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65.ラインハルト視点 ⑩


 片目しか使えない為、最初は違和感があったが暫く訓練すれば慣れた。

 そろそろ二年経つと思うと、気も漫ろになり何をしていても集中出来なくなっていて、結局ギルドでただルティカを待つ日々を過ごしていた。

 

 

 そんな日を何日か過ごしていると、見た事のない黒髪の背の高い美丈夫が、黒いマントを着込んだ二人を連れてがギルドに入ってきた。

 あのマントには見覚えがある。


 やっと帰ってきたと嬉しかったが、ユノがお揃いのマントを着てるのを見てると何だかムカつく。

 二年振りの再会だ。そんな気持ちを押し殺し、フードをとりルティカ達に近付き声を掛ける。


「久し振りだな、ルティカ」

「ラインハルト様っ! ど、どうされたんですか? そのお姿は!?」


 ルティカが驚いて、慌てて近寄って来た。


「どうって……私も冒険者になっただけだ。ランクもAに上がったぞ」

「はぁ!? ランクA? 何で? どうやって? それより公爵家は?」

「まあ、こんな所でなんだ。貴方がギル? 場所を変えても良いかな?」


 こちらも色々聞きたい事がある。

 久し振りに貼り付けた笑みを作り尋ねてみた。


「いや、俺は他に用事があるので……二人で行くと良い。では、また明日にでも。じゃあな、ルカ。行くぞユノ」

「あ、はい。ではまた」


 ギルとユノは、そそくさと去って行ってしまった。

 まあ、ルティカが居れば良いので、そのまま見送った。



 少し怯えてる様な気がするが、気のせいだろう。

 ルティカを宿の部屋に連れて行く。連れて来たは良いが、よく考えたら一人部屋でベッドと机と椅子が一脚しかない事に気付いた。

 少し気不味かったが仕方ない。ルティカには椅子を勧め、自分はベッドに座った。


「元気だったか?」

「はい、変わりなく。でもラインハルト様のその眼は……どうされたのですか?」

「ああ、コレか。ちょっとヒュドラを討伐する時にやられてしまってな」

「ヒュドラ!?」

「だ、大丈夫だったのですか!? あ、いえ大丈夫じゃなかったからお怪我されたという事ですか?」

「いや、討伐は出来た。これは油断しただけた。その功績もあってランクが上がったんだ」

「そうだったのですか……でも無理はなさらないでください」


 あぁ……ルティカは優しいな。この傷も心配してくれているだけで、嫌がってはいない様だ。良かった。それが嬉しくて堪らない。


「ああ、大丈夫だ。心配してくれて嬉しいよ。でももう公爵ではないし夫婦だろう? 敬語も使わなくて良いし、ラルフと呼んでくれ。私もルティと呼んでも?」

「ええ……良いですよ。それでその……公爵ではないとは?」


 やった!

 ずっとそう呼びたかったんだ。


「公爵は弟のツヴァルツに譲った。一年は引継ぎもしていたが、去年からは本格的に活動してランクも上げたんだ。これでルティと一緒に冒険出来るぞ」

「公爵家を譲るなんて何て事をなさるんですかっ! お義母様もそんな事を許されたのですか?」

「ああ。もちろん最初は良い顔をされなかったが、どうしてもルティと一緒に生きていきたいと言えば許してくれたよ。ツヴァルツも良いってさ」


 寧ろ母上には応援されたが。


「その……随分雰囲気が変わったのですね。フランクというか、軽いというか…」

「敬語は禁止だと言ったろ、ルティ。私も学んだんだ。貴族のままではルティは逃げるからな」


 そう言いルティカに手を差し伸べ、そのまま指先にキスを落とす。


「もう逃がさないよ。一緒に生きていこう。愛してるんだ、ルティ」


 ルティカを真っ直ぐに見つめ、思いの丈を伝える。

 

 眼を見開いて俺を見ていたが、じわじわと頬が赤くなっていった。

 これは喜んでくれているのかな?

 そう思って見ていると、ふらふらと視線が揺れた。

 何か不安でもあるのか?


「で、でも私はこれから地道にアイテムを集めようと思っていたので……その……目立った活躍とかはしないと思うけど……」


 何だ、そんな事か。


「構わないよ。ルティと一緒に居られればそれで。金に困っている訳でもないし、君のやりたい事をすれば良いさ。手伝うよ」


 そう言うと、やっとルティカは晴々とした笑顔を見せてくれた。


「本当に? 良いの?」

「勿論だ。その為にレベルも上げたんだ」

「そんなに思ってくれていたのね。知らなかったわ」


 やはりジャンの言った通りだ。

 何も伝わっていなかった。


「ああ、学んだと言っただろう? 気持ちは伝えなきゃ伝わらないと分かったし、もう遠慮はしない。ずっと好きだったんだ。貴族でも冒険者でもどんなルティでも構わない。もう離れないぞ」


