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44.レベル差


 帰りの馬車の中でも苛々がおさまらない。

 むー。許せん。


「主、そんなに気にしないでください。この見てくれを言われるのは今に始まった事ではありません」

「それは周りが悪いんでしょ? 大体何でこんなに綺麗なのに、そんな事言われなきゃいけないの?」

「さあ。でもこの眼を綺麗だと言うのは主が初めてですね」

「そうなの? この世界の人は見る目がないわね」

「……」

「ねえ、もっと見ても良い?」

「……良いですが?」



 許可が出たので、遠慮なく。

 向かいに座るユノの顔を両手で挟み、瞳を覗き込む。


 ホント不思議。綺麗な赤。透明なのに深い。瞳孔がより濃い赤で魅入られる。

 どれだけ見ても見飽きない。


 あら? ほっぺが熱くなってきたような……?



「主、流石に恥ずかしい」

「ごめん」


 ちょっと見過ぎたみたい。

 手を離して元の位置に戻る。


「そんなに気に入りましたか?」

「そうね、以前に住んでいた国では黒目黒髪しか居なかったのよ。だからこの世界の人々の色は不思議に見える。とても綺麗だわ」

「そうですか。こちらでは黒目黒髪の方が少ないですね」

「金髪碧眼も居たけど他国だったから見る機会もなかったかな?」

「へぇ」

「私の目ももっと違った色だったら良かったのに」

「それだと、鏡ばっかり見てる事になるんじゃないですか?」

「そうだね。ヤバイね」


 あはは〜と笑い合っていれば、気分も落ち着いてきた。


「有難う、ユノ」

「またいつでも見せますよ」

「ホントっ!? やったぁ〜」

「……いや、やっぱやめときます」

「え〜? 何でよー? 良いでしょ〜?」

 

