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第11話 金貨

 

「ふん、どんな考えがあるってんだ?」


 どちらが上か教えてやると言わんばかりの王子。


「元の世界に帰ろう、びの」


「元の世界に帰る……だと? はっはっはっ、お前ら、伝説を知らないのか? 勇者たちはヨンキョウを倒したら元の世界に帰ることができるんだぞ?」


「別に魔王とやらを倒す必要ないんだ、私たち。だって、そんなことしなくても、元の世界に帰れるんだから」


 こちらには、私のコンパクトがあるのだ。


 正常に作動するかどうか不安はあるが、飛行機で帰れないと分かった以上、このコンパクトで帰るしかない。


 当初は、この街を観光したら帰る予定だったけど、こういう態度を取られたんであれば、別にここにいる理由もない。


 さっさと鏡を覗きこんで元の世界に帰ればいいだけだ。


「は? お前らは召喚されてこの世界に来たんじゃないのか?」


「違う、違う。たまたま、偶然、この世界に着いただけだ。そもそも、誰がオレ達勇者を召喚できるんだよ?」


「おお、偶然ということは、大いなる力によって……つまりは、神の思し召しってことか」


「あ、そういうのでもないから。実際に元の世界に帰れるし」


 私たちがこの世界に着いたのは、神の思し召しでも、この世界の人々に召喚されたからでも、ましてや王子に呼ばれたからでもない。


 私の研究が失敗してこの町に着いただけなのだ。


「何? 伝説では、勇者は魔王を倒して、元の世界に帰るんじゃないのか?」


「伝説なんて、あくまで伝説だよね? 必ずしも真実とは限らないでしょ?」


 私はいつでも帰れるようにコンパクトを開けた。


「おい、大臣、どういうことなんだ?」


 王子は大臣の胸倉につかみかかる。


「あ、もめるんなら、勝手にもめてくれ。面白かったぜ、異世界。行こうぜ、覧」


「あの……ちょっと、待っていただけないでしょうか?」


 王子は大臣をぱっと離し、手をもみもみさせながら、先ほどよりも下手にでてきた。


「兵士にも一緒に聞いて欲しい話なの?」


 少なくとも交渉をしたいなら、高圧的態度をとらせないよ。


「おい、兵士、誰がお前たちを呼んだんだ? お前らは下がってろ」


 兵士を呼んだのはお前だろ。王子。


「いや、しかし……いいのですか?」


 弓を構え、兵士たちは困惑している。


「いいから、下がってろ」


 王子は兵士を下がらせた。


 やっと、自分の立場が分かったようだ。


「おい、大臣、せっかく勇者様が来てくださってるんだから、お茶でも用意しろ」


「お茶なんかいらない。しびれ薬でも盛られたら帰れないからな」


 びのは申し出を断る。


 確かに、そんなもの盛られて、鏡を没収されたら帰れなくなってしまう。


「ちっ、きづきやがったか」


「何か言ったか、王子?」


 聴こえているはずなのに、びのはあえて訊き返したようだ。


「いや、何も」


 王子は首を横に振る。


 ここは何も言っていない一択だろう。


「じゃあ、オレら、帰るから」


「まあ、そうおっしゃらずに。ゆっくり異世界を楽しむというのはいかがですか?」


 大臣も手をもみもみさせながら近づいてくる。


「まあまあ、びの、せっかく異世界に来たんだし、話だけでも聞いてあげようよ」


 ここで帰ってもいいが、せっかく異世界に来たんだ。


 事情をきいて同情したふりをし、ある程度王子の気が済んだところで開放してもらい、大臣の言うように異世界観光を楽しんでから帰っても何の問題もないはずだ。


「お、話が分かるじゃないか、お前」


 王子は私が仲間になったと思ったのだろう。


 横柄な態度を取った。


「お前じゃなくて、覧って、名前で呼んでくれます?」


 私は王子を睨みつけた。


 今度はこちらが上から目線をする番だ。


「ああ、分かったよ、覧」


 だんだんと立場が弱くなる王子。いい気味だ。


「で、話とはなんだ? 手短に頼む」


「このジオフの世界に突然現れたモンスターを退治して、魔王を倒して欲しい」


