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第13話 アンティーク屋さん

「結構丁寧につくられた地図だな」


 びのは私の隣で地図を覗き込みながら感嘆する。


 お姉さんが私に差し出したのは、1枚のマップではなく、地図帳のような製本されたマップだった。


 巻末には、この街の外観を1万分の1で縮尺したようなマップ。


「でも、中身はそんなに詳しいことは描かれていないね」


 もしかしたら、魔法技術と組み合わされた、元の世界にはない新しいタイプのマップかもしれないと期待していたが、中身は紙製のただのマップだ。


 しかも、そんなに細かく描かれていない。


「もしかしたら、あえてそうしてるのかもな。詳しく描いてあれば、侵略が楽にできるもんな」


「こら、公共の場でそういう物騒なことは言わない」


 私はびのの額を軽く小突く。


「ああ、気を付ける」


「こうやってみると、色々なお店屋さんがあるんだね」


「そうだな」


 簡素とはいえ、地図から読み取れることは多い。


 町並みはギルド地区に住宅地区、商店街地区など、だいたい地区ごとにまとまっているみたいだし、お城の周りのお堀は直径60kmくらいだ。縮尺がきちんとあっていればだけど……


「人口どの位の町なんだろう?」


 私は地図を見ながら、異世界の町に思いを馳せた。


「さすがに、その情報は載せないだろう」


 それもそうだ。


 他国と戦争した時に、他国に簡単に自国の人口が知られたら、一大事になりかねない。


 戦争があるかどうかは分からないけれど。


 私はカウンターで町の地図を見せてもらい、図書館から一番大きいアンティーク屋の店に向かう道を覚えてから地図を返した。


 びのと一緒に、アンティーク屋へと向かう。


「さて、どんなお土産があるか楽しみだね?」


「そうか? 俺はそんなに楽しみじゃないな」


「えー、楽しもうよー」


 チリンチリン


「いらっしゃい」


 中には、ムスッとして目つきの悪い女が椅子に腰かけていた。


 眉間にしわを寄せ、こちらを睨んでいるようにしか見えない。


「見ない顔だな。何の用だ?」


 目つきの悪い女は、子どもが店を冷やかしに来たとでも思っているのだろうか?


「すみません、お店のものを見せてください」


「冷やかしか? 冷やかしなら帰れ」


「お客ですよ。いいものがあったら、買おうと思って。お金はありますよ」


 金貨1袋をちゃりちゃりと揺らす。


「ふん、まあ、いいだろう。ただし、商品には触るなよ」


 良い商人はお金の音を聴いただけで中身を言い当てるというけれど、どうやら、この店員も耳は良いらしく、音だけで私たちをお客と判断したようだ。


「了解」


 私は敬礼をしたあと、置いてある商品に目を通す。


 陶磁器焼きのような真っ白いお皿に、漆塗りのお弁当箱。


 きらびやかというよりはどちらかというと落ち着きのある雰囲気のアンティークが目立つ。


 このおちょこ、七色に焼かれていて、綺麗。どうやって焼いたんだろう?


「ふん、それに目をつけるとは、目が高いな。そのおちょこは、釉薬を場所によって使い分けて、そのあと、魔法の炎で焼いたものだ」


 子ども相手に説明してくれる目つきの悪い女。


 どうやら、商品の見る目はあると判断してくれたようだ。


「この器、たくさんあるの?」


「その器は100年前のものでたくさんは作られていない。その時にこの色を出すことは奇跡に等しい」


「へー、びの、これ買ってよ」


 これなら、びののお母さんも納得してくれるだろう。


「いくらなんだ?」


「850ゴールド」


「いや、無理だろ。今、980ゴールドしかないんだから」


「あれ、びのはいつから計算ができなくなったの? 手元に、980ゴールドもあるんだよ?それなら買えるよね?」


「いつから、覧は計画的なお金の使い方ができなくなったんだ? 装備を買う金が必要だろ。そもそもお土産は最後に買うんだよな?」


「えー、いいじゃん、ケチ」


 そこは、ツケにしてでも覧のために買ってあげるよ……って快く承諾するところじゃないの?


