43.あ〜あ……
次の日、ユノとセバスを連れて訓練場のボスの所に行ってみた。
普通に檻の中で大人しくしていた。意外〜。
「こいつどうするんだ?」
「そうねぇ、一応まだ証人としておいておかないといけないけど、このまま置いておくのもどうかしら。ユノ、こいつに使われてたんでしょ? 奴隷にでもしとく?」
「俺のか? まあ、良いけど」
「お嬢様、我がイリアムラルでは奴隷制度は認められておりません。奴隷契約はブレアシードに行かねば、出来ないと思われます」
「そうなの? じゃあ、もう一回行ってくる?」
「! か、勘弁してくれっ! いや、してください!!」
それまで黙ってこちらを見ていたボスが、いきなり喚いて拒否ってきた。
そんなにアーロン掴みが嫌なのか。
「えー。でも何にもしないのにご飯だけ食べさせるのもねぇ」
「な、何でもします! 勿論逆らう事などしません!!」
ボスが檻にしがみ付いて、ガチャンガチャンさせてます。
うーん。
「お嬢様。取り敢えず暫くこちらで下働きでもさせてみては如何でしょう?」
「良いの? こんなの使える?」
「はい、長期間ではないのでしょう?」
「そうね、長くてひと月かしら?」
「なら大丈夫です。お任せください」
「ではよろしくね。貴方も無駄な事はしない様に」
「はいっ! 分かっております!!」
必死ですね。
これなら大丈夫かな?
「じゃあ、何かあったら言ってね」
「畏まりました」
「では行きましょうか、ユノ」
「はい」
◇◇◇
侯爵家の馬車を借りて、公爵家まで送って貰う。
「お帰りなさいませ、奥様」
「ただいま帰りました。エドワード、この子はユノです。私の従者にしようと思っています。ラインハルト様が戻られたらお尋ねしておいてください」
「畏まりました」
「では、よろしくお願いします」
自室に戻って、久し振りにお茶をのんびりと飲む。
陛下が動いてくれれば、これでようやくゆっくり寝る事が出来る筈。
夕方になり、エリノアに新たなドレスに着替えさせられてしまう。落ち着いたら、ドレスも簡易ドレスにして貰おうと考えながら、夕食に向かう。
今日のラインハルト様も美しいです。五日ぶりで更にキラキラして見えますね。
「サーバンド侯爵との用事は終わったのですか?」
「はい、思ったより早く終わりました。それで……あの、従者にしたい子を拾いまして……雇っても大丈夫でしょうか?」
「ま〜、ルティカちゃんも拾ったの? 私も以前に拾ったのよ。良いな〜、私もまた」
「母上、もうそんな簡単に拾って来ないでくださいね。エドワードが困りますから」
「わ、分かってますわ。大丈夫よ、ツヴァルツは心配性ね」
「またそんな事を言って……気を付けてくださいね」
「す、すみません。やはり駄目でしょうか?」
「いえ、ルティカ嬢の事ではありませんよ。母上はしょっちゅう拾って来るので、困ってしまいます」
「そ、そんなに拾ってないじゃない」
「まあまあ、母上も今後気を付けてくだされば良いのですよ。それで、ルティカはどうして彼を?」
「はい、中々に強い子だったので護衛としても十分だと思いまして」
「そうなのか? 君は今まで従者も護衛も断っていたじゃないか。彼なら使えると?」
そう言えば暗殺者にやられちゃうと困るので、護衛も断ってたんだっけ。
「そうですね、レベルも高くて強いと思ったのですが、ラインハルト様の判断で構いません」
「そうか……ではエドワードに任せてみよう。使えないと判断した場合は許可出来ないな」
「分かりました。よろしくお願いします」
ユノ、ごめーん。無駄にハードル上げちゃったかも。
◇◇◇
そんな心配も虚しく、ユノはエドワードの指導の下、あっという間に従者としての立ち振る舞いを身に付けた。ラインハルト様の許可も得、その結果従者のお着せを着た、類稀なる美少年が出来上がってきた。
あれ? これ私がショタ的に見えちゃう?
そんなつもりは全然無かったのに……。
ユノが淹れてくれた紅茶を飲んでみる。
「美味しい……」
「有難うございます」
「ユノが丁寧語使ってる! 凄い! それにしても大丈夫だったの?」
「はい、以前にも潜入でこの様な仕事をした事がございましたので。それに早く奥様の元に参りたかったので、頑張りました」
「……えっと、違和感ありありなので、前の言葉使いでお願いしたいんですが」
「それは……」
「2人の時は別に良いじゃない。私もそうするし」
「分かりました。それなりにします」
「よろしくね」
◇◇◇
陛下との交渉から三週間経った頃、王太子妃のアルセナ様からお茶会の招待状が届いた。
そろそろ期限のひと月が経つ。何かしらのアクションがあるかと思っていたけど、これかな?