「突然ってことは、この世界にはそもそも魔物はいなかったってこと?」


 私は王子に尋ねる。


「ああ、そうだ。1体もいなかった」


 元居た世界と同じで、魔物の居ない平和な世界だったのか。


「ああ。そうだ。しかし、一週間前になって、魔王がどこかから現れ、世界中が魔物だらけになってしまった」


「ふーん、世界中が魔物だらけになった原因は魔王の出現ってことか?」


「おそらくな。そのせいで今、ジオフの世界は大混乱だ」


 魔王が現れ大混乱……


 これは異世界の話だけど、私たちの世界にもこんなことあり得るのかもしれないな。


 突然町中はゾンビだらけ。


 黒幕は未来から来たロボット……なんてこともあり得る話だ。


 いや、多分ないけど。


「その混乱を収めようと躍起になっているのね?」


「ああ。国が総力をあげて挙兵したが、たった1体の魔王に全滅させられてしまった」


 人差し指を立てて、1体を強調する。


「魔王の1体に全滅させられたって……」


 ここの兵力が弱すぎるのか、はたまた魔王が強すぎるのか。


「そこで勇者びの、魔王と戦ってくれないか?」


 王子は頭を下げる。


「……って言われても、ここに来たばかりだし、武器だって持ってないしな……」


 そうなのだ。


 私たちにはそもそもお金がない。


「そういうと思って、金貨300枚用意した」


 装備がないなら、買えってことか?


 こういう時って、王家の秘剣とかくれるんじゃないのか?


「ちなみに、金貨300枚って、どれくらいの価値あるの?」


 価値も分からずに、300枚とか言われて困るので、私は尋ねる。


「どのくらいの価値なんだ、大臣?」


「価値でございますか?」


「ざっとでいいからお金の説明してくれると助かるんだけど」


 私はどれくらいの価値があるのかを尋ねた。


「簡単にお金の種類から説明いたします。我が国では、3種類の貨幣があり、銅貨をブロンズ、銀貨をシルバー、金貨をゴールドと呼んでおります」


「紙幣はないの?」


「ええ、紙幣はございません」


「両替商で銅貨10枚が銀貨1枚と交換でき、銀貨10枚で金貨1枚と交換できます。ちなみに相場ですが、銅貨1枚で一般的なパンが1個買えます」


 なるほど。銅貨は百円、銀貨は千円、金貨が一万円みたいなもんだな。


「その価値は、確かなのか? 間違いだったら、ただじゃおかないぞ」


 びのは大臣を睨みつける。


「ええ。間違いないです」


 ちょっと待って。


 300ゴールド……って、300万円?


「300ゴールドじゃ、割に合わないよ」


 私たちのこと舐めてるの?


 勇者の報酬が300万円って……安すぎでしょ。


「やっぱり、元の世界に帰ろう、覧」


 そだね……と私は同意する。


「ちょっと待った」


「何だ?」


 王子のちょっと待ったに耳を傾けるびの。


「500ゴールドで手をうちませんか?」


 王子がもみ手をしながら、訊いてくる。


「さあ、帰る準備だ。覧」


「1000ゴールドで、なんとか手をうっていただけないでしょうか?」


「はあ? 命かけるのに、1000ゴールド?」


「おいくらならいいんでしょうか?」


「20万ゴールド」


「20万ゴールド?」


 王子はびのの言葉を繰り返した。


「この国の国家予算ですぞ、王子様」


 大臣はあんぐりと開いた口で、王子に伝えた。


「オレたち、魔王を倒すために命かけるんだからそのくらいだせるだろ?」


「……分かった。オレも男だ。その額を出そう」


「王子様、そんなお金どこから捻出するんですか? ただでさえ復興支援にお金を回さなければいけないのに」


「それは……だな……これから考える」


「はぁー、しょうがない、王子の心意気を評価して、2000ゴールドにまけてやるよ。ただし、前払い金として1000ゴールドは今日いただいて、魔王を倒したら後払いで1000ゴールドでどうだ?」


「「よろしくお願いいたします」」


 王子様と大臣は深々とびのに頭をさげた。


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