 男を見せてよ、びの。


「倹約家と褒めたたえてくれてかまわないよ」


「ぶーぶー」


「ぶーぶー言っても何も出ないぞ。それなら、お金を増やす方法を考えたほうが堅実だ」


「それじゃあ、売るよ」


「何を売るんだ? もしかして、元の世界のお金とかか?」


「え? びの、元の世界のお金持ってきてるの?」


 もし、持ってるなら、それを売ろう。


 すぐに売ろう。


 5円玉とかを300万ゴールドで売りつけよう。


「持ってくるはずないだろ。オレは学校へ行く予定だったんだからな」


「いいよ、私が持ってるもの売るから」


「まさかウソ発見器を売るなんて言い出すんじゃないだろうな? ダメだぞ、そんなもの売ったら」


「そんなの売らないよ」


「それじゃあ、何を売るつもりなんだ?」


「それは……」


 私はびのに持たせていたバッグに手をいれる。


「それは?」


 えーと、これじゃなくて、これでもないし……あ、あった、あった。


「じゃじゃーん。ダイナマイト」


 私はびのに見せつけるようにダイナマイトを取り出した。


「お、いいもん持ってんじゃん……って、ダイナマイト!? 爆薬じゃねーか。そんなん売って、引火でもしたら……」


「どーんだね」


「よし、出るぞ」


 借りてきた猫のようにびのに首根っこを掴まれた。


「何持ってきてんだよ」


「何って、見て分かんないの? ダイナマイトだよ、びの」


 私はまじめにこたえる。


「覧さん、ダイナマイトって、何か分かってる?」


「え? 私の美ボディのことでしょ?」


 私は手を頭にもっていき、くねくねしてセクシーポーズをとる。


「話をはぐらかすのはやめようか……」


 あ、やっぱりばれたか……


 私はしゅんとうなだれた……形だけ。


「真面目に訊いてるんだ、こっちは」


「ダイナマイトはニトログリセリンだよ?」


「そうだな。ニトログリセリンだな。転移した時の衝撃で爆発しなくてよかったぜ」


「本当だね」


 衝撃で爆発しなかったのはびのの言う通り、不幸中の幸いだろう。


 もし爆発していたら、腕の1本や2本なくなっていてもおかしくない。


「他人事みたいに言うなよ」


「なんでびのはそんなに怒っているの?」


「怒りもするよ。こんな危険なもの持ち込んで。異世界に転移したからよかったものの、現実世界の外国に転移してたらどうする気だったんだよ?」


「やだなー、ダイナマイトは核爆弾じゃないんだよ?」


 もたず・作らず・持ち込ませずの三原則に入っていないから大丈夫だよ。


 税関とかでばれなければ。


「そういうこと言ってんじゃないよ。テロを起こそうとしてるんじゃないかとか疑われるだろう?」


「もう、公共の場でテロなんて物騒なこと言わないでよ。この可愛い覧ちゃんがテロなんて起こすはずないじゃない……やって飯テロくらいだよ、テヘペロ」


 飯テロって言っても、料理はあまり上手じゃないんだけどね。


「誤魔化そうとしてもそうは問屋が卸さないぞ」


「えー、いいじゃん。魔法があるんだから、ダイナマイトくらい可愛いものだよ」


「大臣から話を聞いてはじめて、魔法があると分かったんだから、それは結果論だろ?」


「まあ、そうかもしんないけどさ。護身用だと思えば……」


「護身用にダイナマイトは無理があるからな? 任侠映画かよ?」


 ううー、久々にこんなに怒っているびのをみた。


 私、よっぽど世間とズレたことを言ってるみたいだ。


「ごめん、今度からもうダイナマイトは持ってこないよ」


 素直に謝る。


「まあ、わかればいいんだがな」


「それなら気を取り直して武具屋へ向かうぞ」


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