55.ユノ視点 ③
主が敵を退けてからは安穏な生活が続いた。
スワロウの生息地を教わって、時々羽根を拾うついでに討伐もして少しずつレベルを上げていた。
主は退屈そうにしていた。
夜会は好きじゃなさそうだし、貴族自体向いていないと思う。
それでもここに居るのは、旦那様を好いているからだ。
旦那様は旦那様で、主の前では決して見せないが主を大切に思っているのが分かる。
なぜ見せないようにしているのかは分からない。見せていないから当然、主は旦那様に好かれているとは思っていない。
側から見れば丸わかりなのに、お互いが分かっていない。
でもまあ、成るように成るだろうというのが使用人一堂の意見だ。
しかし月日が経つにつれ、主の元気がなくなっていく。
毎日詰まらなさそうで、たまに討伐に出る俺を羨ましそうに見ている。
どうしたものやらと思っていたのだが、ある日突然主が消えた。
討伐から帰ってきたら、主が公爵家を出て行ったと聞いた。
そして詳細を聞いて……。
何してんだ!? 旦那様!
もっとやりようがあるだろうに。
不器用にも程がある!
あ〜あ、これは帰ってこないと思うな〜。
一度は話し合いに戻ってくるだろうから、その時について行けば良いか。
準備しとこう。
◇
帰ってきた主を問い詰めれば、忘れられてはいなかったようだ。良かった。
主が話し合いをしている間に、身の回りを整理して、家令のエドワード様に挨拶を済ませる。エドワード様も仕方ないと思ってくれているようで、奥様を頼みますと逆に頼まれてしまった。主は使用人に好かれているからな。
話し合いが終わりついて行くと伝えれば、少し困ったような顔をされた。
何を言われてもついて行くので、問題無い。
が、旦那様に連れて行かれ、物凄いオーラを発しながら忠告された。
絶対に主に手を出すなと。
そして死んでも守れと言われた。
俺よりも強い主を守りきれる自信はなかったが、主の後に死ぬつもりは絶対にない。
それに主に対して、恋愛的なものは一切無い。
命を助けて貰った恩はあるし、どちらかと言えば好きだが、敬愛に近いと思う。
俺がどうこう出来るとも思えないし。手に負える訳がない。
とは思ったが、旦那様が怖すぎてコクコク頷く事しか出来なかった。
俺をビビらせるなんて、相当だぜ。
侯爵家でも、侯爵様に圧をかけられた。
主は怖い人々に大切にされている。本人は分かってなさそうだけど。
◇
そして以前言っていたレベリングを教えてくれた。
……おかしい。
どうして走ってザザビークに行くのか。
なぜ行く先々で魔獣を殲滅させられているのか。
倒して、死体をそのままアイテムBOXに入れて、即移動っておかしくない?
レベルが多少上がっている為、なんとかついて行けているが、正直しんどい。
これがレベリング? 甘く見ていたようだ。
なんて思っていた俺、まだまだだった。
ザザビークに着いたと思ったら、そのままダンジョンに連れて行かれ、更に最下層まで行かされた。
勿論主が手助けしてくれている為、命の危険はないし、簡単に攻略出来ている。疲れたら治療してくれて、サポートはバッチリだ。
でも、声を大にして言いたい。
肉体的疲労と精神的疲労は違うんだーっ!!
◇
俺は今まで神に頼った事など一度もない。むしろ憎んでいたし、恨んでもいた。
でも、今、生まれて初めて懺悔します。
レベリングしたいなんて言って、御免なさい。
俺がバカでした。
ダンジョンを一日六回も周回するなんて思ってもみなかったんです。
すみません、すみません、もう贅沢言いませんから、許して下さい。
そんな俺の祈りが届いたかどうか分からないが、その苦行は三日で終わった。
それでも十分レベルは上がったし、様々な経験は出来た。
もうやりたいとは思わないけど。
ようやく終わったと思ったのに、帰り道も魔獣を殲滅させられた。
主を甘く見ていた……。
◇
王都に戻って、主よりも強いというギルを紹介してもらう。
確かに強そうだ。そして主が気を抜いているのが分かった。
そこまで信頼しているのか……。
そのギルは主を遠ざけて、俺に向かい合った。
流石に緊張する。何を言われるのだろう?
「……お前、あいつの周回に付き合ったのか?」
えっ? えっとー。
「はい。大変でした」
「やっぱりっ!? あいつの周回おかしいよな? 何回回ったんだ?」
!?
「……一日六回です……」
「……お疲れさん。あいつその辺ちょっとおかしいから覚悟しとけよ」
ああ……分かってくれている。
「……はい」
「まあ、悪気はないからな……悪気は。まあ、それが余計に悪いってゆーか……」
「いえ、分かってます。大丈夫です」
「俺と居ると多少は自重してるみたいだけど……明日から思いやられるなぁ」
「だ、大丈夫です……」
この人は理解者だっ!!
仲良くなれると確信した。
◇
ラルファへの旅でもギルは素晴らしかった。
あの主が大人しく言う事を聞いている。
しかも遠慮なく主を一人部屋に突っ込んでいる。
様々な魔獣の扱い方も知っていて、ダンジョンにも詳しい。
レベルが計り知れないが、その分安心して任せられる。
ただ、主に合成であまり安易にものを作るなと忠告していたが、俺が知る限り既に結構作っているような気がする。
そう思って主を見れば、不自然に目を逸らされた。
これは……黙っておいた方が良さそうだな。
主が一人部屋なら当然俺達は同室な訳で、色んな話をした。
俺の中ではギルは尊敬出来る師匠だ。
そう呼びたいと請えば、照れて渋られたけど許してくれた。
◇
二年経って俺のレベルもかなり上がり、足手纏いにはならない自信はついた。
王都に戻ると旦那様が黒いオーラを撒き散らしながら待っていた。
流石の師匠も引くくらい凄い。
君子危うきに近寄らず。
以前主に教わった諺を思い出し、早々に師匠が立ち去った。
ついでに俺も助け出してくれた。有難い。
あの様子だと旦那様はこれから主と一緒に行動するのだろう。
流石にお邪魔虫にはなりたくないし、このまま師匠について行きたいと言えば、軽く了承してくれた。
たまには主にも会う事もあるだろうし、このまま師匠について世界を見て回るのも悪くないと思う。
あの時、死ぬつもりだった。
最低、最悪な生活をしていた俺が、こんな事を思うようになるなんて。
うん、全部主の所為だな。
責任持って、一生関わって貰わなきゃな。




