53.ユノ視点 ①
やっと兄貴の仇をとれると意気込んでやって来たのに、あっという間に捕まった。訳の分からない閉塞感。攻撃も魔法も無効にされ絶望感が襲ってくる。何をしても太刀打ち出来ないと理解させられる。
そして諦めた。やる事はやったし、これで漸く兄貴の元に逝けると思った。
なのに気付けば、毒も感じず、古傷すら痛まなくなっていた。
「……どうして助けた?」
「貴方が『ユノ』だったから」
何故知っている?
「何故!? ……どういう意味だ?」
「貴方のお兄さんが、貴方が生きる事を願っていたから」
「!」
兄貴が? まさかっ!
「お前が兄貴を殺したんだろ!」
「……間接的には? 寝返らないか聞いたけど、貴方と同じ様に毒を飲んで死んでしまったわ……」
「……」
確かに兄貴には外傷がなかったと聞く。
俺と同じ結果になったのだろう。
「俺を助けてどうするつもりだ!?」
「……別に?」
「はぁ?」
何言ってるんだ? 何か目的があっての事じゃないのか?
「彼だけが話をしてくれたし、悪い人には見えなかったから……」
「暗殺しに来たのに良い人もないだろ!」
「まあ、そうなんだけど」
こいつアホなのか?
「簡単に言えば、自己満足かな? で、どうする? またやる?」
「いや……お前を殺るのは無理だろ」
「なら、もう家族が居ないなら逃げても良いんじゃない?」
「……」
そうだけど……そんな事考えた事もなかった。
ずっと兄貴と二人で生きてきた。
暗殺ギルドに売られてからも、お互いに助け合ってきたんだ。
なのに兄貴が死んで、どうして良いのか分からなくなった。
でも仇を取りたいと願った。それだけを望んで生きてきた。
俺はその頃には中々使えるモノだったらしく、願いは叶えられなかった。行けば必ず全員死んだから。ソコに行くのはもはや処刑だった。
仕事を片付け実力をつけ、俺ならばとソコに行く事を了承してもらえる様になった。
なのに失敗し、挙句にこれだ。
気付けば奴隷契約も、神聖契約も失われている。
確かにこれなら自由だろう。
でも今更そんな事を言われても、どうして良いのか分からない。
逃げる?
アイツらに捕まらない自信はあるが、逃げて一体何をすれば良いのか……。
悩んでいる俺にコイツはギルドまでの道案内を頼んで来た。
ギルドを壊滅させるなんて、さらっと言っているがそんな事出来るのか?
……出来るかもな。コイツなら。
しかもここに来るのに一週間掛かったって言ってるのに、往復一週間で済ますつもりらしい。
新たな神聖契約を強要されたが、どうやって行くかも気になるし、アイツらが壊滅する所も見てみたいので了承した。
◇
確かに気にはなった。
気になったが聞いてない!
こんなモノに乗るなんて聞いてないぞっ!!
コイツはいきなり見た事もない、あり得ないくらい大きな生き物を出してきた。作り物だというが、全く信じられない。コイツが呼べば目を開け懐いているじゃないか。動いている姿は生き生きとし、雄大で神聖さすら感じさせる。
コレに乗れと?
怯んでいると思われるのがしゃくで、余裕を見せて乗ったけどさ。
乗ってみれば案外快適だった。
あり得ない高度からの景色は素晴らしかった。
生まれて初めてかもしれない。
景色を綺麗だと感じたのは。
あまりの美しさに泣けてきた。
それを誤魔化すために、聞いた。
「……お前、一体何なんだよ?」
それから聞いた話はとても信じられなったが、コレに乗っている時点で信じない訳にはいかない。色々聞いたが、はっきり言って規格外過ぎて、ついていけなかった。
◇
おかしい、おかしい、とは思っていたが、まだ足りなかったようだ。
どうして一緒の部屋で、すやすや眠ってるんだ?
お前公爵夫人だよな?
仮にも自分を殺しにきた奴の前で、そんな無防備に寝るってどうなの?
俺だって男なんだけど?
どうにかしたいとも、どうにか出来るとも思わないが、おかしいだろっ!
そんな事をモヤモヤ考えていたら当然眠れず。
なのにスッキリと起きやがって。
挙句子供扱いされた。
ムカつく。
◇
隣街まで余裕で走って行くし、あっさりとボスを捕まえてくるし、何やら証拠まで手に入れたようだ。
俺よりよっぽど、腕の良い暗殺者になれるじゃないか。
そして目の前でギルドが壊滅するのを見た。
長年に亘り、俺らを縛り付けていたものが消えた。
建物すらなくなるなんて、笑える。
「やり過ぎじゃね?」
「え〜そんな事ないよ。八つ当たりだもん。必要必要。じゃあ、私はもう帰るけど、ユノはどうする?」
「え?」
「いや、もう自由でしょ? 好きな事したら良いんじゃない?」
全ての枷がなくなり、何だか心細くなった。
自由と言われても、ピンとこない。
黒龍に運ばれて、ヘロヘロになってるボスを見てると何だか哀れだった。
今まで散々痛い目にも、辛い目にも遭わされたというのに。
今ではまるで面影がない。
一晩考えた結果、コイツについていく事にした。
まだコイツとの契約があったのを思い出したから。
何をしたいか決まるまで、コイツを見てるのも面白そうだ。
それまで主人になって貰えば良いだろう。
助けた責任をとってもらおうか。




