第10話 ステータス
「お待たせいたしました。それでは是非、ステータスのチェックを」
「で、どうやって使えばいいんだ?」
びのは王子に使い方を訊く。
「えっと、どうするんだっけな、大臣?」
「ただ、そのスクロールを持って、『ステータスよ、出ろ』と強く念じていただければ良いだけでございます」
「そうそう、この巻物を持って、『ステータスよ、出ろ』と念じるだけでいいんだ」
そのセリフ、さっき、大臣がほぼほぼ言ったんだが、多分突っ込んだら負けなんだろうな。
「それじゃあ、まずは、私のステータスから」
私はスクロールなるものを王子様から受け取り、数値を確認する。
『ステータスよ、出ろ』
心の中で念じると、黒い文字が浮かび上がってきた。
戻衛 覧LV1 身長:165cm 体重:秘密
HP:112
MP:112
天職:科学魔法発明家(超絶レア)
筋力:112
体力:112
耐性:112
敏捷:112
魔力:112
魔耐:112
運 :112
技能等:言語理解【日常会話、読み、書き、計算】 レア度:☆☆☆
魔法知識 レア度:☆☆☆
科学知識 レア度:☆☆☆☆
魔法と(・)科学との融合 レア度:☆☆☆☆☆
「へー、数値だけが出るんだね。円グラフとか棒グラフとかにすれば、もっとわかりやすく解析とかできそうなのに」
「異世界のスクロールに改善点を探すなよな、覧」
論文にばかり触れていると、すぐにグラフ化したくなるのは研究者の性だよ。
「ステータスがほとんど112? これはいい数字なのか、大臣?」
王子は、大臣に問う。
「覧様、ちょっとステータスを拝見させてください」
大臣は、ははーんと得心がいったかのように頷く。
なんなのだ?
自分だけ納得して。
「どうしたんだ、大臣?」
王子も大臣の反応が気になったようだ。
大臣がどうしたかを訊く大臣。
「いえ、なんでもないです。112ですか……ステータスの数字は体調や状況よって変化しますが、この世界の平均的な子どもが10、大人が100ですので、平均より少し高いですね」
「大臣、大人の平均より少し高いってことは、つまり、そんなにすごくはないということか?」
私に不審な目を向ける、王子。
大臣の話聞いてなかったな、このポンコツ王子。
「12歳で大人の平均以上の数値ということは、すごいということです」
「ほう、そんなにすごいのか?」
「ええ。加えて、星5つの超絶レアな天職と技能がありますし」
「おお、覧、天職と技能がそれを補うってよ、良かったな。大臣もそう思うだろ?」
大臣に話をふった。
この王子様、ステータスのことよく分かってないな。
「ええ、超絶レアの技能など、生まれてこの方、見たことございません。それに、成長期の12歳ですし、今後期待できるでしょう」
「そうか、そうか。超絶レアな技能があるなら、期待できるな。それに、せいちょーきだもんな。期待してるぞ」
多分、成長期の意味もよく分かってないのだろう。
「この次期王様のために、活躍しろよ、覧!!」
「はい、もちろんです。王子様」
私は建前上お辞儀して、ニコッとほほ笑んだ。
多分、これが一番面倒くさくないやり過ごし方だろう。
「ふふふ、どうやら、ステータスの数値は上々だね」
「毎日筋トレ頑張ってるもんな」
まあね。
この美ボディを維持するためにモデル並に頑張ってるからね。
「そうだ、良いことを思いついた。覧、お前をこの次期王様が、王宮で雇ってやろうか?」
「それには及びません。私は、びのについていくので」
「そうか。残念だ」
このポンコツ王子の下で働けって言われたら、1億円積まれても願い下げだよ。
「さあ、次は、お前の番だ!!」
「ああ」
「とっとと、紙を受け取って、ステータスよ出ろって念じろよっ」
王子はびのにスクロールを差し出した。
「あ、王子様、ステータスを持ったまま、ステータスよ出ろなんて発言なさったら……」
「ぷふっ……」
王子からスクロールを受け取ったびのは、笑いをこらえるのに必死だ。
どうしたんだ?
