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46.ご褒美


 次のお休みにと言っていたけれど、突然宰相のオールト侯爵が更迭された事によって、王宮は忙しくなった。

 あの夜会の次の日にはセバスに、ボスをフェリクス様に届けるように頼んだのがいい仕事をしたと言う事だろう。

 その結果、ラインハルト様はフェリクス様の側近とはいかなくとも、近くで仕えていたので暫くお休みがなくなったのだ。

 

 


 時間が出来たので、今まで先を送りにしておいた問題を考えてみる事にした。


 そもそもラインハルト様と結婚したのは、その方が敵を追い詰めるためにも、皆を守るためにも丁度良かったから。そこに愛があったかと言うと……無いとは言い切れないかな。



 好きか嫌いかと聞かれたら、好きだと即答出来る。

 

 愛してるかと問われれば、愛してると言える。


 ただ、それでは恋い焦がれているかというと、そうでもない。

 どちらかと言えば、家族愛に近いと思う。

 護るべき対象。愛でる相手。


 私にとっては二十歳はたち三十路みそじも、若いね〜と思ってしまう相手だ。

 アイドルを眺めているようなカンジ、と言った方が良いかもしれない。

 

 流石に相手から、熱の篭った目で見られたり、愛を囁かれればドキッとはすると思うが、残念ながらそんな事を言われた事は一度もない。

 ラインハルト様が私を望んだ理由は、私が呪いを跳ね除ける可能性のある女性だったからだろう。


 フェリシア様にそれとなく聞いてみた所、やはり幼い頃からラインハルト様の近くに居た女性は、不幸な目にあっていた事が多かったらしい。父上であるライズベルト様もフェリシア様やラインハルト様は守れても、その周りの使用人にまでは力が及ばなかったのかもしれない。 

 それをラインハルト様は自分の呪いだと思っているようだ。もしくはそう誘導されたのかもしれないが。



 その呪いに打ち勝てれば、誰でも良かったのだと思う。

 気に入られているとは思うが、好かれているかは疑問だ。



 では呪いを解呪ではなく……呪いと思われていたバルバラ様の攻撃を止めて、問題を解決した今、私は必要だろうか?

 

 うーん……。


 私なんかよりラインハルト様自身が、好きになった人の方が良いに決まっている。

 もしそんな方が現れたら、潔く身を引いて離縁してもらおう。



 そう、無理矢理自分に言い聞かせた。




 

 ……ふふ、無理矢理って所で自覚した。


 私にだって欲はある。コレクターと自覚する位だから、所有欲がありまくる。

 支配したい訳ではない。自分のものだと思えればそれで良い。だから結婚はとても甘美な響きだ。それを失いたくないと思ってしまう。

 

 でもそれではいけないという事も、ちゃんと分かっている。



 ……分かっているわ。




◇◇◇




 結局ラインハルト様がお休みを取れたのは、提案されてから二週間後になった。

 

 寝る前に紅茶を飲んでいると、嬉しそうにラインハルト様が告げてきた。



「ようやく明後日には休みが貰えそうです。ルティカは何処に行きたいですか?」


 え? 決まってるんじゃないの?


「えっと……久し振りのお休みなので、お身体を休めた方が良くないですか? 出掛けるのは次の機会でも良いのでは?」

「いえ、大丈夫ですよ。ルティカと出掛けたいのです」

「そうですか? でも私は特に思いつきませんわ」

「……それでは、また遠乗りにでも行きませんか?」

「良いのですか? それこそお疲れになりませんか?」

「はい、それくらい何ともありません。ルティカは遠乗りが好きでしょう?」

「ええ、楽しいですよね?」

「では明後日、一緒に行きましょうね。楽しみにしています」

「はい、お休みなさい」


 ふむ、では明日は持っていくお弁当を考えなきゃね。

 何にしようかな〜。




◇◇◇




 遠乗りの日も良い天気で良かった。

 連れて行くのはラインハルト様の護衛になったので、ユノはお留守番だ。

 不服そうな顔をしていたので、お使いを頼んだら嬉しそうに出掛けて行った。


 前回と同じ丘までのんびりと走る。


 やはり馬に乗るのは好きだ。この馬は前世と全く同じ形をしているので懐かしくもあるから。


 ラインハルト様を見ると、目が合いにこりと微笑まれる。


 眼福ですぅ。キラッキラの白馬の王子様がこっちを見て微笑んでます〜。

 


 今回のお昼はホットドック的なものを作ってみました。

 ラインハルト様がかぶりつくのを見たかっ……いえ、たまたまです。


 結果、かぶりつくラインハルト様も麗しかったです。



 吹き抜ける風に目を細めながら景色を見て、そのままラインハルト様に目線を移すとうつらうつらしていた。

 やっぱり疲れてるじゃん。


「ラインハルト様、今度は私が膝枕をしますわ。どうぞ?」

「え?」


 そう誘えば、驚いてこちらを見たけど、ちょっと照れながら寝てくれた。

 ゆっくりと髪を撫でていると、静かな寝息が聞こえてきた。

 

 うふふ、寝ているラインハルト様を初めて見たわ。

 

 睫毛も銀色なんだ〜。綺麗。

 毛穴が見当たりませんが、一体どうなってるの?

 全女性に喧嘩を売っているのでしょうか?


 ……髭って生えるのかな?

 ラインハルト様の無精髭。想像出来ませんが、見てみたいですね。


 などど煩悩満載で魅入っていたので、どれくらい時間が経ったか分からなかった。

 


 ゆるやかに目を開けたラインハルト様と目が合う。

 覗き込んでいて垂れた髪を一房弄びながら目を細め、微笑む姿は何てご褒美なんでしょう?

 これで今まで頑張った甲斐があったってもんです。


 

「この前と逆ですね。ゆっくり眠れましたか?」

「ええ、久し振りにぐっすり寝れました」

「良かったです」

「有難うございます」


 ああ、起き上がっちゃった。ご褒美タイム終了です。


「今日は誘ってくれて嬉しかったです」

「最近ゆっくり話せてませんでしたからね。……実はルティカにお願いがあって……」


 珍しく躊躇ってますね。


「私に出来る事なら何でも聞きますよ?」

「……こんな事を言うのはおかしいと思うのですが……」

「?」

「その……私以外と踊らないで欲しいのです」

「ええ、良いですよ。元々そのつもりですし。この前はフェリクス殿下がお話があっただけです。もうそれもないでしょうし、大丈夫ですよ」

「そうなのですか……なら良かったです」


 ほっとした様子のラインハルト様。

 そんなにフェリクス様と踊ったのが気に入らなかったのかな?

 でも断っちゃダメだったろうし、私悪くないよね?


 まあ、これでラインハルト様から言われ事だし、誰とも踊らずとも良いって事でしょ。ラッキー。


「そう言えば私もラインハルト様に、お伝えしておきたい事があります」

「何でしょう?」

「もうラインハルト様の周りの方が、不幸になる事はなくなりましたよ。これでお好きな方に、遠慮なさらなくても良いですよ。ご安心ください」

「え?」


 あら、惚けた顔も素敵ですね。


 呪いが解けるとは思っていなかったのかな?

 でももう大丈夫。


 そう思い微笑んで見てみると、不自然に目が泳でた。

 こんなに動揺してるのも初めて見ました。

 どうしたのかな?



「そ、そうですか……。そろそろ帰りますか?」

「はい、そうですね」



 今日は色々なラインハルト様が見れて、楽しかった。

 ご褒美も貰ったし、満足満足。




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