 その気持ちを込めてルティカを抱き締める。


 やっと……やっとだ。

 どれだけ触れたかった事か。

 

 毎日好きな相手が隣で寝ているのに、何も出来なかった俺はやはりヘタレだったのだろう。

 

 ルティカは一瞬固まったが、ゆるゆると力を抜き身を任せてきた。


「嬉しい。これからもよろしくお願いね、ラルフ」


 俺を見上げて、にっこりと笑ってくれた。

 あぁ……俺も嬉しい。


 幸せを噛み締めていると、ルティカが胸に顔を寄せ、背に腕を回してぎゅっと抱き締めてくれた。


 初めてだ。

 

 ルティカが自分の胸の中に居る。

 それだけで幸福感に満たされる。


 しかもぐりぐりと頭を擦り付けてきた。



 

 ……うん、もう無理。

 


 ルティカを抱え直し、横抱きにする。


「ふふふ、ルティ。愛しているよ。もう離れないぞ」



 そのままベッドに運び、啄む様にキスをする。

 頬を染めたルティカも応えてくれて、どんどん深くなる。


 優しくしたかったが、段々抑えが利かなくなって結局、夜明け近くまで寝かせてやれなかった。 





 温かい。

 

 気持ち良く眠っていると、何かが頬に触れた。


 目を開けるとルティカが居た。

 目覚めて初めて見える者が愛する人と言うのは、なんと幸せな事か。


「おはよう、ラルフ」

「おはよう、ルティ。良かった、夢じゃなかった」

「ふふ、当たり前でしょう」


 それを確かめる様にぎゅっと抱き寄せる。


「その傷、カッコイイけど私はラルフの眼が好きだから見たい。治して良い?」


 え? カッコイイ?


 いやいや、なんて言った?

 治す? 傷を?


「え? い、良いけど……」


 そう答えるとルティカが何かした。

 すると傷の疼き、視界が眩しい。


 眩しさが収まり、目を開けると視界が広い。

 何度か瞬きをして視界を確認しても間違いない。左眼が治っている!?


「やっぱり綺麗。私ラルフの眼が一番好き。ねぇ、見ても良い?」


 了承する前にルティカに頬を包まれ、額をくっ付けながら瞳を覗かれた。

 瞳を覗かれると言うことは俺にも見える訳で。


 ルティカの深い蒼がゆらゆらと煌めき、歓喜が見える。

 その中に愛情も見えて、心から幸せだと思った。

 

 そのままキスをする。

 勿論離せる訳もなく、何やらすっきりと疲れもなかったので、遠慮無くもう一度求めた。

 

  


◇◇◇



 結局昼過ぎに起きて、そのまま部屋でお昼ご飯を食べた。

 ソファーがないのでベッドの上に二人で座りまったりしてた。

 ルティカが俺に寄り掛かるように座り、寛いでいる。そんな些細な事が嬉しい。もう離れたくない。そう思いながら後ろから抱き締めても、嫌がる素振りもない。幸せだ。



 さて、それは置いておいて。



「さて、ルティ。色々と聞きたい事があるのだか?」

「え? 何?」

「どうして目の傷を治せたんだ?」

「えっと……治療で?」

「そこまでのレベルになるにはかなりの年月が掛かると聞いた。どうしてルティに出来るんだ?」


 そう問えば、驚いた様に振り向き、ぶるぶると怯え出した。

 

 どうした?

 俺はルティカを愛しているから怖くないぞ?


 そう微笑めば、諦めた様に話し出した。



 そこから聞いた話は、信じ難い事だった。


 ルティカは前世の記憶を持っている。

 しかもそれは異世界で、この世界とは違い、魔法の無い科学と呼ばれるものが発展してる世界らしい。聴けば聴くほど興味深い。後でもっとじっくり聴こう。

 

 前世での年齢の分もスキルが獲得出来、生まれた時から使っていたためレベルが高いとの事。

 転生特典と言うものもあるらしい。


 強い筈だ。


 そして合成の腕輪を手に入れたので、それで色々作ってみたいと。


「ふーん、ずっと着けてたそれが合成の腕輪だったのか。外れないのか?」

「うん、無理。死んだら外れるみたい。でも使えるのは私の子孫のみらしいよ」

「じゃあ、俺らの子供なら使えるのか」

「う、うん、そうだね……」



 なら問題無いだろう。


 それより問題なのは……。



「で? 他にルティの事を知っているのは誰なんだ?」

「えっと……お父様と先生達と、ギルとユノだよ」


「ほぉ〜、俺は6番目か……」


 ちっ、思っていたよりも多いな。


「で、でもお父様には子供の頃にバレたし、先生達は教えて貰うために仕方なかったし、ギルは私より強いからバレただけだし、ユノは……」

「ユノは?」

「移動するのに必要だった? から?」

「はぁ?」


 どう言う意味だ?


