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第17話 魔導書

「杖と魔導書と手袋って具体的に何が違うの?」


気になるのは武器の特徴だ。


ロングソードは長くて重いから両手が塞がるとか、短剣は女性にも扱えるほど軽いけど、モンスターに近づかなければならないとか……


「まず杖は両手が塞がってしまうかわりに、魔法の威力が他の装備に比べて強くなる傾向があるにゃ。それに、打撃の攻撃としても申し分ないにゃ。どちらかというと魔力の低い初心者向けにゃ」


 ふむふむ。威力重視ということか。


確かに、魔法を唱えても魔物にダメージを与えられなかったり、味方の回復ができなければ意味がない。


「魔導書は両手が塞がってしまうかわりに、魔法を唱えた時に他と比べて発動するのが速いにゃ。打撃の攻撃は、すこぶる弱いにゃ。どちらかというと魔力の高い上級者向けにゃ」


 なるほど。スピード重視というわけか。威力は期待できないが、速攻や即回復させたい時には重宝するだろう。


 「そして手袋は両手が塞がらないから、強さや速さに特化したわけではないけど、両手が空いてるから、アイテムを使用するときなど便利なことが多いにゃ。物理は期待できないけど、他の装備もできるにゃ。中級者向けかにゃ」


 両手が空いてるというのは、アイテムがすぐに取り出せるというのは確かにいい。


「さっき、杖か魔導書か手袋が一般的って言ってたわよね? 一般的ってことは、特別なものもあるの?」


「魔法剣士は、魔法剣を装備することもあるにゃ」


魔法剣か……びのが好きそうだ。


「ちなみに、魔法剣って、一本いくらくらいするんだ?」


やっぱり、興味津々でくいついた。


「最低、850ゴールドにゃ。特殊な魔法付与をさせると、もっとかかるにゃ」


「高いな」


「作れる職人も少ないからにゃ」


「まあ、魔法剣士なんて、世の中広しといえども、今はキデギス様くらいしかいないにゃ」


「キデギス様?」


「我が国最強の魔法剣士様の名前をしらないにゃ?」


「知らない。この町には来たばかりだからな。そいつ、どれくらい強いんだ?」


「王国最強の騎士だけあって、規格外に強いにゃ。でも今は、魔王の一人にやられて瀕死の状態にゃ」


王国最強の騎士がぼろ負け……


本当にこの国は大丈夫なのか?


「はやく治って復帰できるといいね」


「まったくだにゃ。早く復帰して魔王を倒して欲しいにゃ」


「でもその王国最強騎士がやられたなら、魔王は倒せないんじゃないか?」


びのはどうしてこうも突っかかるかな?


「魔王を倒すのは勇者様に期待してるにゃ」


「オレがその勇者だ。だから上等の武器をさっさと紹介しろ」


びの、その態度を人はパワハラと呼ぶのだよ。


「あ、そーにゃ、覧様の武器を見繕わないといけないにゃ。えーと、魔法ギルドに入るのだとしたら、最初は扱いやすい杖がいいにゃ」


そしてその恐喝に屈しないミドラ。


ミドラ、その態度を人は空気を読まないというのだよ。


「私は、ギルドに所属しないわ。集団の人間関係とか煩わしいし」


「にゃにゃ? ギルドに所属しないで、魔法を覚えるなんて無理にゃ」


「無理じゃない。なんとなくだけど魔法を使えそうな気がするの」


「それは本当に、使える気がするだけにゃ」


「覧、人と接したくない気持ちはわかるけど、ギルドに所属した方が色々楽じゃないか?」


2人はギルドに行くことを勧めてくるが、正直言って行きたくない。


「ギルドに行かなくても魔法を習得する方法はないの?」


「いくらなんでも、そんなの都合のいい装備あるわけ――あるにゃ!!」


あるんかいっ!!


