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61.ラインハルト視点 ⑥


 ルティカが出て行って、ぼんやりとしていた。

 仕事に行ってもミスばかりを連発し、しまいには帰って休めと言われてしまう始末。何もする気になれなかったので、言われるままに帰る。

 帰った所でする事もなく、使用人達からの視線がキツイがそれすらも気にならない。

 

 ルティカの部屋に勝手に入るのは憚られたので、扉だけ開けてもらいリビングから眺めているだけで時間が過ぎる。


 食欲もなく、時間の感覚すら無くなっていった。


 

 どうすれば良かったのか……。


 そればかりが何度も頭に過ぎる。


 間違った事は分かった。

 では、どうすれば……。


 

 

 どれだけ時間が経ったか分からなかったが、エドワードに明日はルティカに来てもらって話し合う日だと伝えに来た。


「旦那様。奥様にその様な情け無いお姿をお見せになるつもりなのですか? きちんとお二人でお話し合いしていただきたいのです。しっかりなさってください」

「……分かった」


 

 流石にルティカにカッコ悪い姿は見せられない。

 食欲は無いが、なんとか食べ、風呂に入って早めに寝る。


 朝も早めに起きて、ルティカがいつ来ても良い様に準備した。


 が、休んで良いという言葉を真に受けて休んでいた為に、仕事が溜まっていた。どうしても目を通す様にいわれた書類が、執務室に山の様に積まれていた。


 置いておいても無くならないので、仕方なく片付けていく。



 後少しという所でコンコンとノックが響いた。


「奥様がいらっしゃいました」

「入ってくれ」

「すまない、すぐに終わるので少し待っていてもらえないだろうか?」

「分かりました」


 ようやくルティカが来てくれたというのに、何をしてるんだ、私は。

 苛々しながら書類を処理していく。


 ようやく終わって顔を上げれば、ルティカは冒険者姿で紅茶を飲んでいた。

 見える場所に居てくれている……それだけで嬉しかった。



「それで、お話とは?」


 冷たい言い方に一気に気分が下がる。

 

「……離縁はしない」

「何故でしょう? 彼女を気に入ったのではないのですか? 公爵家も彼女がいれば大丈夫でしょう?」


 違うっ!!

 

 ……いや、ここで言い争いたい訳ではない。

 深く深呼吸して気を鎮める。 


「彼女を気に入った訳ではない」

「ではなぜ第二夫人に?」

「彼女に公爵夫人としての仕事をして貰ったら、貴女は……その……冒険者をしても問題ないかと思ったんだが……」

「それは、彼女に失礼ではありませんか!?」

「彼女は了承済みだ。あくまでそういう契約で、男爵家を援助する代わりに来て貰うつもりだったのだ」

「なぜそんな事を?」

「貴女が……貴族として生活するのを煩わしがってるのは分かっていた。段々元気が無くなってきたから……冒険者として生活すれば少しは気分が晴れるかと思ったのだ」

「お気にしていただき有難うございます。それならば、そのまま離縁して貰えれば冒険者としてやっていけますので助かります」

「離縁はしない!」


 嫌だっ! 絶対したく無い!!


「なぜです?」

「……」

「ラインハルト様は別に私じゃなくても良いのでしょう?」

「そんな訳あるかっ!」

「もしかして……ラインハルト様は私の事……気に入っていらっしゃるのですか?」

「当たり前だろう!?」


 ルティカこそ何を言っているんだ?


「そのような事、一度も言われた事がありませんでしたので……」

「そんな事なっ……言ってなかったか?」


 えっ?

 一度も?


 いや、確かに言った……ん? 言ってないか?



「はい、私を選んだのは呪いに勝てる程、強いからだと思っていましたわ」


 ずっとそう思っていたのか?

 まさか……そんな……。


「! そうなのか!? ……まあ、いい。貴女が嫌なら第二夫人は娶らない。戻って来てくれ」

「それでは彼女が困るのではありませんか!?」


 むぅ、確かに。


「……では援助の話だけは通そう」

「そうしてください。でも私は戻りません。離縁でお願いします」


 えっ!?

 どうして?


「そんなに私の事が気に入らないのか!?」

「……そんな事はありません。嫌いな貴族をやっても良いと思う位には、貴方の事を思っていました」

「ならば、なぜっ!?」

「久しぶりに冒険者として生活してみて、やはり私に貴族は向いていないとつくづく思いました。ラインハルト様の事は愛していますが、もう疲れました。申し訳ありませんが、離縁して自由にしてください」



 !!



