第1話 夢
バッドエンドになる予定です。
この物語は【『旅乃びの』と『戻衛覧』の異世界漂流記~ステータスだけ、ファンタスティック~】のアナザーストーリーですが、それを読まなくても楽しめます。
むしろ、今作からお読みの方は、前作を読まないことをオススメします。
前作をお読みの方は今作を読まないことをオススメします。
2020/7/2 前書きを訂正しました。
「びの様、びの様」
誰かがオレを呼んでいる。
ん? ここは?
ここは、今まで見たことない場所だった。
どこまでも、霧がかかっている白い空間が続いている。
声の主は何処だろうか?
目を瞑り、周囲の気配を肌で感じ取る。
オレの斜め後方3メートルに誰かいる。
振り返ると、人影がこちらに向かって近づいてきていた。
「お前は誰だ?」
「私は、女神カシズです」
オレが問うと、女神カシズは即答で返事をしてきた。
白いキトン服をまとっているが、日本人のような顔立ちで、髪は黒くサラサラロングヘア―だ。
「女神カシズ?」
ギリシャ神話に限らず、メジャーな神話は一通り知ってるが、そんな女神聞いたことない。
おそらく、マイナーな女神なのだろう。
「旅乃びの様……ですよね?」
「ああ、そうだ」
この女神、オレのことを知っているだと?
何故知っているんだ?
「貴方にジオフの世界を救って欲しいのです」
「どういうことだ?」
オレに世界を救えだ?
新手の詐欺か?
怪しすぎるだろ、この女神。
「後ろをご覧ください」
後ろを振り返ると、そこには、南国の樹海のような世界が広がっていた。
「CGか?」
「いいえ、CGなどではありません。ジオフの世界です。崩壊していく世界を守って欲しいのです」
「オレが? ははは……冗談きついぜ」
オレはどこにでもいるような中学生だ。
今見せられた世界を救え?
何故オレが、世界を救わなくてはいけないんだ?
「びの様、よくお聞きください。貴方はこの世界の勇者なのです」
「出た。異世界テンプレ、『貴方が勇者です』真に受けるほどオレは子どもじゃないぜ」
自分で自分は見極めることくらい、オレにもできるんだぜ。
「いいえ、びの様は、ジオフの世界の魔王を倒す力があるのです」
「仮にオレに力があったとしよう。その力で命がけで魔王を倒して、オレに何の得がある?」
お姫様のキスか?
そんなもののためだったら、オレはごめんこうむるぞ。
「ジオフの世界の人々から賞賛されるでしょう」
「ああ、そういうのいらないんだ、オレ」
オレ、得になるかならないかで物事を決める性格だし。
そもそも、賞賛ならいつもされてるからな。
「お願いします。貴方にしか救えないのです」
頭を下げてお願いしてくる女神。
「はん、取引にもなってないぞ、自称女神」
「まあ、そう結論を急がずに、このステータスを見てください」
「こ、これは……」
「ファンタスティックでしょ?」
旅乃びの(たびのびの)LV99 身長:172cm 体重:59kg
HP:9999
MP:9999
天職:勇者 レア度:☆☆☆☆☆
筋力:9999
体力:9999
耐性:9999
敏捷:9999
魔力:9999
魔耐:9999
運 :9999
技能等:万能力! レア度:☆☆☆☆☆
「ふん、レベル99でオール9999か……オレも大したことないな……」
「何を言っているんですか? オール9999ですよ?」
「それが大したことないって言ってんだよ」
何でフルカンが9999なんだよ?
もっとあったっていいじゃないか。
「このステータスなら、魔王どころか、神様にも勝てるかもしれないんですよ?」
「オレが、神様にも勝てるかもしれない? おいおい、神様弱すぎだろ」
そんな脆弱すぎる世界、滅びても仕方ない。
「だからこうして、女神の私が恥を忍んでお願いしているのです」
「あのさ、オレが神を倒せるんだとしたら、今、ここでお前も倒せるはずだよな?」
準備運動がわりにオレは指をパキパキと鳴らした。
「えーっとですね……ジオフの世界を救っていただけませんか?」
「オレの質問をなかったことにするんじゃねえ」
「私が倒されてしまったら、誰がびの様を転送させるんですか?」
「いや、もともと行く気ねーから」
「ああ、わかりました。魔王が怖いんですよね?」
「は?」
そんなわけねーだろ。
「分かりますよ。神様でも倒せないんですから、一介の中学生が倒せるわけないですよね?」
この女神、あおってきやがった……
「そうですよね、無理はしないでください。他をあたりますから」
「ちょっと待て」
「いいえ、待ちません」
オレの制止を振り切り行こうとする女神。
「ふざけんな! 俺をなめるんじゃねー!!」
「なめてませんよ。でも、異世界に行かないってことは怖いからですよね? 自分は安全圏に居たいと願うからですよね?」
「怖くなんかない」
「それじゃあ、ジオフの世界に行っていただけるんですか?」
目を輝かせながらオレに尋ねてくる女神。
乗せられてるのは分かっている。
だが、臆病者のレッテルをはられるわけにもいかない。
「気が向いたらな」
「それでは、ジオフの世界へ転送します。今すぐに」
「気が向いたらって言ったよな? 勝手に話を進めんな」
気が向いたらっていってんだろーが。
「とりあえず、鏡を覗き込んでください」
「人の話を聞け」
「まあまあ、そうおっしゃらずに、鏡を覗いてくださいよ」
女神はオレの手を取り、鏡の前に立たそうとする。
きっと鏡が転移装置の役目を果たすのだろう。
「嫌だ。オレは気が向いたらジオフの世界に行くと言ったんだ」
オレは女神の手を振り払った。
「無理矢理覗き込んでいただきます」
女神は姿見らしきものをうんしょと持ち上げると、オレの前に持ってきた。
「その鏡が『あなた』を新しい世界へと誘ってくれます」
「オレは今のところジオフの世界に行く気はない」
「とりあえず、鏡を見ましょうよ」
「うるせー」
オレは鏡にパンチをした。
パリン。
鏡は粉々に割れてしまう。
「残念だったな、女神。オレを異世界に送還できなくて」
「くすくす……」
突然笑い出す女神。
何がおかしいんだ?
「いいえ、問題はありません。なぜなら、これは夢オチなのですから」
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