第22話 スライム
「それじゃあ、狩りを始めよう、覧」
「うん!」
よし、ここから二人きりの、モンスター狩りだ。
びのにいいところを見せて、尊敬されるぞ!!
いや、女の子らしく、わざとピンチに陥って、びのが王子様のように助けてくれるってシチュエーションも捨てがたい……いや、待て待て、そういうのは男受けが良くない。
女性は白馬の王子様が良い男性として、男性は自分を助けてくれる可愛くて強い女性(ただし、強すぎてもいけない)が良い女として印象に残りやすい傾向がある。
需要と供給のバランスが不釣り合いだから、世の中カップルが少ないのだ。
自分を滅して、可愛くて強い戻衛覧を演じるのだ。
そうすればびのの好感度も一気にあげることができるはず。
「まずは、私から。魔法を試すから、びのは、少し下がっていて」
「了解」
私はびのを下がらせて、深呼吸して息を整える。
索敵魔法を使おうとした途端、持っていた魔導書が宙に浮きながら光を放ち、オートで索敵魔法の魔法陣が描かれたページが開かれる。
なるほど、これですぐにでも発動できるというわけか。
ミドラのお店ではたまたま開いていたページだったから気付かなかったけど、リモートでできるならこれほど便利なことはない。
「索敵魔法発動」
私が呪文を唱えると魔法陣が反応し、光を放つ。
開けていられないほど眩しかったので、目を閉じると自分の脳の中に、周りの地形とモンスターの鳥瞰図が頭の中に浮かんだ。
「……半径12メートル以内に、3体のモンスター確認」
目を開けて索敵魔法を終了させると、魔導書は自分の目の前でとさっと落ちた。
慌ててそれを両手でキャッチし、右手で持つ。
「すごいな、覧」
いやー、びの、それほどでもないよー……って、ここで失態してはびのの好感度が下がってしまう。
ここは戦いに集中しないと。
付け焼刃の魔法だから使えるかどうか不安だったけど、実践でも使えそうだ。
「みんな遅い動きだから、きっと同じモンスターだよ。ボクが全部倒す予定だけど、びのも一応気を付けて」
先ほど頭に浮かんだ情報から読み取れたことをびのに伝える。
「了解」
私が失敗してもいいように、身構えるびの。
失敗する気なんかないけどね。
なんなら、びのも守っちゃうけどね。
「目標視認。これはスライムだね」
魔物を視認したので、びのにも伝えた。
「ステータスチェック」
スライムLV1
HP:5(+0)
MP:7(+0)
種族:モンスター
筋力:5(+0)
体力:7(+0)
耐性:5(+0)
敏捷:7(+0)
魔力:5(+0)
魔耐:7(+0)
運 :5(+0)
技能等:なし
ふむ。
数値から察するに、この世界のスライムは弱いということですな。
これなら楽勝で勝てるはず!!
「覧、こいつら声に反応しているみたいだ!! スライムがそっちににじり寄ってる」
「サンキュ、びの。無詠唱……はまだできないみたいだから、仕方ない」
とりあえず、一番簡単な身体強化魔法を3つ同時にかけてみよう。
魔素が体にない場合はまず、目に意識を集中させて身の回りにある魔素を確認する。
OK。今周りにあるのは、赤色の魔素、青色の魔素、茶色の魔素、緑色の魔素、無色透明の魔素か……つまりは、火・水・土・木・無属性の魔素。
金属性の魔素は、ほぼないようだな。
よし、確認修了。
身体強化魔法に必要なのは、無属性の魔素だ。
まずは魔導書を持っていない左手に意識を集中させて、無属性の魔素を大量に集める。
なるほど、魔素を集めるのにも精神力がいるわけか……
野球ボール程度の魔素を集めただけなのに、パソコンを30分くらい集中して使ったくらいに精神が疲れてる。
きっと、精神力が高ければ高いほどより多くの魔素が集められるということだな……
とりあえず、バスケットボールくらいの大きさで試してみよう。
この魔素をMPを使って自分の体に送り込み、自分自身を強くするというイメージ。
攻撃なら武器を強くするイメージで、防御であれば防具を強くするイメージ、脚の速さであれば全身の筋肉を強化するイメージ……
「オフェンスアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ」
呪文を唱えると、魔導書は私の目の前で浮いたと思ったら、ページはめくられずにそのまま光だし、3つの魔法陣がホログラムのように浮き出てきた。
同時に3つだから、精神の疲労が半端ない。
慣れないうちは多用できないかもしれないな……
私が自身に魔法をかけると、私の武器・防具・全身は白いもやに包まれた。
武器と防具が強くなったかはわからないが、体は先ほどよりも軽い。
100メートル10秒で走れそうなほどだ。
成功だろう。
テレビゲームみたいに、ターン制じゃないから、スライムがこちらにくる間、色々な魔法がかけられる……と。
「へー、これが身体強化の魔法か。その全身から出てる白いもやが、覧の体を強化してくれているって思っていいのか?」
どうやら、私が白いもやに包まれているのはびのにも見えるらしい。
強化魔法がお互いに見れるのであれば便利だな。
もしも魔法が切れたら、ステータスチェックをせずに、すぐさま魔法をかけなおすことができる。
「うん、そうみたい。逆に言うと、このもやがあるモンスターがいたら、そのモンスターは強化魔法を使っている可能性が高いね。モンスターが強化魔法を使えるかどうかはわからないけど」
「おい、覧、スライムがお前に飛び掛かろうとしてるぞ!!」
「分かってる。えいっ」
私は飛び掛かってきたスライムをバックステップで距離をとり、魔導書の角をスライムに思いっきり叩き込む。
べちゃ。
何かを叩いたというよりは、何かを押しつぶした感覚だ。
あれ? この感触、もしかして私の攻撃を吸収しちゃってる?
ぶよぶよを潰した感覚はあるんだけどな……
もともと攻撃向きではないことは知ってたけど、ここまで向いていないとは思わなかった。
バックステップで距離をとって様子をうかがうと、スライムは虚空へと消えていった。
どうやら潰せていたみたいだ。でも、これがスライムを倒す感覚なのか……
気持ち悪い。
次からは物理ではなく、魔法でスライムを倒そう。
「倒すと虚空へと消えるみたいだな」
びのは私の戦闘をみて呟いた。
「じゃあ、この前のゴブリンも倒したから消えたと考えてよさそうだね」
「ああ、そうだな……って、おい、覧。次のスライム来てるぞ」