 そんな風に笑い合いながら、公爵家へと帰った。




◇◇◇




 そのお茶会から一週間後に、バルバラ様がご病気で離宮の篭られると発表がなされた。それは実質、幽閉の事だった。


「幽閉ね……」


 どこまでも甘いわね、フェリクス殿下。


 その発表がなされた夜更、冒険者ルックに着替え、こっそりと部屋を抜け出した。そして公爵家の塀の上で立ち止まる。


「あれ? バレちゃった?」

「私を置いていくなんて酷くないですか? 主」


 横を見れば、あげたマントを身に纏ったユノが立っていた。


「じゃあ、行きますか」

「はい」


 そのまま屋根を飛びながら王城へ向かう。

 マップを確認すれば、離宮とは名ばかりの塔の上にバルバラ様は居た。確かに幽閉してるね。


 警備をしてる衛兵はユノが気絶させてくれたので、鍵を土魔法で作って塔の中に入る。壁沿いに階段があり、上の方が住居部分になっているようだ。

 手摺りもなく、踏み外せば一番下まで落ちられる、前世の身体では絶対に登りたくないタイプの階段だった。

 まさに、塔。


 そんな階段も素早く登り、上に行くと扉があった。どうやら一部屋しかないようだ。こちらも鍵を作って侵入する。

 中はベッドと机と椅子、小さな棚とクローゼットがあるそれなりの部屋だった。

 バルバラ様はベッドに寝てたが、扉が開いた事で目が覚めたようで、起き上がりこちらを見ている。


「誰じゃ?」

「ご機嫌よう、バルバラ様」

「そ、其方はっ! 何しに来た!? 私を笑いに来たのか?」

「いえ? 反省したのか、確認しに来ました」

「なぜ私が反省せねばならん? 私の邪魔をする者など必要ない。消して何の問題がある?」

「あったから、現在ここに居るんでしょう?」

「違う! お前が陛下やフェリクスを誑かしたからに決まっておる!!」

「はぁ〜。やはり分かってないですね。ここに居るのは陛下とフェリクス様の温情だというのに」

「温情? こんな所に私を閉じ込めて、何が温情かっ! ふざけるな! すぐにでも出て、今度こそお前を殺してやるっ!!」


 はぁ〜と溜息をついて、アイテムBOXから短剣を取り出して、バルバラ様の方に投げる。


「今度と言わず、今、やってみたらどうです?」

「主っ!?」


 ユノが焦った様に、その短剣を取り戻そうと動こうとしたので、手で制して止める。抗議の目で見られたが、動きを止め様子を見てくれた。



「何のつもりじゃ?」

「何って……それで刺してみたらどうです? 逃げないし、防御もしませんよ?」

「馬鹿にしおってっ!!」



 そう言うなり、ベッドの上に放られた短剣を鞘から取り出して私に向かって突き刺してきた。



「主っ!」



 それを左手の掌を向けて、受け止める。

 刃先が一ミリ程、刺さった所で止まりビクとも動かない。



「なっ! なぜっ!?」



 そのまま力を込め短剣を握れば、ぐにゃりと曲がり使い物にならなくなる。



「貴女のレベルで、私を傷付ける事など出来る筈がない。この世界の人々はレベルの差を理解していない。まあ、視覚出来ないと仕方ないのかもしれませんが。ユノ、貴方も聞いておいて」



 レベルが上がれば、必然的に体力、素早さ、力、守りが上がる。(運はたまにしか上がらない)

 見た目はそれ程変わらなくとも、防御力も上がっていると言う事だ。



 私のレベルは97。守りは290ある。一般的な騎士で60くらいか。

 そんな私にレベル1のバルバラ様が短剣(攻撃力3)で攻撃した所で、ダメージは精々『1』だろう。


 つまりラスボスに挑めるくらいレベルの上がった勇者が、最初の村の近くに出るモンスターに攻撃されて、『1のダメージを受けた』という位なもの。


 更に最初の頃の『ダメージ1』は最大体力が『10』しかなければ、割合的にかなり大きいかもしれない。しかしその体力自体が増えて『2930』ある中での『ダメージ1』など微々たるものだ。



 そんな話を分かりやすく説明していると、バルバラ様の顔色がどんどん悪くなってきた。ようやく分かったかな?



「つまり私を殺したければ、ランクSくらいの上位冒険者に頼まなければいけないでしょうね。貴女に私は殺せない。勿論私よりも高ランクの方々は居ますよ。でも彼等は王族には関わらない。どうしてだと思います?」

「……」


 近付いて顔を覗き込みながら、にこりと笑う。


「分かりませんか? 興味がないからですよ。国にも、王族にも。興味がある方は自分の国を作るでしょう。つまり貴方は喧嘩を売る相手を間違えたのです。高ランクとの付き合いは王族にとって重要なのに、それすらも知らなかったのですね。陛下は分かっていらっしゃったようですよ?」


 やれやれといった風に大袈裟に呆れた態度を取り、少し離れる。

 そして 高温の魔力の塊(ロンバス)を出し、1mくらいの大きさの円状にする。


 それを小さな窓がある壁に向けると、ジュっと壁が溶け、大穴を開けた。


「貴女を消すなんて一瞬なんですよ。分かりましたか?」


 バルバラ様を見れば、土気色になってた。



「ああ、そうそう。ユノに失礼な事を言った分を忘れてましたわ」


 そう言ってバルバラ様の横っ面を、ぱあんといい音をさせて引っ叩いた。

 かなり手加減したのに、ベッドの奥に飛ばされちゃった。


 何とか起き上がり、左頬に手を添えて震えていた。口を切ったようで血も出てた。


「あら、失礼」


 治療をかけ、怪我を治しておく。

 バルバラ様は痛みが消えた事で、更に呆然としてた。


「ユノに謝ってください」

「……」

「死なない限り、何度でも治すことは出来るのですよ?」

「ご、ごめんなさい……」

「……まあ、良いでしょう。これに懲りたら、大人しくしてる事ね。分かった?」

「……」

「分かったの?」

「……はい」

「この穴は警告だとフェリクス様に言付けておいてくださいね」

「分かりました」


「では行きましょうか」

「はい」



 マップを見つつ、王城から出て公爵家の自室に戻る。

 これでひと段落付くだろう。


 漸くゆっくり眠れるわー。



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