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第24話 ハードスライム

私はすぐさま目を開け、右脚を見る。


そこには、鈍色のゲル状の細長い触手のようなものが植物のつるのように絡みついていた。


おそらく、ハードスライムの触手のようなものだろう。


「きゃー」


得体のしれない物体に、思わず声を上げてしまう。

 

「大丈夫か、覧?」


びのがこちらを振り返った。


「今のところは、大丈夫」


いつピンチになってもおかしくない状況ではあるが。


索敵魔法で大きな生物に集中してしまい、周囲の細いロープ状の触手には気付かなかったようだ。

 

 「ちっ」


 とりあえずは、ここから何とか抜け出さなきゃ……


右脚に力をいれてもがこうとするのだが、もがこうとすればするほど、右脚に力は入らず、代わりに触手はだんだんと太くなっていった。


もしかして、こいつ、私のHPを吸って大きくなってる?

 

そう考えれば、ハードスライムがまとわりついてるところだけ力が入らないのも説明がつく。


まずは、落ち着け。


こういう時こそ、落ち着くんだ。


魔法を唱え、触手を斬りさえすれば、今なら逃げることもできるだろう。

 


「ウォーター・スラッシュ」


私は本を構えて呪文を唱えた。

 

ずしゃ。


水の刃がハードスライムのつるの根本にあたった音が確かに聞こえた。


やったか?


そう思ったのも束の間、水の刃だけが無残にも、虚空へと消えていった。


ダメだ、私の魔法じゃ傷一つ与えられない。


「ごめん、びの。私の魔法じゃ全然斬れそうにない」


「それなら、オレが斬り落としてやる。おらっ」


びのはロングソードを振りかぶって、ハードスライムに斬りかかった。


ぼよん。


「だめだ。オレの剣でも斬れない……」



表面は固く、中は柔らかいゲル状の触手は、びのの力をもってしても斬り落とすことができない。


どうする?


どうすればいい?


もはや触手は合体をしていき、下半身はすでにすべて飲み込まれ、上半身をも飲み込もうと迫ってきていた。


このままだと飲み込まれるのは時間の問題だ。


私がどうするかを考えていると、視線の先に鈍色をした球体が現れた。


「びの、後ろ」


「これ、ナルが言っていた、ハードスライムの本体か……」


「きっとそうだよ」


「オレの力でも斬れないなら、それは逃げろっていうわな」


ナルの言葉に納得するびの。


「私はもう、逃げられない状況だけどね」


軽口をたたいてみたが、状況は一変するはずもない。


さて、このままだと私は捕食され、本当に飲み込まれ、最悪死んでしまう。


「それじゃあ、刺してみたら?」


「そうか、一点集中攻撃か」



ロングソードを逆手に持ち、びのは思い切り振り下げた。


ぼよん。


「うわっ」


ハードスライムは反作用をうまく働かせたようで、びのは3メートルほど吹っ飛び倒れた。


「びの、大丈夫?」


「ああ、なんてことはない」


びのは倒れながら言う。


「良かった」


顔には土や草がついていたが、たいしたダメージではなかったようだ。


びのはロングソードを杖代わりにして立ち上がる。


さて、どうやって倒すか……


斬っても、刺してもダメ……か。


さて、どうする?


私が考えてる間にも、私の下半身を飲み込んでしまったハードスライム。


制限時間はそんなに長くはない。


ハードスライムはゲル状のモンスターで固さと柔らかさを備えもつモンスター。


その特性を活かして、攻撃の威力を分散したり跳ね返したりしているようだ。


分散……


そうだ、ゲル状だから厄介なのだ。


まずはゲル状じゃなくするのが大切だ。


それなら……


「アイス・フリーズ」


私は合成魔法を唱えた。


魔素をそんなに集められなかったため、先ほどの威力には及ばなかったが、ハードスライムの一部を凍らせることに成功した。


よし、凍った部分を斬り落とせるかもしれない。


「びの、凍った部分なら斬れるかも」


ハードスライムは私の言葉に反応し、摩擦熱で氷を溶かそうとする。


 私の言葉を理解したのか?