私は、びのが渡されたスクロールを後ろから覗きこんだ。
ダウゴ LV15 身長:180cm 体重:90kg
HP:615(+200)
MP:10(+0)
天職:大将
筋力:50(+10)
体力:50(+10)
耐性:35(+5)
敏捷:5(+0)
魔力:5(+0)
魔耐:5(+0)
運 :30(+0)
技能等:火事場のアホ力 レア度:☆
自己中心 レア度:なし
天職が大将って何だ?
敏捷・魔力・魔耐が5?
こんなに弱いのに王子なのか?
やばいな、この国。
頭も良くなさそうだし。
私が王子のステータスを知ったら、すぐにでも異国へ逃げ出すレベルだ。
見なかったことにしよう。
「このスクロールを消して初期化することはできるのか?」
王子と話すと面倒だと思ったのだろう。
びのは直接大臣に尋ねた。
「いいえ、一度ステータスがでると、その人のものしか映し出せません」
「このスクロールは既に他の人のステータスがでているようだ。スクロールをもう一本もらえるか?」
「ここに」
びのは大臣から直接新しいスクロールをもらい、大臣に王子のステータスが浮き出たスクロールを返した。
大臣からスクロールを受け取ると、びのはすぐに念じ始めた。
私は浮き出てくる文字を横からみつめる。
旅乃 びの(たびの びの)LV1 身長:172cm 体重:59kg
HP:1000
MP:1000
天職:勇者 レア度:☆☆☆☆☆☆☆
筋力:1000
体力:1000
耐性:1000
敏捷:1000
魔力:1000
魔耐:1000
運 :1000
技能等:全値全能 レア度:☆☆☆☆☆☆☆
「この次期王様にもステータスを見せてみろ」
王子はびのが持っていたステータスを乱暴に奪い取った。
「この次期王様の見間違いか、大臣。LV1で、ステータスが1000ばかりじゃないか?」
「びの様もですか……」
大臣は王子の持っているスクロールを横から覗きこんで、したり顔をする。
なんだ、さっきから? この大臣? 自分一人だけで納得して。
「なんか言ったか大臣?」
「いいえ、何も」
「天職が勇者ってことは、こいつが勇者で間違いないんだろ?」
「ええ。おそらくは」
大臣は、不審な眼をしながら、びのをねめつけた。
「レベル1でほぼ1000って、すごいね、びの。全知全能、旅乃びのだね」
「びの、お前はまごうことなき勇者だ。最初から分かっていたぞ、勇者びの」
いや、お前、最初怪しんでただろ?
調子のいい王子だ。
「よし、勇者の資質も分かったところで、早速依頼だ」
「依頼?」
びのは訊き返した。
「ああ。勇者よ。魔王を倒してほしい」
「さっきも言ったんだが、気が向いたら、倒してやるよ」
「ありがとう、勇者なら快く引き受けてくれると……って、お前、今、何て言った?」
「だから、気が向いたら倒してやると言ったんだ」
でた。気まぐれびの。
気が向かないと何事にもなかなか重い腰をあげないんだよな。
「おいおいおい、勇者様が聞いて呆れるぜ。困っている民たちを救おうという気もないのか?」
「ない」
即答するびの。
「ふざけるな!」
王子は怒りを露わにし、
「ふざけてない」
びのは冷静に応答した。
「この町で今何が起こってるのかわかるだろう?」
「わからない」
「分からないなら教えてやろう」
「いや、待て。それを聞いたら、戦わなければいけないならオレは聞かないぞ」
口論になってるし。
「なんて勇者だ! おい大臣、こいつらを牢屋に入れろ。牢屋に入れば、気も変わるだろうさ」
王子は私たちを脅してきた。
なんでも権力をふりかざして解決しようとしてた過去が見えるように分かる。
「こんなところから出るぞ、覧」
「はい、そうですかと逃がすとでも思ったのか? おい、誰か、であえ!!」
オレたちは弓を持った兵士に囲まれる。
「今、世界を助けるというのであれば、牢屋送りは免れるぞ。お前も覧も」
上から目線で対応してくる王子。
かっちーん。頭にきた。
自分の思い通りにならないなら、牢屋送りっていう態度が気に入らない。
「そういうことなら、こっちにも考えがあるんだからね」
私は大声で叫んだ。