「ブレアシードに暗殺ギルドがあったから、そこまで案内で連れて行くのに必要だったからだよ」


 必要?

 仕方なくって事か。


「それだけか?」

「う、うん」

「ふーん」

「それに先生達とユノは神聖契約してあるから、私の事は言えなくなってるよ」


 む〜。


「なら……まあ、いいか」


 

 参考までにルティカのレベルを聞いたら、116だった。


 ……ヤバイ。全然追い付けてない。

 先生達が規格外だと言っていた意味が少し分かった。


 少し落ち込んでいると、ルティカがレベリングする? と聞いてきた。

 何か聞いてみると、効率良くレベルを上げる方法らしい。

 望む所だ!!



 話していたら夕方になったので食事に行く。

 ルティカと食べる食事は美味い。

 

 今までは貴族としてのマナーがあり、こんなに砕けて付き合った事などない。

 こちらの方がルティカの素なのだろう。

 気取らず、自然な笑いが可愛い。


 食事や酒も進み、愛する者と共に部屋に戻る。

 幸せに包まれながら、夜を過ごした。



◇◇◇



 次の日にギル達と合流し、今後の話をする。

 ギルはユノと一緒に別の素材を探しにまた旅に出るそうだ。

 

 俺としてはルティカと二人になれるので、何の問題もない。

 清々すると思っていたらギルに呼ばれた。

 

「お前、あいつの旦那だろ? ちゃんと手綱は握っとけよな?」

「どういう意味だ?」


 勿論離すつもりなど無い。


「その内わかると思うけど、あいつかなり暴走するから気をつけろよ」

「? ああ」


 ポンと肩に手を置かれ


「まあ、色々頑張れや。俺は応援してるぜ」


 何やら応援された。

 どうやら敵ではなさそうだが……。



「じゃあ、俺達は行くわ。お前らも頑張れよ」

「うん、有難う。連絡はアレで取れると思うから、何かあったら言ってね」

「! バ、バカっ! お前っそんな事……」


 !?

 連絡を取る?二人で? 


「アレって?」

「ん? 離れても連絡取れる勾玉を作ったから、それでいつでも連絡が……」

「へぇ〜、二人で連絡を取るんだ? 何で?」


 俺が居るのに?


「じゃ、じゃあなー。元気でな!」


 ぶすっとしながらルティカを見ている内に、ギルとユノは去って行った。


「えっと〜……オルトロスの魔石で作った勾玉で……離れても連絡取れるから便利かなぁと思って作ってみました」

「取る必要なくない?」

「だ、だって素材とかで連絡事項とかが……」

「なくない?」

「そ、そうですね! ないです。それにアレよりもっと良い物があって、それをラルフと一緒に着けたいなと思ってました!」


 ……段々慌ててるルティカが可愛くて虐めていたが、何やら良い事を聞いたぞ。


「何それ?」

「勾玉は魔石500個だったけど、800個集めて作れるのがイヤーカフで、それを付けたら離れても会話が出来るらしいの。それをラルフと着けたいな!」


 ほうほう、中々の代物。

 

 そうだ! アレも。

  

「! 良いね、それ。それとユノが着てたのってルティとお揃いのマントだったよね? アレもある?」

「も、勿論! ラルフとお揃いにしたいと思ってたの!」

「そっか、嬉しいよ」



◇◇◇




 ギル達と別れて公爵家、侯爵家と挨拶をしに行く。

 公爵家では、ルティカを無事に捕まえた事を喜ばれ、侯爵家では仲良さげて良かったと言われたが、侯爵には仲良くやってくれと忠告された。


 これで何の障害も無くなった。

 ルティカと共に生きていける!



 感慨深くルティカを眺めていると、うきうきと言われた。



「じゃあ、ラルフ。手始めに近場に居るウォーウルフの尻尾を500集めるよ! 出来れば3300……ううん、4300欲しい所だけど、取り敢えずね」


 ! え? 聞き間違いか?


「えっ!? 何? その数!? 聞いてないぞ!」

「今、言ったじゃん。前にも言ったけど地道に集めるって」

「それにしてもその数、おかしくないか?」

「ないない、必要だもん。2個は使う用、もう1個はコレクション用に欲しいもん。それに欲しいものはまだまだあるよ。今度私の欲しいもの一覧表見せるね」


 一覧……。

 この様子だとまだまだありそうだ。


「是非……早目に見せてくれ。まあ、良いけどな。それがルティのやりたい事なんだろ?」


「そうだよ! だって私、コレクターだもん!」



 そう晴々とした笑顔で言うルティカが可愛い。

 これからはずっと一緒に居れるんだ。


 どんな我が儘だって聞いてみせるさ。



 取り敢えず、追い付かなきゃ男してダメだな。

 頑張ろう!






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