59.ラインハルト視点 ④
婚約して、ルティカにドレスや宝石を贈ろうとしたら断られてしまった。
ルティカはドレスも宝石にも興味はないようだった。確かにあまり着飾るのも好きそうではなかったと思い直し、改めて欲しいものを聞いた。
すると欲しいものは別にないと言われた。
いらないと言われてしまったが、何かルティカに贈りたいと思う気持ちも消えなかった。どうしようかと思っていたら、躊躇いがちに花が欲しいと言ってくれた。寝室に飾る小さな花束が欲しいと。
私のために言ってくれたようだったが、嬉しかった。
毎日贈るのもどうかと思って、三日置きに花を摘んで贈った。自分で花を摘むのは初めてだったが、その行為は心が穏やかになり、私に欠かせないものになった。
◇
ルティカは夜会には私と同席する場合にしか出席しなかった。社交をする必要はないと言ったし、私の居ない場所で他の者に出会わないという安心感も伴い、それすら嬉しくなってしまう。
なのに暫くするとルティカが疲れているように見えた。
私が聞いても大丈夫としか言ってくれないのはもどかしかった。だから少しでもリフレッシュ出来るかと思い、出掛けないかと誘ってみたら遠乗りを望まれた。
女性が乗馬する事はまれだが、彼女が冒険者であった事を思い出し、了承した。
ルティカの乗馬の技術は素晴らしいものだったし、その姿も美しかった。
更に思ってもみなかった事に彼女の手料理を食べる事が出来、彼女にリフレッシュしてもらうどころか、私がご褒美をもらったようだった。
うたた寝をする彼女も見れたし、彼女も少しは気が紛れたようで安心した。
◇
結婚式を行う頃にはルティカの顔色も良くなり、素晴らしい結婚式になった。
彼女と寄り添って宣誓し、ベールを上げて初めて見た彼女に言葉が出ない。
なんて綺麗なんだろう。
これから彼女とずっと一緒に居られる事が出来る私は幸せ者だ。
うっとり見つめてしまったが、ルティカも私を……いや、私の瞳を見つめていた。本当に彼女は私の瞳が気に入っているようだ。それを嬉しく思い、微笑みながらキスをすると、嬉しそうに受け入れてくれた。
気もそぞろにパーティを終え、彼女を公爵家に連れ帰る。
彼女のために用意した部屋は、気に入ってもらえたようで良かった。
逸る気持ちを抑えるために、ゆっくりと風呂に入って部屋に戻る。
ようやく彼女を自分のものに出来ると思うと、堪らない。
落ち着けっ! 焦るな、私。
「ルティカ……き……」
「ラインハルト様! ………申し訳ございませんが、今日はちょっと疲れてしまいまして……先に休んでも宜しいでしょうか?」
「!! え!?」
今……なんと?
言葉を咀嚼するのに時間が掛かる。
なんて言ってた?
確か、先に休むと……。
て事は?
えーっと……。
休む、そう、休みたいと。
うん、そう言ってた……。
「え……ええ、そうですね。ルティカも疲れたでしょうし、ゆっくり寝てください。……では」
何とか態勢を立て直して、自然に見えるように振る舞いながら自室に入る。
そこで力尽き、よろよろとベッドに倒れ込む。
確か今日は初夜なはずだよな?
拒まれた?
まさか嫌われていたのか?
いや、そんな感じは受けなかった……。
そ、そう……疲れていただけだろう。
彼女もそう言っていたし。
うん、そうだな。
寝よう……。
◇
当然眠れるわけも無く、だからと言ってそのままルティカの顔を見る勇気もなかったため、朝早くに家を出る。
夜に帰るとルティカは何も無かったかのように見えて、狼狽えた。心の中で。
こんなに自分が臆病だとは思わなかったが、そんな事も言ってられない。
流石にもう一度拒絶されたら立ち直れない。無理だ。
嫌われたくない。
それが大前提にあるので、大胆な行動に出る事が出来ない。
勿論会話はある。一緒に話せば楽しげにしてくれるし、触れても嫌がられない。やはり嫌われてはいない様だ。
でも怖い。
結果、婚姻前と同じ様な距離感を保つ事になった。
◇
そんな生活を一年くらい続けた頃、ルティカが一度侯爵家に帰りたいと申し出て来た。
サーバンド侯爵からの手紙も来ていて、不審な点はない。ここが気に入らなくて帰る様ではなさそうだ。
こんな事を言う資格などないのに、私の元を離れるのが嫌だった。
そんな嫌な自分を見せたく無く、見送りもしなかった。
……そしてそれを後悔している自分がほとほと嫌だった。
当初一週間くらいと言っていたが、五日で戻って来てくれほっとしたが少年を連れ帰ったと聞いて震撼した。
詳しく聞けば従者にしたいと言うではないか。
何故?
一体何者だ?
大体彼女は従者も護衛も断っていたはずなのに。
そう思い出し聞いてみれば、拾ったけど強いから使えそうだと。
気に食わなかったが、母も以前に同じ様な事をしていたので断る事も出来なかった。
まあ、使えなかったら許可しなければ良いだけだ。
思惑とは異なり、エドワードすら認める程の実力を持っていた。
仕方なく許可すれば、ルティカの側にずっと仕える様になった。
彼女を守れると思えば、まあ……許せるか。




