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第14話 ミドラ

 びのは、アンティーク店を出て、武具屋へと行く。


「びの、その路地を右に曲がったつきあたりだよ」


 びのと共に立ち止まる。


 しょぼい。


 ここのお店が本当に町で一番大きい武具店なのか?


 とりあえず、中にはいってみよう。


「いらっしゃいにゃー」


 ん? にゃ?


「覧、店に入るな」


 びのは私に命令をしてくる。


「ギャー」


 そこには、黄色い猫耳に、黄色と赤を基調にしたフリフリのメイド服を着た若い女性が立っていた。


 猫ー!!


「遅かったか……」


「お客様、どうかしたにゃ?」


「こっちこないで」


 私は、できうる限りの大声で、近づいてくる猫耳に命令をする。


「えっと……ダイナマイトは……」


 私はびのが持っているバッグに手をかけた。


「覧、落ち着け。あれは猫じゃない。あれは人間だぞ。噛みつかないし、ひっかきもしないから大丈夫だ」


 びのは猫耳をつけた女性の前に手を出す。


「危ない」


 猫耳女は、びのの指にかぷっと噛みつこうとした。


 私の声に気付いたびのは指をひっこめる。


「何どさくさに紛れてかみつこうとしてるんだ?」


 キレ始めるびの。


 まずい、逆上しているびのを止めることは難しい。


「びの喧嘩はやめて」


「覧はちょっと黙ってろ」


 私はすぐさま止めに入るが、時すでに遅し。


「おい、猫耳。この店では、武具の他に喧嘩も売ってんのか?」


 びのは猫耳女につっかかる。


「うにゃ? 喧嘩を買いたいなら、お城に行くといいにゃ。ダウゴ王子様がすぐに売ってくれるにゃ」


「城になら、ついさっき、喧嘩売ってきたから」


「国を相手に喧嘩売るとか、お兄さん馬鹿なのかにゃ?」


 な……びのを馬鹿よばわりだと……


 この猫耳女、マジで許さない。


「オレが馬鹿だと言うなら、馬鹿の喧嘩を国費の2000ゴールドで買ってくれたダウゴ王子様は何様なのかな?」


 そうだ、そうだ、言ってやれ、びのー。


「にゃー、ダウゴ王子様が、喧嘩を2000ゴールドで勝ったにゃ? しかも国費で。とんだ大馬鹿王子様にゃ」


「へー、この国では王子様を大馬鹿扱いしてもいいのかな?」


「しまったにゃ。今聞いたことは忘れるにゃ」


「忘れてあげるから、名前を教えてくれないか?」


 びのはにこにこしながら、優しい口調で名前を尋ねる。


 目は怒ってるけど。


「にゃー、絶対言わないにゃ。そうやって、ミドラの名前を聞き出して、ミドラを脅すつもりにゃ」


「へー、ミドラって言うんだ?」


「にゃー、なんで名前を知ってるにゃ?」


 いや、今、自分で言ったからね。


 アホだな、この猫耳娘。


「それは、オレがなんでもお見通しだからだよ、ミドラ店長」


「にゃー、なんで、ミドラが店長してるってわかったにゃ?」


 当てずっぽうだな、びの。


 ……ってか、この猫耳女が店長なんだ……


 この国にこの店ありってところだな……


「それはオレがなんでもお見通しだからさ」


「にゃー。お願いしますにゃ。どうか、王子様には言わないで欲しいにゃ」


 ミドラは、びのの手を両手でぎゅっと握った。


 ぶちっ。


 びのが猫女と仲良くしている……だと……


「びの、そこどいて。ニトログリセリンをバッグから取り出せない」


「落ち着け、覧」


「そうにゃ、落ち着くにゃ……私たちのように」


 ぶちっ、ぶちっ。


 手と手を取って、ラブラブなところを見せつけてる……ってやつですか?


 びのの左手に持っていたバッグからニトログリセリンとライターを奪い取った。


「覧、まずは落ち着くんだ」


「私はいつでも落ち着いているよ。だから、そのしかっりと握られた猫の手を爆破しようとしてるんじゃないか」


 何を言ってるんだ、びのは。


 冷静じゃなかったら、もう既にニトログリセリンに衝撃を与えて爆発させてるよ?


