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56.ラインハルト視点 ①


 子供の頃から私の好んだものは失われやすかった。


 子供の頃に飼っていた犬が好きだった。父上にお願いして飼って貰った子犬は白くて、くりくりとした目で私の後をついて回って、とにかく可愛かった。大きくなって一緒に散歩したり、走ったりするのも楽しかった。

 なのにある日犬小屋に行くと、だらんと舌を出して倒れているのを私が発見した。何か悪いものを食べたのだろうという事だったが、今なら毒を盛られたと分かる。


 子供だったので自分に優しく接してくれる人は好きだった。好きなお菓子を持ってきてくれる侍女は好きだったし、褒めてくれる家庭教師も好きだった。

 でもそう思った人々はその内私の前から消えて行った。

 

 家庭の事情で辞めたり、怪我をして働けなくなったり。


 その頃から何となくおかしいとは思っていた。


 そしてねっとりとした目で見てくる侍女長に気付いた。特に何かをしてくる訳ではなかったが、気付けば見られている。

 初めは気のせいかもと思ったが、そのうちその目が気持ち悪くなった。


 そいつの前で軽い気持ちで好きだと言ったものは、次の日には取り揃えられていた。誰かを褒めれば、次の日にその人は居なくなっていた。

 逆に嫌いだと言った野菜は絶対に出てこなくなった。


 自分の言葉一つで変わる環境が怖かった。

 父上や母上に言えば良かったのだろうが、その頃の母上は弟のツヴァルツを産んでから体調を崩しがちで、心配をかけたくなかった。父上は時間を作ってくれているがいつも忙しそうにしていたので、言うのは躊躇われた。

 


 それ以降、好き嫌いを口にするのはやめた。

 あまり表情を出さずに、感情を知られるのを避けるようになった。


 家族の前だけでしか笑えなくなった。


 そのうち母上に毒を盛っていたのがバレ、そいつは処分された。




 

 学院に上がる前に婚約者が定められた。


 自分の立場が分かっていた為、父上の薦める通りにした。希望など特になかったから。


 ただ幼い頃からのトラウマを引きずっており、好意を見せるのを躊躇った。それでも彼女も政略結婚だと理解していた為、仲は悪くはなかった。

 政略結婚と言えども、仲良くしていく方が良いに決まっている。彼女となら歩み寄れるかも、と思い始めた頃、彼女が病に倒れた。

 心配して見舞いに訪れても断られ、完治できないと言われそのまま婚約は白紙になった。


 まさか……と思っていたが、二人目の時に確信した。


 私の側に来れば、何らかの目に遭うと。


 三人目の時には流石に反対したが、父上が譲らなかった。

 今思えば、何らかの対抗策を練っていたのかもしれないが、それも虚しく結局白紙になった。



 そして父上が亡くなられてからは怒涛の日々だった。

 公爵家の跡継ぎとして恥ずかしくないように振る舞うのに精一杯だった。

 ひと段落ついた頃、私に見合いの話が来ている事に気付いたが、もう良い加減私の周りで起こる出来事にうんざりしていたのですべて断った。

 公爵だからこそ出来る事だったので、初めてなって良かったと思った。


 跡継ぎの問題もあるが、それはツヴァルツの息子で良いだろうと思っていた。

 自身が結婚する気はもうなかった。


 

 夜会に出れば女性達の獲物を狙っているかのような、肉食獣の視線が苦手だったし、熱を帯びた目で見られると、あいつの目を思い起こさせて気分が悪くなった。

 夜会では母上だけと踊り、すぐに抜けるようになった。


 そして三回の白紙を経て、私は呪われているのではないかと噂されるようになっていた。

 もうその方が都合がいいと思い放置した。





 そんな折、今まで私に一度も女性を薦めた事のない母上が、キラキラとした目である女性を薦めてきた。

 薦めると言うよりは、結婚しなさいっ! という命令だったが。


 詳しく聞いてみれば、母上の危ない所を助けてくれた恩人ではないか。

 結婚どうこうよりも、まず御礼に行かねばなるまい。


 そう思ってどなたか聞いてみれば、サーバンド侯爵の蒼の宝石だった。

 

 サーバンド侯爵は末娘を殊の外可愛がっており、滅多に社交に出させなかった。唯一出たデビュタントではその美しさに皆感嘆したという。その瞳はまるで蒼い宝石のようだったと。


 なのにその宝石が冒険者をしていたとは。

 それでは社交に出る筈もないだろう。


 

 母上の聞いた話では、ソロで活動出来、また魔獣を一人で倒せる実力を持っているらしい。


 

 ならば……私の近くに来ても大丈夫なのではないだろうか。

 


 そんな仄かな期待を込めて、母上に一度会ってみたいと言えば、すぐに彼女を茶会に招待してくれた。

 




 そして初めて見た彼女は、噂に違わず美しかった。



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