索敵魔法を使えば……」
「さすがびの、頭いい……と言いたいところなんだけど、それは難しいかもね」
「なんでだよ? 索敵魔法は敵を判別する能力のはずだろ?」
「表向きは敵を索敵する能力なんだけど、実際の索敵魔法は近くにいる生き物を探索する能力で、敵かどうかは判別できないんだ」
「覧オリジナルの融合魔法でどうにかならないのか?」
「びの、オリジナル融合魔法ってのはね、そんな万能のものじゃないんだよ。敵か味方かを判別するオリジナル魔法なんて、いつ完成するかわからないよ」
そんなオリジナル魔法を作るとしたら、何年かかるか分からない。
もしも、2~3日でそんなオリジナル魔法が作ったとしたなら、狂気の沙汰だ。
「そうなのか……」
がっかりするびの。
「ごめんね」
なんとか作ってあげたい気もするけど、さすがに2~3日じゃ無理だ。
「いや、覧が悪いわけじゃない。オレが魔法はなんでもできると勘違いしていただけだ」
「もし、魔法で敵か味方を判別しようとするのであれば、それは止めておいた方がいいよ」
「そうか。対策は難しいか……」
深刻な表情で考え込むびの。
久しぶりにそんな表情をみた。
「すぐに近況と戦うわけじゃないんだから、実際に対峙するまでに対策を考えたらどうかな?」
「そうだな。まだ時間もあるし、他の魔王のこともあるからな。それじゃあ、他の魔王のことも考えよう」
「それじゃあ、次、魔王・増強の情報ね」
「ああ、よろしく頼む」
「見た目は鬼の女の子らしいよ」
「女の子か……年は取ってるけど体は成長しないのか、あるいは本当に女の子なのか……」
びのは手を組んで、うんうんとうなりだした。
何かひっかかることでもあったのだろうか?
「ロリババアなのか、幼女なのか……って、それ重要?」
「いや、重要じゃないけどさ、ちょっと反省してるんだ」
「反省? 何に反省してるの?」
今までで反省するべきことなんてあっただろうか?
「オレら、全然警戒してなかったなって……」
警戒? ああ、そういうことか。
「もしもナルが増強だったら、ジ・エンドだったってこと?」
「ああ。魔王が街中の民衆に紛れることがないとも言い切れないだろ?」
あ、いいこと思いついた。
「そうだね、幼女だとびのは警戒しないもんね」
「おい、言い方。まるでオレがロリコンみたいじゃないか」
「あれ? ロリコンじゃないの?」
ここであおれば、必ずびのは……
「違うからな」
……って、いうよね。
よしよし、計画通り。
「これから幼女は言うまでもなく、びのに近づいてくる人は警戒してね。近況は化けてでることもあるみたいだから」
「ああ。もちろんだ」
くくく……これで、女はびのに近づきにくくなった。
作戦成功。
「ところで、目の前にいる覧は本物だよな? まさか、近況ってことはないよな?」
びのは、自分が持っているロングソードを構えながら訊く。
あ、そうくる……
そうだよね。近況をだしたら警戒するよね……
「当たり前じゃない」
うう、私自身もびのに近づきにくくなった……
作戦失敗。
欲張らずに、ロリだけを話題にすればよかった……
「分かってる。警戒を怠らない姿勢を見せて安心させたかっただけだ」
そっか、それなら安心だ。
いや、安心じゃないから。
「ちなみに、増強が鬼っていうのは、どういうところが鬼なんだ?」
「常時おでこに角があるみたい……」
「なるほど……ってことはこのジオフの世界に鬼種族はいないってことか……」
「鬼種族に限らず、人獣とかファンタジーがいない世界だから。もし、ファンタジーな生き物を見かけたら、それは全てモンスターだよ」
「あーあ、結構期待しちゃってたんだけどなー。友好的な海獣族、鬼種族に、ケモミミに、ゴーストに、機械種族に」
それで、女性と仲良くなってハーレムでも築こうとしていたとか?
びの、そうは問屋が卸さないよ。
「さすが中二病」
私は呆れながら言う。
「いや、それ関係ないから。んで、魔王・増強の能力は?」
「相手のステータス値をコピーした後、100倍にして自分の能力にする能力だね」
自分で文献を読んでいて鳥肌がたった。
相手のステータス値をコピーして100倍にするって、理論上最強じゃないか。
相手が強ければ強いほど、自分も強くなるということだ。
そんな強敵に勝てるのか?
「おいおい、さすが魔王。物理も魔法も効かない上に背格好をコピーする魔王の次は、能力100倍返しかよ、こりゃ俄然やる気がでるな」
「そうだね」
いや、怖いよ。
100倍でかえされるんだよ?
なんでそんなやる気だしてるの……
「びの、やる気が出てるのはいいんだけど、どうやって倒すの?」
「そうだな……こちらから攻撃しなければ相手も攻撃できないとか?」
「そんな都合のいい展開ある?」
ゲームじゃあるまいし……
「じゃあ、ステータスがマイナスの人間を探すか? そのステータスがマイナスの能力をコピーさせて勝つ」
「びの、冗談やめてよ。子どもの平均が10なのよ? ステータスがマイナスの残念すぎる人間なんて、この世界にいるはずないじゃない」
そんな都合よい世界じゃないだろう。
それに、もしこの世界にステータスがマイナスの人間がいたとしても、この世界では生きていけないだろうし。
「そうだよなー。じゃあ、どうやって倒すかだよなー。とりあえず保留にして、他の魔王は?」
なんか問題がどんどんと山積みになっている気がするけど、これでいいのかな……