王族からの招待だからとエリノアが張り切って、支度をしてくれた。いつものニ割増しです。疲れ切った私を、憐んだ目で見ているユノを連れ王宮に行く。
案内された先は、机を挟んで置かれた長椅子とソファーのセットが三カ所もある広めの応接室だった。
そこにアルセナ様がいらして、お茶を出され少しお話をしてると案の定王太子のフェリクス様がいらっしゃった。
アルセナ様も聞かされていた様で、心得た様に少し離れた場所に移動された。
勿論部屋にはアルセナ様、アルセナ様の侍女、ユノ、扉近くに衛兵と沢山居るので大丈夫。
「今日は呼び立ててしまってすまないね」
「いえ、何かございましたか?」
「その……オールト侯爵を追及するための材料を用意するのに時間が掛かっている。もう少し待って頂けないだろうか?」
「それでしたら、暗殺ギルドのボスを捕獲してあります。この前何かに使えるかと持ってきたんです。今、サーバンド侯爵家に居ますから今度届けますわ」
「そ、そうか……助かるな。それで調査も進むだろう」
そんな話をしていると、外が騒がしくなってきた。
マップを見て、溜息が出た。
「フェリクス様……バルバラ様に何も言っていないのですか?」
「! 何を言って……?」
バターン!!
王宮にあるまじき音を立てて扉を開けさせたバルバラ様が入って来た。
扉を開けたバルバラ様の侍女は、そのまま外に控えているようだ。
「母上っ! どうして此処に!?」
「ここに、王宮に相応しくない者が居ると聞きましたの」
驚いたフェリクス様は立ち上がってバルバラ様を見ている。本当に知らなかったみたいね。
バルバラ様は扇で顔を半分隠しながら、嫌味な視線を投げかけてきた。
「フェリクス、その女から離れなさい。その女はラインハルトだけでなく、貴方まで誑し込んだのね? 何て嫌らしい。そんな気味が悪い従者を連れて、一体何のつもりなんです!?」
ユノの白髪と赤い瞳は一部の者には不吉なものとされていると、以前にエドワードに伝えられていた。公爵家ではそんな目でユノを見る者は誰も居なかったため失念していた。
ユノを見ると何の動揺も見せず、冷めた目でバルバラ様を見てた。
気にしてはなさそうなので安心したが、私は許せたものではない。
半目になってバルバラ様を見てると、どんどん苛ついてしまう。
魔力がコントロール出来ず、漏れ出す。
周りの茶器がカチャカチャ鳴り出し、家具がガタガタと揺れ出した。
「何のつもりも何も、私は呼ばれて参りました。いけませんか?」
「良い訳ないでしょう! この前も、私のお茶会での無作法ったら無かったわ。フェリクス! この女をさっさと追い出しなさいっ!」
大きく息を吸って吐く。
落ち着かねば。
「フェリクス様。私は何と言われても構いませんが、ユノに対しては許せません。遺体が無くなっても構いませんか?」
「? 一体何を言っているのです? ふざけた事を言ってないで、早く出て行きなさい」
「母上! 黙ってくださいっ!! 待ってくれっ! すまない、これは違うんだ!」
「何故こんな女に謝っているのです!? 貴方は王太子なのですよ!?」
ふわりと手を振り、風でバルバラ様を壁に吹っ飛ばす。
大きな音を立てて、壁にぶつかった彼女はずるずると崩れ落ち動かなくなった。
衛兵達が剣を抜き、私に向けてきたが、フェリクス様が止めアルセナ様を守る様に命令する。
ユノが私の前にすっと庇うように立つ。
「私は気にしませんので、お気を鎮めください」
「でも貴方はこんなに綺麗なのに、あんな言い草信じられないわ」
「……有難うございます。私は奥様にさえ分かっていただければ十分なのです」
フェリクス様を見てみると、顔を青ざめさせてバルバラ様を見てる。
「フェリクス様、バルバラ様に何もされていなかったのですか? もうすぐひと月経つのに? それとも私が動いても良いと言う事なのですか?」
「違うっ! 決して違う! 止めてくれっ! すまない!」
「……では、貴方様に免じて、今は引きましょう。でも期限は守ってくださいね。まあ、オールト侯爵については少し延びても構いませんよ」
「! そ、そうか、分かった。必ず!」
アルセナ様と侍女、衛兵達をチラリと見て忠告する。
「アルセナ様、お見苦しい所をお見せして申し訳ございません。でも何も見ていませんよね? 貴方達もそうでしょう?」
アルセナ様は震えながらも頷き、侍女、衛兵達はコクコクと頭を振っていた。
フェリクス様が呼ばなければ、こんな事にはならなかったのに……と、思わずふぅと溜息をついてしまう。
ユノを除く部屋にいた全員がビクッと怯えてしまった。
あ〜あ、私のイメージが……。
「では、失礼します。アルセナ様美味しいお茶を有難うございました」
「……ええ、ではまたね」
ユノを連れて、王城を後にした。