「……今……何と?」



 聞き間違えか?

 いや……確かに言った。




「離縁してください」

「それではない! その前だ!」

「? 疲れました?」

「違うっ! ……その……私を愛して……いると?」

「ええ、勿論ですわ。愛していない殿方と結婚するのは流石に嫌です」

「……そうだったのか」


 

 ルティカも私を……。

 そうか、そうだったか。



「私も……伝えていませんでしたか?」

「……伝わっていない。てっきり私を疎んでいるとばかり……」

「それはあり得ません」

「でも、貴女は……し、初夜を嫌がったではないか」


 

 あれで私は、かなり心が折れたのだが……。



「あれは、丁度あの時に暗殺者が来てたからです」

「なっ! なに!! 何の事だ!?」



 それから聞いた事は、衝撃以外の何物でもなかった。


 バルバラ様が母上に毒を盛っていた事。

 ルティカは婚約した当初から、暗殺者にずっと狙われていた事。

 その証拠を集めてバルバラ様を断罪した事。


 だからルティカはいつも疲れて眠そうにしていたのか。


 何も知らずに私は……。

 下らない事で悩んで、彼女を傷付けて。


 一体何をしてるんだ。彼女に捨てられて当然だ。



「……何故……言ってくれなかったのですか?」

「言えば止められるかと思いまして」

「当たり前だ! 止めるに決まっている!! 何故そんな危ない事をしていたのです!? どうして?」

「それこそ当たり前でしょう? ラインハルト様を助けたかったんです」


 

 そんな……私のために?

 それ程私を思っていてくれていたというのに……。

 


「戻って来てはくれないのか?」

「私達の間に会話が少かったのは認めます。申し訳ありませんでした。でもやはりもう貴族は辛いのです。公爵夫人には戻りたくないです」


 やっぱり引き留めるのは無理なのか……。


「冒険者としてやっていくのですか?」

「はい、取り敢えずギルと世界樹の紅葉葉を採りに行こうと思っています」

「! 誰だ! それは!?」


 一緒に? 二人きりで?

 そんな相手が居たのか?


「い、以前からの知り合いで、時々一緒にパーティを組んでいた相手です」

「……その者の事が……好きなのか?」

「ギルは龍人です。龍人は番以外には好意を持ちません。ギルとは友人として親しくしているだけです。あと、契約的なものですね」



 ほっ。

 その者を好きな訳ではないのだな。良かった。



 そうだ! ルティカは私を好きだと言ってくれた。

 ならば両思いということではないか。

 だったら一緒に居ても良い筈だ。

 

 だがそれには時間が必要だな。

 


「その世界樹とやらはどこにあるんだ?」

「ラルファ国にあります」

「結構遠いんだな」

「そうですね、ついでに色々見て回ろうかと思っています」

「私の事は嫌いではないのだな?」

「はい」


 よしっ!


「では、その旅から戻って来るまで、二年の猶予を貰えないか?」

「? 猶予とは?」

「離縁はしない。戻って来るまでに何とかする」

「何とか……とは?」

「何とかだ。これ以上は譲らん。嫌なら閉じ込めてでも行かさんぞ」

「わ、分かりました。では二年後にまたお会いしましょう」



 言質はとった。

 後は私が実行すれば良いだけだ。 



 そう思い、ルティカを送り出そうとしたらユノも一緒について行くというではないか。

 此奴には一度確かめておかねばならないと思っていたので丁度良い。


「お前はルティカに気があるのか?」

「まさかっ! そんな事は一度も思った事はございません!!」

「本当か? もしルティカに何かしたら……」

「大丈夫です! そんな勇気はありませんっ!!」

「そうか、ならばお前の命を懸けても必ずルティカを守れ! 良いな?」

「勿論です!」


 少し気になったが、まあ良いだろう。


「ルティカ、ユノは一緒に行くそうだ」

「え? 良いのですか?」

「ああ、護衛も兼ねて連れて行けば良いだろう」

「……分かりました。じゃあ、よろしくねユノ」

「お任せください!」

「頼んだぞ?」

「……畏まりました」

 


 ルティカとユノを送り出して、私は登城した。

 やるべき事は山程ある。

 時間を無駄には出来ない。


 ルティカが戻って来るまでには、終えないと。


 もう二度とあんな思いをしないためにも!!



 

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