「それだと、オレの手も爆破することになるからな」


「尊い犠牲だね」


 うん、それは仕方のないことなんだ。


 爆破に犠牲はつきもの。


 そんなの幼稚園児だって知ってるよ。


「犠牲は出ないに越したことはないだろ? とりあえず、その右手に持ってるライターをこっちに寄越しなさい。ほら、猫の手はもうないんだから」


 猫の手はない……けど、毒に侵されるように、びのの手はミドラの手に侵されてる可能性がある。


「私のニトログリセリンで殺菌しないと……」


 石鹸はグリセリンだからニトログリセリンにも同じ効果が付与されるはず……


「いや、ニトログリセリンは石鹸のグリセリン効果はないからな。仮に殺菌効果があったとしても、爆発させたら効果は得られないからな」


 びのは私の手元から、ライターを回収した。


「覧、落ち着いたか?」


「うん、なんとか」


 私は何とかそれだけ口にした。


「他のお店にしよう。他にも武具店はあるはずだろ?」


「まあ、他のところに行ってもいいけど、どこへ行っても、みんな同じように猫耳をつけてるにゃ」


「何故?」


「これが流行っているからにゃ」


「は? なんで?」


 流行ってるって、こんな格好が流行ってるの?


「猫耳にしたら、業績が上がったことを瓦版に取り上げられたにゃ。だから、ここらへんの武具店では、みんな猫耳の格好にゃ」


「はた迷惑な」


 びのはため息をつきながら、手の平で顔を覆った。


「なんで、猫耳なの?」


「それは個人的に猫が好きだからにゃ」


「個人的趣味かよ」


「でも、お店の売り上げは増えたにゃ。そのことを他のお店にも広めたら、どこのお店も真似をしはじめたにゃ」


 原因は、この猫耳娘か……


「お兄さんも、この格好可愛いと思うにゃ?」


「まあ、やぶさかではない」


「ちょっと、びの!!」


 びのも猫が得意じゃないんじゃないの?


「覧が猫を苦手だったからなかなか言い出せなかったんだけど、結構オレ猫好きなんだわ」


 びのが猫を好きだったなんて……


 私も猫を好きになる努力しなくちゃ。


 まずは本物の猫……はハードルが高いから、目の前の猫耳娘と仲良くなることから始めようかな……


 私はミドラをじっと見つめた。


「にゃ?」


 見つめられたミドラは私を見て首を傾げる。


「ミドラのことを見て、猫を好きになっちゃったにゃ?」


 ううん。やっぱり無理。


「覧、どこに行っても、猫耳スタイルみたいだから、ここで買っちゃおう」


「そうにゃ。それがいいにゃ。他のお店はスク水猫耳姿で接客してるにゃ」


「スク水猫耳姿……」


 聞いただけで恐ろしい。


「面白そうだな、見てみたい……」


 私は無言でじっとびのを睨みつけた。


「……と思ったけど、やっぱりここで買おうか覧……とりあえず胸に抱えているダイナマイトをしまってくれ」


 鞄から新しく出したダイナマイトもびのに取りあげられてしまう。


「ところで、今日は、どのようなご用向きだにゃ?」


「女の子と二人で武具屋といえば、もちろんデートだろ?」


「びの……」


 マジで惚れちゃいますわ。


「なるほどにゃ」


 納得するミドラ。


「魔王が現れてからは、街中でデートしていると後ろ指をさされる風潮だからにゃ。こういうところでデートするのもありにゃ」


「もしかして、オレ、新しい商法を考え出しちゃった?」


「すばらしいにゃ」


 ミドラはびのにサムズアップする。


「これからこのお店は、おしゃれで実用的な装備をバンバン売っていくにゃ。ありがとうにゃ」


「謝礼するなら金をくれ」


 堂々とお金を要求するびの。


 そういうところが残念だ。


「成功したら、今度来た時、1割引きにしてもいいにゃ」


 結構ケチだな、この店長。


「じゃあ、そのときはよろしく頼むぜ、ミドラ店長。ちなみに、俺と覧、デートしているように見えたか?」


「いや、見えないにゃ」


「私、やっぱり、猫って嫌い」


 なんなんだ、このミドラとかいう雌猫は。


 私は腕を組んで、ぷいっと顔をそむけた。


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