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60.ラインハルト視点 ⑤


 王城での夜会に招待された。それはいつもの夜会の筈だった。

 いつもルティカは私と踊ると、他の者からの誘いを断っていた。


 だが今回はフェリクス様とダンスをしていた。 

 彼女が私以外と踊るのは珍しく注目されている。

 

 当たり前だ。私が知る限り初めての事だ。


 そんな二人は親しげに何か話しながら踊っていた。


 

 一体どう言う事だ?

 いつそんなに親しげな間柄に?


 そう言えば以前にアルセナ様のお茶会に誘われていた。

 その時にでも?


 

 いや、冷静に考えれば王太子から誘われれば断れる筈もない。


 そうは思うのに、心が追いついていかない。

 私以外と踊っているルティカを見るのは辛かった。


 

 目を逸らしている内に、ダンスを終えたルティカを見失ってしまった。

 いつの夜会も途中からルティカを見る事がないなとは思ったが、私が帰ろうと思った時には側に居たのでそのまま忘れてしまった。



 帰りの馬車でルティカに聞いてみれば、楽しかったと。


 

 そうか……。

 楽しかったのか。



 

 自室に戻って考えてみたが、私達には交流が少ない。

 夫婦なのに。


 それにしょ……いや、それは考えない。

 

 


 少なければ、増やせば良いのだ!



 そう結論を出した私は、次の休みにルティカを誘って出掛ける事にした。

 

 なのにいきなり宰相が更迭され、仕事が忙しくなり休みが取れなくなってしまった。苦々しく思いながらも何とか仕事をこなし、ようやく休みをもぎ取るのに二週間も掛かってしまった。


 ルティカの行きたい所に行きたかったが、特に希望はないと言われ、ならばと以前にも行った遠乗りに行く事にした。


 

 今回も彼女が作ってくれたお昼を食べ、幸せだなぁとしみじみ思うとつい眠気が襲ってきた。すると彼女が膝枕をしてくれた。前回と逆だ。

 恥ずかしく思ったが嬉しさの方が勝り、言葉に甘えてしまう。


 気恥ずかしく思ったのも一瞬で、すぐに眠り込んでしまった。


 

 すっきりと目覚めると、私を覗き込んでいるルティカが見えた。彼女の髪を一房弄びながら、安心感と満足感に満たされた。




 起き上がって、そう言えば今日はお願いがあった事を思い出した。

 こんな事を頼むのは貴族としておかしいし、男としてもダメだと思う。

 でも嫌だったんだ。



「私に出来る事なら何でも聞きますよ?」

「……こんな事を言うのはおかしいと思うのですが……」

「?」

「その……私以外と踊らないで欲しいのです」

「ええ、良いですよ。元々そのつもりですし。この前はフェリクス殿下がお話があっただけです。もうそれもないでしょうし、大丈夫ですよ」



 良かった。拒絶されなかった。

 思ったより淡白で、フェリクス様に対して何の思いもなさそうで安心した。


 ほっとしていたら、ルティカが続けて話しかけて来た。

 


「そう言えば私もラインハルト様に、お伝えしておきたい事があります」

「何でしょう?」

「もうラインハルト様の周りの方が、不幸になる事はなくなりましたよ。これでお好きな方に、遠慮なさらなくても良いですよ。ご安心ください」

「え?」



 どう言う意味だ?

 

 好きな方?

 もう誰も不幸にならないとか……。


 好きなって……私が他に懸想するのが前提なのか?

 どうして?


 こんなに彼女が好きなのに。

 

 ……私は彼女に何とも思われていないと言う事なのか。




 確かに必要以上の接触は求めてこないし、周りの様な熱の籠もった目で見られた事はない。


 そうか……。

 そう言う事なんだろうな。




 でも……それでも、彼女の側に居たい。



 そう思いながら結局、今までと変わりない生活を送ることしか出来なかった。





 でも、どんどんルティカの元気がなくなってきた。

 いつも溜息をついて詰まらなさそうにしている。


 たまたまユノと楽しそうに話していたのを見かけた。

 久し振りに楽しげなルティカを見て、それを私がもたらす事が出来ない事を残念に思う。


 恥を忍んでユノに何を話していたのか聞いた。

 怪訝な顔をされた後に、生暖かく見られた気がしたが教えてくれた。


 ルティカに頼まれて、偶に冒険者として活動しているらしい。


 

 冒険者か……。


 元々は自由に冒険者として活動していたのだ。それを私が貴族として彼女を留めているに過ぎない。

 彼女が貴族を疎んでいるのは薄々気付いている。


 

 冒険者として活動すれば、元気になるだろう。

 生き生きとした彼女を見てみたいとも思う。


 だが、それだと私から離れてしまう。

 それは……避けたい。


 ではどうすれば良いのか。


 

 

 そうか!

