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58.ラインハルト視点 ③


 サーバンド侯爵には多少渋られたが、一ヶ月後に婚約、更に半年後に婚姻の了承を得られた。

 ほっと胸を撫で下ろし、彼女に似合うドレスやアクセサリーを選ぶ。

 

 逸る気持ちを抑えながらひと月をこなし、待ち望んだ婚約パーティ。

 フェリクス殿下に報告した際に、王城を使って発表するように指示された。

 余り彼女を他人に見せたくはなかったが、殿下からの指示に従わない訳にはいかなかった。


  

 彼女を迎えに侯爵家へと向かう。

 ドキドキしながら待っていると、現れた彼女が美し過ぎて言葉に詰まる。

 自分の色を纏ってくれているというのは、こんなにも嬉しいものなのか。

 初めて知った。


「お迎えに上がりました、ルティカ嬢。ああ、よくお似合いです。その美しい瞳に吸い込まれそうですね。今宵あなたの隣に立てる事を光栄に思います」


 そのままの流れで手を取り、指先にキスを落とす。

 彼女に触れる事が出来る喜びが溢れる。


「有難うございます。でもラインハルト様の方が素敵ですわ」


 一体何を言っているのだろうか?

 確かに私の見た目が目立つのは経験上知っているが、ルティカ嬢の方が美しいに決まっているのに。


「ふふ、そんな事ありませんよ。では参りましょうか」




 

 王城のパーティ会場で婚約を発表する。

 これで誰憚る事なく一緒にいれる。

 

 挨拶をした後、彼女と初めてのダンスを踊る。


 初めてなのに不思議としっくりくる。

 温もりを近くに感じて、更に求めてしまう自分が怖くなる。

 婚約者として二回踊って、一先ず自分を落ち着けて離れる。


 そのまま側に居たかったが、挨拶したいと呼ばれてしまい渋々離れる事になった。

 早く戻りたかったが、次々と挨拶に来てしまい中々戻れなかった。


 もどかしくも無碍にも出来ず、顔に出さずにこなしていく。

 ようやく一息ついたので、彼女を探すと知らない男と親しげに話していた。


 それを見た瞬間に、かっと頭に血が上ったが、自分の立場を何とか思い出し一呼吸おき、心を鎮めて話しかける。 

  

「ルティカ、ここに居たのか? 探しましたよ」

「ラインハルト様、申し訳ありません。喉が渇いたのでこちらに来てしまいました」

「そうですか、……こちらは?」

「はい、私に魔法を教えてくださっていたステファン先生です」


 先生?

 

「初めまして、ラインハルト・フォン・エクセライクです」

「ステファン・ユイ・ロイジェネクです。この度はご婚約おめでとうござます」

「有難うございます。ロイジェネク卿と言えば魔法研究所所長の?」

「はい、僭越ながら」

「その様な方にルティカは習っていたのですね。強い筈です」


 なる程、それなら納得出来る。


「いえいえ、教えていたと言うよりは教わっていたと言ったほうが正しいかと」


 え?

 所長が!?


「先生! 変な事言わないでください」

「はは、それなら黙っておこうか」


 何と親しげな……。

 胸の奥にずっしりとした何かが横たわる。

 これ以上見ていたくない。


「ルティカ、そろそろフェリクス殿下がお見えになる頃だ」

「そうですか、それでは私はこれで。ではまた」

「はい、また連絡しますね」


 連絡するのか……。

 

 こんなに自分の心が狭小とは思わなかった。

 知りたくなかったが、彼女と居ると自分でも知らなかった事が色々と分かる。



 それでも胸につかえた思いを振り切りたくて、彼女の腰を抱き寄せエスコートする。

 嫌がられていないようでほっとしている自分が居た。何をやってるんだ、私は。





 フェリクス殿下達に祝われて、彼女も喜んでくれている。

 良かった。


 でもバルバラ様はお気に召さないようだった。


「まあ! そんなよく知りもしない者と婚約などして良かったのですか?」


 何故そんな事を聞くのだろう?

 私が初めて望んだ人だと言うのに。


「勿論です。ルティカ嬢に申し込んだのは私の方ですからね」

「……そうなのですか。ルティカ嬢はどうなのです? いきなりだったのでは?」

「そうですね。確かにお会いしたのは最近ですが……こう、会った瞬間に運命みたいなものを感じたのです。私にはこの方しか居られないと。ですから申し込まれて大変嬉しく思っております」


 俯いて恥ずかし気に言ってくれた言葉が、じわじわと心に染み込んでくる。

 

 ……本当に? 嬉し過ぎるんだけど。


 惚けている間にバルバラ様がまた彼女を責めているようだった。

 いかん、改めて話を聞いた。


「草刈り、楽しいですよ? 一時期は王都の草刈りを全部引き受けていた事もありますわ。でも私などまだまだ駆け出しですので、それ程活躍出来てないのは本当です。活躍する前に終わってしまいましたが」


 ! そ、それはっ!!

 申し訳ないとは思っているのだが、もはや手放す気にはなれないんだ。


「あぁ、ルティカ嬢、すまない」

「いいえ! ラインハルト様の方が大切ですもの。余計な事を申しましたわ。忘れてくださいまし」


 !?

 私が大切だと?


 見つめて微笑めば、微笑み返してくれる。

 あぁ、なんて幸せなのだろう。




 

 帰りの馬車の中で、彼女が私を見つめているのに気付いたので尋ねてみた。


「どうしました?」

「いえ、本当にラインハルト様は綺麗ですね。見てると幸せになります」


 そういう貴方こそ綺麗なのに。


「……褒めていただけるのは嬉しいですが、綺麗は男性に対する褒め言葉ではありませんよ? むしろルティカ嬢の方が美しいと思います」

「いいえ! それだけはありません! ラインハルト様の方が美しいですっ!!」


 !!

 そこまで言い切られるとは思わなかったが、褒めてくれている事に変わりない。

 好きな人に言われると嬉しいものだな。

 

「……ふふ、仕方ないですね。それでも構いませんよ。それと……ルティカとお呼びしても?」

「勿論です。お好きなようにお呼びください。ラインハルト様のお声はとても好きなので、どれだけ呼んでくださっても構いませんよ?」


 えっ!?

 好き?

 

 いやいや、声が好きと言ってくれたのだ。

 しっかりしろ、私。


 それでも名前を読んでも良いと言われたのは確かな筈。


「……そ、そうですか。有難うございます。これからもよろしくお願いしますね、ルティカ」

「はい、こちらこそ」


 

 あぁ……早く一緒になりたいものだ。



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