心の中だけで突っ込む。


「じゃあ、それで」


「でも、オススメできなにゃ」


「どうして?」


なんとなく想像はつくけど、念のため理由を聞いておく。


「副作用があるかもしれないからにゃ」


「ああ」


やっぱり。


そうだよね。便利なものには代償があることが常だ。


「一から説明するにゃ。この【禁断の魔法書】は、魔法を強制的に体に覚えこませる補助的魔導書にゃ。これを持つと、勝手に魔法が覚えられるにゃ」


「補助的ってことは……」


「魔法をある程度覚えたけど、どうしても覚えられなかった魔法を習得するためのものなのにゃ」


「なるほど。既に魔法をある程度習った人の装備だと言いたいのね?」


「そうにゃ。魔法の知識が何もない人がこの魔導書を装備すると、副作用でどうなるかわからないにゃ。正攻法で魔法を習得することをオススメするにゃ」


「ちなみにどんな副作用が出るんだ?」


「人によって異なるにゃ。記憶障害だったり、精神障害だったり、色々にゃ。あと、共通することは、その魔法書を身に付けていないと、魔法が発動しないということにゃ」


「面白そうね。それ、渡しなさい」


俄然興味がわいてきた。


記憶障害や精神障害のリスクもあるが、これを自分のものにできれば、あっという間に、魔法を全て網羅できる。


装備として身に付けていればいいんだから、共通して起こる副作用にはたいして意味もないだろう。



「おいおい、覧、やめとけって。どんな副作用がでるか分からないんだから」


「いいから渡して」


私はミドラから魔導書を奪い取った。


「ダメにゃ。もし魔法を習得したいと願いながら表紙をめくったら、魔法が頭の中に入ってきちゃうにゃ。もしも脳がそれに耐えきれなければ、どんな副作用があるか分からないにゃ」


「……って、使い方説明してんじゃないか」


「にゃ……しまったにゃ」


えーと、魔法を習得したいと願いながら表紙をめくるっと……


ぱらっ……


「うぁ……あっ……な、何これ?」


私が表紙をめくった瞬間、魔導書は意志を持っているかのように、パラパラとめくられ、文

字が具現化し、私の衣服や素肌全身にはりついた。


「にゃーーーー!! 覚えていない魔法が文字として具現化されたんだにゃ。こんな大量の文字、見たことないにゃ」


「おい、何か、マジでやばそうだぞ。途中でやめられないのか?」


「無理にゃ。覧様の脳へとすべて収束するまで、止めることなんてできないにゃ。こうなったらもう、無事を祈るしかないにゃ」


まるで分厚い百科事典を速読しているかのように、脳に大量の情報が刻み込まれる。


「いっ、いやーーーーーっ」


私の頭でも情報の処理が追い付かない。


誰かに頭を掴まれて、思いっきり揺さぶられて、脳を直接叩かれているような感覚だ。


頭はずきずきと痛み、視界も歪んでいく。


目の前にいるびのが私に向かって叫んでいるのをなんとかとらえることができた。


びのはなにを叫んでいるのだろう、耳がキーンとして声が聴こえない。


「あわっ……あ……あっわ……」


こちらからそれを訊こうにも、声が声にならない。


私の頭の中がじょじょに白くなり、その白くなったところへ、魔法の知識がDOS攻撃されたみたいに、黒く塗りつぶされていく――


最初は、ものすごい速さで、倒れそうになったが、だんだんとその攻撃が緩やかになり、収束を迎えた。


「覧、大丈夫なのか? 覧?」


びのが私の肩を掴んで、私は我に返った。


「ええ。大丈夫。全魔法のインストール、完了よ」


正直に言えば、大丈夫ではない。


頭がずきずきと痛む上に、車酔いをしたような吐き気がある。


だが、確かに、魔法を使えるという感覚があるのだ。


まるで昔から使えていたような感覚が私の中にあるのだ。


「覧、顔色が青いし、息も肩でしてるぞ。本当に大丈夫か?」


「覧様、今から簡単なメンタルチェックをするにゃ。これは何本か分かるかにゃ?」


ミドラは私の目の前でピースをする。


「2本ね」


先ほど歪んでいた視界は鮮明になり、いつもと変わらない状態だ。


「こう、心が重いとか、発狂しそうとか、そういった症状はあるかにゃ?」


「ないよ」


心は重いというより、むしろ軽い。


魔法が使えるよろこびのせいだろう。


「後遺症もなさそうでよかったにゃ。魔法の基礎知識もないのに、勝手に魔導書を持っちゃダメにゃ。最悪、廃人になるところにゃ」


「もう持たなくても、全部私の頭の中に入ってるよ。だから、魔導書を持つ必要なんてありません」


「本当に魔法を覚えたのかにゃ?」


疑うんだ、ミドラ。


そうだよね。私、魔法を使ってないんだしね。


それじゃあ、いっちょ見せつけてやりますか……


私はたまたま開いていたウォーターウォールの魔法陣のページを上にして、


「ウォーターウォール」


呪文を唱え、店の床から水の壁を取り出した。


やはり成功だ。


「すごいな」


「ミドラのお店で勝手に魔法を唱えないでしないで欲しいにゃ」


「ごめんなさい、つい、披露したくなって」


「まあ、いいにゃ。これで二人とも、武器は完璧だにゃ」


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