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第20話 ペペロンチーノ

行きと同様に、黒い渦に飲み込まれたと思ったら、いつの間にかびのの部屋に戻っていた。


 「びの、頭打ってない?」


 「ああ、今度は大丈夫だ。ここはオレの部屋か?」


 「うん、そうだよ。このコンパクトに登録していたのは、びのの部屋だからね」


 「土足はまずいだろうな」


 「確かに」


 びのの部屋は基本びのが掃除しているが、ときたま、びののお母さんが掃除をすることがある。


 もしも土が大量にあったら怒られてしまうだろう。


 2人して、すぐさま靴を脱いだ。


 あ、そうだ。今の時間を確認しよう。


 もしかしたら、ジオフの世界と時間軸が異なるかもしれないし……


私はびのの部屋の目覚まし時計を確認した。

 

午後3時20分……


「ジオフの世界とこの世界は、同じ時間軸みたいだね」

 

「ああ。そうだな。これなら時間を調節しながらジオフの世界を探索できる」


 「ゲームみたいで都合がいいね」


 「まったくだ」


 びのと話しているとお腹がくーと鳴った。


 「お腹空いたね」


 「お昼を食べに……と言いたいところだが、この剣をどこかに置かないとな……」


 「私の魔導書は、本棚でいいよね」


 私は空いていた本棚のスペースに入れる。


 うん。どこからどう見ても違和感がない。


「オレの剣はどこに置こうか?」

 

「玄関の傘立てとか?」


 「冗談言うなよ。もし、銃刀法違反するような本物の剣を買ったことが父さんか母さんにばれたら、オレはこっぴどく怒られるじゃないか」


 「おやおや、今朝は、本物の槍を買って降らすなんて言ってたんだから、そのくらいどうってことないかと思ったよ」


 私はここぞとばかりに大げさに言う。


 「覧、あれは冗談だからな?」


 「私が言ってるのも冗談なんだけど?」


 「オレの負けだ、覧」


 「分かればよろしい」


 くくく。珍しくびのを言い負かせたよ。


 「壁に立てかけるか?」


 「でもその剣は鞘がないから、畳を傷つけてしまうんじゃない?」


 畳を傷つけたとなれば、怒られるのはびのだ。


 「とりあえず、机の上にでも置いておけば?」


 「そうだな」


 びのは装備品を机の上に置いた。


 「なあ、覧、こっちの世界でも魔法は使えるのか?」


 「ウォーターウォール」


 私はびのの前で呪文を唱えるが、何もでてこない。


 「何も出てこないな」


 「こっちの世界には、魔素という概念がないから、難しいのかもしれないね」


 「魔素という概念って何だ?」


 「ああ、びの君には分からないよね。魔素っていうのは、魔法を使うための魔法の元だね。小さな半透明の点が空気中に漂っているイメージなんだ」


 「へー、それがないと魔法が使えないのか?」


 「うん。ジオフの世界では町のいたるところにあって、私が念じるだけで近くの魔素が集まってきたんだけど、ここではその魔素が見えないし、集まらないんだ」


 逆にいうと、魔素という概念があれば、もしかしたら、こちらでも魔法が使えるかもしれない。


 魔素という概念をこの世界にも適用させるなんて、運命に干渉でもしない限りできないだろうけど……


 私とびのは靴を玄関に置き、リビングへと向かう。


 「あら? びの? 帰ってきたの?」


 母さんは驚いている。


 「私の研究、失敗しちゃって、びのと私、異世界にいたの」


 「学校からびのが来てないって連絡あったから、実験は失敗してハワイにでもいるんじゃないかしら……って思ってたんだけど、異世界にいたのね。いいわね、異世界。私も行ってみたいわ」


