58.ラインハルト視点 ③
サーバンド侯爵には多少渋られたが、一ヶ月後に婚約、更に半年後に婚姻の了承を得られた。
ほっと胸を撫で下ろし、彼女に似合うドレスやアクセサリーを選ぶ。
逸る気持ちを抑えながらひと月をこなし、待ち望んだ婚約パーティ。
フェリクス殿下に報告した際に、王城を使って発表するように指示された。
余り彼女を他人に見せたくはなかったが、殿下からの指示に従わない訳にはいかなかった。
彼女を迎えに侯爵家へと向かう。
ドキドキしながら待っていると、現れた彼女が美し過ぎて言葉に詰まる。
自分の色を纏ってくれているというのは、こんなにも嬉しいものなのか。
初めて知った。
「お迎えに上がりました、ルティカ嬢。ああ、よくお似合いです。その美しい瞳に吸い込まれそうですね。今宵あなたの隣に立てる事を光栄に思います」
そのままの流れで手を取り、指先にキスを落とす。
彼女に触れる事が出来る喜びが溢れる。
「有難うございます。でもラインハルト様の方が素敵ですわ」
一体何を言っているのだろうか?
確かに私の見た目が目立つのは経験上知っているが、ルティカ嬢の方が美しいに決まっているのに。
「ふふ、そんな事ありませんよ。では参りましょうか」
◇
王城のパーティ会場で婚約を発表する。
これで誰憚る事なく一緒にいれる。
挨拶をした後、彼女と初めてのダンスを踊る。
初めてなのに不思議としっくりくる。
温もりを近くに感じて、更に求めてしまう自分が怖くなる。
婚約者として二回踊って、一先ず自分を落ち着けて離れる。
そのまま側に居たかったが、挨拶したいと呼ばれてしまい渋々離れる事になった。
早く戻りたかったが、次々と挨拶に来てしまい中々戻れなかった。
もどかしくも無碍にも出来ず、顔に出さずにこなしていく。
ようやく一息ついたので、彼女を探すと知らない男と親しげに話していた。
それを見た瞬間に、かっと頭に血が上ったが、自分の立場を何とか思い出し一呼吸おき、心を鎮めて話しかける。
「ルティカ、ここに居たのか? 探しましたよ」
「ラインハルト様、申し訳ありません。喉が渇いたのでこちらに来てしまいました」
「そうですか、……こちらは?」
「はい、私に魔法を教えてくださっていたステファン先生です」
先生?
「初めまして、ラインハルト・フォン・エクセライクです」
「ステファン・ユイ・ロイジェネクです。この度はご婚約おめでとうござます」
「有難うございます。ロイジェネク卿と言えば魔法研究所所長の?」
「はい、僭越ながら」
「その様な方にルティカは習っていたのですね。強い筈です」
なる程、それなら納得出来る。
「いえいえ、教えていたと言うよりは教わっていたと言ったほうが正しいかと」
え?
所長が!?
「先生! 変な事言わないでください」
「はは、それなら黙っておこうか」
何と親しげな……。
胸の奥にずっしりとした何かが横たわる。
これ以上見ていたくない。
「ルティカ、そろそろフェリクス殿下がお見えになる頃だ」
「そうですか、それでは私はこれで。ではまた」
「はい、また連絡しますね」
連絡するのか……。
こんなに自分の心が狭小とは思わなかった。
知りたくなかったが、彼女と居ると自分でも知らなかった事が色々と分かる。
それでも胸につかえた思いを振り切りたくて、彼女の腰を抱き寄せエスコートする。
嫌がられていないようでほっとしている自分が居た。何をやってるんだ、私は。
◇
フェリクス殿下達に祝われて、彼女も喜んでくれている。
良かった。
でもバルバラ様はお気に召さないようだった。
「まあ! そんなよく知りもしない者と婚約などして良かったのですか?」
何故そんな事を聞くのだろう?
私が初めて望んだ人だと言うのに。
「勿論です。ルティカ嬢に申し込んだのは私の方ですからね」
「……そうなのですか。ルティカ嬢はどうなのです? いきなりだったのでは?」
「そうですね。確かにお会いしたのは最近ですが……こう、会った瞬間に運命みたいなものを感じたのです。私にはこの方しか居られないと。ですから申し込まれて大変嬉しく思っております」
俯いて恥ずかし気に言ってくれた言葉が、じわじわと心に染み込んでくる。
……本当に? 嬉し過ぎるんだけど。
惚けている間にバルバラ様がまた彼女を責めているようだった。
いかん、改めて話を聞いた。
「草刈り、楽しいですよ? 一時期は王都の草刈りを全部引き受けていた事もありますわ。でも私などまだまだ駆け出しですので、それ程活躍出来てないのは本当です。活躍する前に終わってしまいましたが」
! そ、それはっ!!
申し訳ないとは思っているのだが、もはや手放す気にはなれないんだ。
「あぁ、ルティカ嬢、すまない」
「いいえ! ラインハルト様の方が大切ですもの。余計な事を申しましたわ。忘れてくださいまし」
!?
私が大切だと?
見つめて微笑めば、微笑み返してくれる。
あぁ、なんて幸せなのだろう。
◇
帰りの馬車の中で、彼女が私を見つめているのに気付いたので尋ねてみた。
「どうしました?」
「いえ、本当にラインハルト様は綺麗ですね。見てると幸せになります」
そういう貴方こそ綺麗なのに。
「……褒めていただけるのは嬉しいですが、綺麗は男性に対する褒め言葉ではありませんよ? むしろルティカ嬢の方が美しいと思います」
「いいえ! それだけはありません! ラインハルト様の方が美しいですっ!!」
!!
そこまで言い切られるとは思わなかったが、褒めてくれている事に変わりない。
好きな人に言われると嬉しいものだな。
「……ふふ、仕方ないですね。それでも構いませんよ。それと……ルティカとお呼びしても?」
「勿論です。お好きなようにお呼びください。ラインハルト様のお声はとても好きなので、どれだけ呼んでくださっても構いませんよ?」
えっ!?
好き?
いやいや、声が好きと言ってくれたのだ。
しっかりしろ、私。
それでも名前を読んでも良いと言われたのは確かな筈。
「……そ、そうですか。有難うございます。これからもよろしくお願いしますね、ルティカ」
「はい、こちらこそ」
あぁ……早く一緒になりたいものだ。