 ルティカの代わりに公爵夫人をしてくれる人物を探して、貴族をやって貰えば彼女が冒険者をしていても問題ないだろう。

 そして毎日帰ってくる様に願えば、彼女なら受け入れてくれるだろう。


 そうすれば彼女も元気になるだろうし、私もまあ、それで良いだろう。


 よし! ではその方向で行こうか。




 

 そう思い探してみたが、これが中々難しい。


 ルティカが居ると言うのに、未だに私と婚姻を望む者が多かったため簡単に考えていた。だが、私に懸想する様な輩では困る。ルティカに敵対する者など論外だ。たとえ受け入れたとしても、私がその人物に触れる事はないだろう。それを了承し、純粋に契約として受けてくれる人物でなければ駄目だ。

 

 それまでは向こうから望んできた人物ばかりを検討していたので、今度は自ら捜す事にした。

 


 ようやく条件に見合った女性を見つけた。ウィードリス男爵の三女マリアだ。

 すると彼女は有難い話だが、一度ルティカに聞いてからの方が良いと忠告してくれた。


「どうしてそう思うのかな?」

「だって……形だけとは言え、自分の旦那様が他の女性と夜会に出席するのはお嫌だと思いますよ?」

「そうか? 私などルティカは気にも留めないと思うが……」

「そ、それに、流石に第一夫人では無く第二夫人と出席すると社交界でも噂が立ちます!」

「それこそルティカは気にしないと思うぞ?」

「……はぁ〜。じゃあ、一度会わせて貰っても良いですか?」

「勿論だ。今度紹介しよう」



 うむ、マリアはルティカを思いやってくれている様だし、これなら大丈夫だろう。





 それから話を詰め日を改めて、マリアを呼んで、ルティカに紹介する。

 何故彼女を迎えるのかを説明しようとしたが、その前にルティカが完璧な微笑みを浮かべながら、私に言い放った。


「では、私とは離縁なさってくださいね。慰謝料として今まで私に頂いたものを貰っていきます。ドレスなどどうせ私以外には着れないでしょうし。ああ、何か書類等でサインが必要な時は冒険者ギルドに言付けてください」



 は?

 

 え?



 言っている事が理解出来ない内に、ルティカは部屋から出て行ってしまった。


 ボー然としていると横からため息が聞こえた。

 ぎこちなく視線をやると可哀想な者を見るような目で、私を見ているマリアが居た。


「だから言ったじゃないですか。先に聞いた方が宜しいと」

「え? いや……だって……」

「何してるんですか! もう! 早く追いかけて引き留めないとっ!!」

「あ……あぁ、そうだな! すまん、待っててくれ」



 急いでルティカの部屋に行くと鍵がかかって入れなかった。

 エドワードに頼んで合鍵を持って来てもらい、中に入ると見覚えのない冒険者風の格好をしたルティカが居た。


 その姿も可愛いな……。


 いかんいかん、そんな事を思っている場合ではなかった!



「どういう事だ、ルティカ。離縁なんて何を言っているんだ!」


「ラインハルト様こそ何を仰っているのです? お義母様がどうしてもと言うから結婚しましたが、その際に私あなたに確認しましたよね? 浮気は許さないと。第二夫人? どうぞ勝手になさってください。公爵夫人もあの彼女がやってくれる事でしょう。今後私に関わらないでくださいね。それでは!」



 いや、浮気などでは無く……。


 そんな事を言う暇も与えず、ルティカは公爵家を出て行ってしまった。


 


 あっという間に見えなくなったルティカの後をぼ〜っと見ていたら、ゴホンと咳払いをしてエドワードが横に立っていた。


「一体何があったのですか? 旦那様?」


 何やら怒っている様だ。


 ショックから立ち直れず、ヨロヨロしながら執務室まで戻って何とか状況を説明する。


 

「旦那様。それでは奥様がお怒りになるのも無理はありません」

「そうですよね! やっぱりおかしいですよね? 良かった……私がおかしいわけじゃなかった……」

「マリア様。今日は一先ずお引き取り頂いても宜しいでしょうか? 後日改めてご連絡させていただきます。今日はこれからこのヘタ……旦那様を締め上げねばなりませんので」

「(……締め上げるって言ってる)はい、勿論構いません。それでは失礼させていただきます」

「ではお送り致しますね」



 そんな会話を聞きながら聞いていなかった。



 戻ってきたエドワードにどうしてこんな事をしたのか、一から説明させられた。

 聞き終わったエドワードは深い溜息をついて、「残念です」と呟いた。



「取り敢えず、まずサーバンド侯爵家に一度行かれて、戻っていられるかどうか確かめて来られたら如何でしょうか? もしおいでない様でしたら、仰った通り冒険者ギルドに言付ける方が宜しいかと」

「……何て?」

「一先ず六日後に来て頂いて、一度話し合いたいと伝えてみれば如何でしょう?」

「そうか……そうしてくる」



 回らない頭でサーバント侯爵家に行ってみたが、やはりルティカは居なかった。そのままギルドに行き言付けを頼んで戻る。



 使用人達には残念な目で見られ、母上には泣かれ、ツヴァルツには呆れられた。


「どうしてそんな事をしたのっ!? ルティカちゃんが出て行ったじゃない! ラインハルトの馬鹿!!」

「そうですよ。兄上は頭も良いのに、どうしてルティカ嬢の事になると阿呆になるのですか? 少し考えれば分かる事なのに……」


 

 何も言い返す事も出来ず、とぼとぼと自室に戻る。


 もう主のいない部屋を見て、改めて寂しくなった。




 私は阿呆だったのか……。


 ルティカ……。





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