もしそうであるなら、頭のいいモンスターだ。


「了解。くらえっ」


でも、遅い。


摩擦熱じゃ、簡単に溶けないよ。


シャキーンという音とともに、ハードスライムは真っ二つになった。

 

 

ぴかっ。


急にまばゆい光が目に飛び込んできたと思ったら、ハードスライムは虚空へと消えていった。

 

 

 

「覧、大丈夫か?」

 

「うへー、一張羅の白衣がべっとりとして気持ち悪いよ」

 

 私の全身はほぼほぼ粘液にまみれていた。

 

 べとべとして気持ち悪い。

 

 帰ってシャワー浴びたい。


「生きてて良かった。覧、怪我はないか?」

 

 私は一通り自分の体を確認する。

 大丈夫そうだな。

 持っていた魔導書は装備の効果だろうか?

魔導書は、まったくべとべとしていない。

 

「うん、怪我はないよ。すっごい疲労感はあって、生臭いけどね」

 

 あ、失敗した。

 ここは、大げさに怪我した、おんぶ~って甘えることもできたじゃないか……

 何をやってるんだ、自分。

 

 

 

「とりあえず、無事で良かった」

あ、でも、この生臭い私をおんぶしたら、びのも良い気分じゃないか。


それにびのを心配させるのは良くないことだ。


怪我したと嘘までついてびのとの信頼関係が壊れてしまったら元も子もない。


びのの真剣なまなざしをみて思い返す。


「そうだね。この粘液が顔まで来て、飲んじゃったらと思うとぞっとするよ」


この生臭い粘液でおぼれるなんてことあり得ないだろうけど、もしあったとしたらゾッとする。


「これ、ハードスライムだろ?」


「多分ね。倒すと、スクロールに影響するんでしょ?」


「本当かどうか検証してみよう」


びのはバッグからスクロールを取り出し、ステータスをチェックした。


「どうだった?」


私はわくわくしながらびの後ろからスクロールを覗き見る。



旅乃 びの(たびの びの)LV50 身長:172cm 体重:58kg

 HP:3000(+0)

 MP:3000(+0)

天職:勇者 レア度:☆☆☆☆☆☆☆

 筋力:3300(+300)

 体力:3000(+0)

 耐性:3000(+0)

 敏捷:3000(+0)

 魔力:3000(+0)

 魔耐:3000(+0)

 運 :3000(+0)

 技能等:全値(ぜんち)全能(ぜんのう) レア度:☆☆☆☆☆☆☆


 「一気にレベルアップだね」

 

ハードスライムを倒しただけで、まさかのLV50。


 この世界のレベルアップって結構楽勝なのかもしれない。


 「スライム5匹とハードスライム1体しか倒してないのにな」


 「私もレベルアップしてるかな?」


 「さあ、どうだろうな」


 私は手のべたべただけウォーターの魔法で洗い流し、スクロールを開いた。


 私のLVは、1のままだ。


 「どうだった?」


 「ダメだった。少しも上がってないよ。私もハードスライムと戦ったのに……」


 アイス・フリーズをしたんだから、少しくらい変化があってもよさそうなものなのに……


 「ハードスライムのとどめを刺したのは、オレだからってことかな」


 「残念」


 びのが言うように、どうやらとどめを刺した人のレベルが上がるみたいだ。


 次にハードスライムが出たら、とどめは私に譲ってもらおう。

 

「とりあえず、家に帰るか」


「そうだね。この体中のべとべとをとりたいし」


シャワーも浴びたいし、白衣を洗濯したい。


こびりついた生臭い匂いが、空気にさらされて血なまぐさくなってるけど、洗ったら取れるかな?


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