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62.ラインハルト視点 ⑦


 差し当たって溜まった仕事を片付ける。

 暫く休んでいた私がいきなり来て仕事をしだしたのを、訝しげに見ている輩が居たが無視した。


 一通り終わらせ、調べ物をしてから公爵家に戻り、エドワードに執務室にツヴァルツを呼んでもらう。


 書類を整理しているとノックが聞こえた。

 

 コンコン


「ツヴァルツ様をお連れしました」

「入ってくれ」

 

 ツヴァルツは父上の瞳と母上の金髪を受け継ぎ、母上似の優しげな雰囲気を持っている。私が見ても美しい顔立で、世の淑女達の人気の的だ。私は鬱陶しかったが、ツヴァルツはそんな女性達を上手く遇らっていた。特定の女性を作ってはいなかったが、思いを秘めている人が居ると私は思っている。


 メイドに紅茶を入れさせ、エドワードと共に下がってもらう。


「兄上、お話があるとの事ですが、義姉あねうえとはどうなったのです? 結局出て行ってしまったではないですか。一体何をしているのです?」

「ああ、ルティカには二年の猶予を貰った。二年後には帰って来る」

「猶予?」

「それまでに私は冒険者となり、レベルを上げてルティカを守れる位に強くなりたいと思っている。だからツヴァルツに家督を譲りたい。既に領地の管理は任せているのだし、問題ないと思うのだが……」

「はぁ? ちょ、ちょっと待ってください! 何がどうなって、そうなったんですか?」


 む?

 焦ったツヴァルツを見たのは初めてだな。

 そんなにおかしな事を言っただろうか?

  

「ずっと私の我が儘でルティカを縛っていると思っていたが、話してみて両想いだと分かったんだ。でもルティカはもう貴族ではなく、冒険者として生きていきたいそうだ。だったら私が冒険者になれば良いだけだ。そう思わないか?」

「……いやいやいや、どうしてそうなるんですか!? 兄上が公爵を辞める? そんな……」

「公爵は私でなくとも良い。でもルティカの側に居るのは私でありたいのだ。お前には悪いが公爵領を頼めないだろうか?」

「……」

「駄目だろうか?」

「……本気なのですね?」

「ああ」

「はぁ〜、他ならぬ兄上の頼みです。分かりました、引き受けましょう」

「本当か!?」

「ただし!!」


 ずいっと乗り出しながら、真剣な顔で真っ直ぐに私を見て言った。


「絶対に義姉あねうえを捕まえて、逃さない様に!! 分かりましたか?」

「ああ! 有難う、ツヴァルツ」


 私は良い弟を持ったな。

 そう感慨深く思っていたが、次の言葉でそれ所では無くなった。


「でも母上にはきちんと兄上から説明してくださいね。あと、陛下の了解も」

「! ……あ、ああ、勿論分かっているさ」





 次の日に母上に話を聞いてもらう。


「それで? ルティカちゃんはどこ行っちゃったの? 帰って来ないの?」

「ルティカは二年後に戻ってきます。それ……」

「二年後!? ラインハルト! 一体何してるの!?」

「聞いてください、母上! ルティカと話し合って、私は今まで誤解していた事に気付けました。ルティカも私を思っていてくれたと分かりました。だからルティカと共に生きたいのです。私はツヴァルツに家督を譲り、ルティカが帰って来るまでに冒険者として強くなろうと思っています!」


 一気に言い切って、母上を見る。

 母上は俯いて、微かに震えている様だ。


 やはり勝手に決めたのは不味かっただろうか……。


 そう思い、何と言って説得しようか考え出した所で、母上はガバッと頭を上げた。


「よく言ったわ! 見直したわよ、ラインハルト!! そうよ! 絶対にルティカちゃんを逃しちゃダメよ。ちゃんと強くなって見直して貰いなさいな」


 ものすごく良い笑顔で言われてしまった。


「え? 良いのですか? ツヴァルツに家督を譲っても?」

「まあ……良くはないけれど……公爵のままじゃルティカちゃんは逃げちゃうんじゃない? だったら仕方ないわ」

「有難うございます! 母上! 頑張ります!!」


「そうよ、その意気よ。頑張りなさい」

「はい」



 良かった。

 元々母上はルティカを気に入っていたし、彼女を見付けて紹介してくれたのも母上だ。応援してくれるとは思ってもみなかったが、有難いものだな。

 




 後日書類を揃えて、陛下に提出した。

 何か言われるかと構えていたが、何の抵抗もなく受理され、ツヴァルツが公爵の家督を継ぐ事になった。


 その代わりかフェリクス殿下に呼ばれた。

 

「お呼びでしょうか?」

「ああ、公爵を弟に譲ったそうだな」

「はい」

「それでお前はどうするつもりなんだ?」

「……好きに生きようかと思っています」

「そうか。……今まですまなかったな」


 !


 フェリクス殿下が謝るとすればバルバラ様の事だろう。

 でもそれはフェリクス殿下の所為ではない。


「いえ、フェリクス殿下の所為では……」

「いや私もおかしいと思った事はあったのだ。それを突き詰めなかったのは私の落ち度だ。叔母上にも申し訳ない事をした」

「……」

「公爵家の事は我々も気にかけておくので、安心して行くが良い。ではな」

「はい」



 バルバラ様に恨みがないかと言えば、ないとも言い切れない。

 今までの事を無かった事には出来ないし、ルティカを狙った事は許せない。

 断罪と言っていたが、実質は幽閉だ。フェリクス殿下が謝られた理由はここにもあるのかもしれない。


 だが私にはどうする事も出来なかったのだ。ルティカが動いてくれたから解決したまでの事。ルティカが許したのなら私に何も言う権利は無いだろう。


 

 

 まあ、これで仕事の引き継ぎが終わり次第、動けるな。


 まずはあの人を訪ねてみよう。




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