普通の家庭であれば、異世界? 何言ってんの? 頭大丈夫? ……というところなのに、平然と異世界があることを受け入れて、私も観光したいと言ってくるびののお母さん。


前から思ってたけど、びののお母さんって、変。


絶対、変。


「母さん、お昼を食べに戻ってきたんだ」


目の前には、スパゲッティとサラダが一皿ずつだけ置かれていた。


「あらー、覧ちゃんの分はあるけど、びのの分は作ってないわよ」


「私のスパゲッテイ、半分こする?」


なんなら、あーんして食べさせてあげてもいいよ。


あーんをしてくれたから、美味しく食べれた……なんて展開になったりして……


「母さん、お昼はペペロンチーノとサラダ?」


「そうよ。母さんの愛情がたっぷりと詰まった特製のペペロンチーノとサラダよ」


「多分、覧の半分の量じゃ足りない」


びのは成長期だからな。


たくさん食べないともたないのだろう。


「今からでいいなら、びのの分作るけど?」


「じゃあ、よろしく」


「お母さん、大変じゃない? なんなら私の分をびのに全部あげようかと……」


なんなら私が作ってもいいんだけどね。


「あら、そんなことしなくていいのよ、覧ちゃん。びのの分は私が作ってあげるから」


あれ? もしかして、私、ライバル視されてる?


愛しのびのを取られないように、お母さんアピールをしてる?


「2把でいいの?」


いつもの量でいいかを確認するびののお母さん。


「ああ」


びのが返事すると、びのの母はニンニクをみじん切りにし始めた。


「あれ? でもびの、異世界でもスパゲッティ食べてたよね?」


「あれは、ミートスパゲッテイだった」


味さえ変われば、毎食スパゲッテイでもびのは飽きないようだ。


「好きだね。スパゲッティ」


「大好物さ。あ、そうだ。明日、土曜日と日曜日だから、異世界探索するかもしれない。家にいなくても、全然不自然じゃないから、そう思っておいて」


「いいわね、異世界。これを食べたら行くの、異世界? 私もついていきたいわ」


物欲しそうに見つめてくるびののお母さん。


「行かせないよ」


びのはお母さんを連れていくことに反対した。


私も反対だ。


もしびののお母さんを連れて行ったら、運がいいというだけですごい世界最強の無双をしそうだし。


「異世界にはモンスターや魔王が居て、危険がたくさんあるんです」


それとなく危険があることをほのめかせば諦めてくれるだろう。


「モンスター? 魔王? 是非私も行ってみたいわ」


食い下がってきた……


作戦失敗だ。


「だから、行かせないってば」


びのがキレ気味にこたえる。


「だって、そんな危険な場所にびのと覧ちゃんの二人きりで行かせるなんてこと、保護者としてできないじゃない」


珍しい。


びののお母さんなら、真っ先にお土産の話が出ると思ったが、私たちの身の安全を考えてくれるなんて……


「大丈夫だ。覧はオレが命にかえてでも守り抜く」


「本当に? 約束よ」


「ああ、約束だ」


「あと、それとお土産が……」


あ、本音が出てきた。


お土産買いたいからついて行きたいって言う気だな。


そうはさせないよ。


「異世界のお土産買ってきます。珍しいおちょことか」


「覧ちゃん、絶対よ」


麺を茹で、ペペロンチーノのソースを作りながら、顔を私のほうに向けてお願いしてくるびののお母さん。


「おい、覧。まだあのおちょこ諦めてなかったのかよ?」


「びの、諦めたらそこで終了だよ?」


「あれ、高いだろ?」


「でも、気に入ちゃったんだもん」


私は目を潤ませ、上目遣いでお願いした。


「……まあ、金が余ったら買ってやるよ」


私から目を背けながら言うびの。


私のお願いをできるだけ聞いてくれようとするびのは、とってもかわいい。


「絶対、お土産買ってきてよね」


「母さんは少し黙ってて」


「もう酷いわね。お母さんを邪険にして。もうちょっと言い方を考えないとモテないわよ、びの」


びののお母さんは使わなかったお湯を捨て、麺をソースに絡める。


びのは考え事をしていたらしく、お母さんの話をスルーしていた。


「はい、ペペロンチーノ、召し上がれ」


いつの間にか、びのにフォークであーんをするびののお母さん。


「ちょっと、お母さん、何やってるの?」


「あら? 見て分からない? あーんよ、あーん」


「ちょっと、それは私の役目なんだから」


びののお母さん、アラサーなのに、見た目は20代だから、びのといるとカップルにしか見えないんだよ?


それを目の前でされて私が許すと本当に思ってるの?


「えー、違うわよ。お母さんのあーんのほうが好きなんだよね? ね、びの?」


「自分で食べるからそういうのいらない」


「「えー、びののいけずー」」


びのは一人で黙々とペペロンチーノを食べた。


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