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第21話 観光案内人

「ふー、お腹もいっぱいになったし、食後の筋トレも終わった。そろそろ異世界に行くか?」


「あ、ちょっと待って。ジオフの世界から戻ってくるとこの部屋を汚しちゃうかもしれないから、先にブルーシートを敷いちゃおう」


「なるほど、名案だ」


物置からブルーシートを引っ張り出し、ついでに靴も取ってきてブルーシートの上で履いた。


部屋にブルーシートを敷き詰めると、びのは机の上の剣を、私は魔導書を手に取る。


「準備はいいか?」


「もちろん」


「「それじゃあ、出発だ!!」」


私とびのはコンパクトをのぞきこんだ。


「うん、移動成功!!」


びのも無事だし、先ほど登録した場所へと移動しているし、周りに人もいないし、パニックも起こってなさそうだし、うん、パーフェクト!!


「さて、ジオフの世界に戻ってきたわけだけど、これからどうする?」


建物の影から出て、びのと今後の相談をもちかける。


さて、びのは何と答えるかな?


やっぱり、拠点のことかな?


そのためにはまず家を買おう……なんてこと言い出すのかな?


ここで一緒に新生活をおくろうじゃないか……的なことかな?


もし言い出したら、二つ返事でオッケーしちゃうよ。


私はワクワクしながらびのの言葉を待った。


「そうだな……拠点――」


キタコレー!!


「――はジオフの世界と元の世界を行き来できるから、やはり、モンスター討伐だろう」


だよね。


やっぱり中二病のびの。


異世界に来たらモンスター討伐したいよね。


「どうしたんだ、覧、そんなに肩を落として」


いや、肩も落としたくなるよ。


拠点という言葉で心が舞い上がったんだから。


「なんでもないよ。モンスター討伐でしょ?」



「ああ。モンスター討伐だ!!」


「でも、私たちここら辺に出てくるモンスターのことなんて、全然知らないよ」


「そうなんだよなー。そこが問題なんだよなー。いきなり強いモンスターが出てきても困るしな」


顎に手を当ててびのは考え込む。


「お兄さんたち、ここら辺のモンスターのことが知りたいの?」


後ろから声をかけられた。


「誰だ?」


びのが振り返って、ロングソードを構える。


そこには、女の子が立っていた。


見るからに私よりも年下で、着ている服からは、お世辞にも上品さは感じられない。


なんなんだ、この女。


詐欺師かスリの類か?


あるいは、びのが格好いいからって、ちょっかいをかけて美人局的な?


「ナルは怪しいものじゃないよ」


ナルは両手を上げて、武器を敵意がないことを示そうとしているようだ。


この世界でも、敵意がない時は、両手をあげるんだ……


……って、今はそんなことに感心している場合じゃない。


「じゃあ、貴女は何者なの? ナル?」


見るからに怪しい。


「ナルはこの町に来た人に観光案内をしてるんだ」


「観光案内?」


観光案内って、観光地とかで見かけるインフォメーションセンターみたいなものだよね?


この町にもあるのか?


「そう、観光案内。町の中や町の周辺のことを詳しく説明するお仕事さ。お兄さんたち、この町ははじめてだろ? ここいらじゃ見ない顔だもん」


「ああ」


びのと対等に話しているけど、びののロングソードを見ても物おじしないところから察するに、相当肝のすわった女なのかもしれない。


「モンスターの話をしていたね。もしよかったら、ここらへんの初心者の狩場を教えようか?」


「知っているの?」


こんな子どもが?


ウソじゃないだろうな……


私は気付かれないようにバッグの中に手を入れ、ウソ発見器を起動させた。


「もちろん。初心者の狩場から、上級者向けの超秘密の穴場までナルにお任せだよ」


「それなら、手始めに、初心者の狩場を教えてくれ」


ウソ発見器が反応しないところをみると、どうやらウソではなさそうだ。


でも、びの、料金も訊かずに狩場の情報提供の依頼をするのはよろしくないんじゃないかな……


あとで高額請求されてぼったくられても知らないんだから。


「了解しました。それじゃあ、ついて来てください」


恭しくお辞儀をして、スタスタと歩いていく。


どうやら、前金制ではなく、成功報酬制のようだ。


びのと私はナルについていった。


十分程歩くと、ナルは足を止めた。


「ここら辺は、スライムばかりで、子どもや初心者のレベルアップに最高の場所だよ。回復ポーションもいらないくらいだよ」


「そうか。礼だ」


びのは金貨を親指で弾き、放物線を描かせ、ナルの手元にくるように飛ばし、ナルは金貨を両手でキャッチした。


もう、びの、こんなことでも格好つけて。


ナルとかいう女じゃなくて、私にしてよね。そういうことは。


そしたら、その仕草をデータに残して、何度も何度も見返すのに……って、私、自重。


「いいの?」


金貨1枚を受け取って目を丸くするナル。


相場はいくらか知らないが、この女の反応を見る限り、かなり高めなのだろう。


「ああ。持ち合わせがそれしかないからな。また何かあったら頼む」


「でも、ちょっと、こんなにたくさんは悪いな……」


ナルはどうやら良心を痛めているようだ。


「依頼者がそのお金で良いといってるんだから、気にするな」


「それはそうなんだけどさ……あ、そうだ。お兄さんたちのレベルが上がったら、今度はハードスライムの穴場を安い値段で教えてあげる」


「ハードスライムってなんだ?」


びのは訊き返した。


「え? お兄さん、あのハードスライムを知らないの?」


「ああ」


「スライムの上位種だよ。一見するとスライムなんだけど、表面が鈍色で、気配を消して後ろから人間を捕食してくるモンスター。倒すとステータスの影響が半端ないらしいよ」


「初心者だと倒せないのか?」


「お兄さんの武器、とっても強そうだけど、お兄さんが初心者なら、多分無理だと思う。上級者向きのモンスターだからね。噂ではHPは低いんだけど、表面が固すぎてダメージを与えられないらしいから」


ああ。


倒すと経験値が一気に溜まる、いわゆるレアモンスターか……


「びのならできそうだけど……」


「初めての戦闘訓練でいきなり上級向けはよくないだろ」


「確かにそうかもね」


びののステータスが高いとはいえ、私たちはどんな風に戦えばいいのかもよく分かっていない素人二人組だ。


モンスターとの戦闘を経験しないうちに強いモンスターは倒せないかもしれない。


「この狩場も含めて、どの狩場でも滅多に現れることはないらしいしよ」

 

「滅多にってことはごくまれに、この狩場にもでるの?」


私は訊き返した。


「うん、ごくまれにね。もし現れたら、逃げることをお勧めする」

 


「貴重な情報をありがとう」

 

 私は丁寧にお礼をした。

 

「これ位大したことないよ。狩り、成功するといいね」


「何から何までありがとうね」


だから早くびのから離れて。


私は内心そう思った。


「もし何かご用命がありましたら、城門の前にいるのでごひいきにね」

 

ナルは最初会ったのように恭しくお辞儀をした。


うん。びのは分からないけど、私は利用しないと思う。


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