38.アーロン
次の日、馬車で侯爵家に向かう。ユノについて来れるかと問えば、問題無いとの事。どうやって来るかは分からないけど、大丈夫だろう。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「久し振りね、セバス。お父様はいらっしゃるかしら?」
「はい、執務室にてお待ちです」
「有難う」
執務室で入室の許可を貰って入る。
「お忙しいのに、お手数をお掛けして申し訳ございませんでした、お父様」
「いや、良いよ。で、今度は何をするつもりかな?」
「はい、少々ブレアシードに用事が出来まして。ちょっと行ってくるのに、家を空ける理由をいただいたまでですわ」
「ブレアシード!? 何だってまたそんな所に? しかも流石にそんな長期間は無理だろう!」
「理由はすべて終わってからお話し致します。期間は一週間くらいを見込んでおります」
「一週間!? それじゃあ、着くのも無理じゃないか?」
「大丈夫ですわ。そのために神聖契約して貰うんですから」
にっこり笑えば、また深い溜息をつかれちゃった。
「はぁ〜。まあ、あまり無茶をしないようにな。それで? 誰と契約するんだい?」
「ちょっとした知り合いです。連れて行くのに、どうしても色々見せてしまうので、口止めしとこうかと」
「そうか。ほら、書類だ。気を付けて行ってくるように」
「はい、有難うございます。では何か聞かれたら宜しくお願いしますね」
「ああ、分かった。……終わったら、聞かせてくれるんだろうね?」
「勿論です」
「ルティカが何をしようと、私の娘である事には変わりないんだ。もっと私を頼ってくれても構わないんだよ?」
「お父様には感謝しております。至らぬ娘で申し訳ありませんが、お父様の娘で良かったと心から思ってますわ」
「ルティカ……」
「では、行って参りますね」
「ああ、行っておいで」
一度部屋に戻って、冒険者ルックに着替える。
「ユノ。ちょっと良いかしら?」
「何だよ?」
姿は見えないけど、答えてくれる。
リアル隠密〜とニヤニヤしてしまう。
「今から神殿に行くんだけど、流石にその格好だと不審者だから普通の格好に着替えられる?」
「……分かった」
「じゃあ、神殿で待ち合わせね」
「了解」
ユノは暗殺者っぽく真っ黒の服で、目元しか見えないし怪し過ぎるからね。
行きだけでいいので、辻馬車で神殿に向かう。
神殿についてユノをサーチすると、真っ白な髪に真っ赤な瞳。透き通るような白い肌の綺麗な顔をした少年が立っていた。前世でいう所のアルビノ的な色合いをしているが、体はしっかりと鍛えてあり脆弱な訳ではなさそう。
「えーっ! ユノなの!? こんなイケメンだなんて聞いてないよ?」
「……何だよ、イケメンって?」
あれ? 何やらブスッとしてますね。
「イケメンって顔のイイ男性の事だよ? 綺麗な色合いだね〜。素敵」
うっとりと見詰めていたら、うっとたじろいでプイッと横を向いてしまった。
そんな所も可愛いな〜と見てたら
「行くぞ! 契約すんだろ!」
「あ、はい。じゃあ行こうか」
契約の部屋に入り、書類を確認して貰う。
「これで大丈夫?」
「お前に関する事、魔法やスキルを他人に話さなきゃ良いんだろ?」
「うん、そう。あ、私の事知ってる人なら話しても大丈夫だよ」
「誰だよ、ソレ?」
「えっと、お父様と先生達とギルかな?」
あ、そう言えばあの王族の隠密もちょっとは知ってるなぁ。釘を刺しといたけど大丈夫かな?
「ふーん……ま、良いぜ」
サインして水晶に翳して、契約完了。
「で、どうやって行くんだ? 往復一週間で行ける訳ないだろ?」
「ああ、アーロンに乗ってくから大丈夫だと思うよ」
「アーロン?」
「うん、私が作ったの。じゃあ、取り敢えず人目のない所まで行こっか」
「……ああ」
神殿を出て近くの森の奥のちょっと開けた所まで入る。
ユノもそれなりのレベルだけあって、ちゃんとついて来れてる。
「ここなら大丈夫かな?」
「アーロンって何だよ?」
「ん? コレ」
そう言って私がアイテムBOXから出したものは、体長20mはある黒龍。
出した瞬間、ユノは飛び退いて木の上に避難してた。
「大丈夫だよ。コレ作り物だもの」
そう言うと、恐る恐る近付いてきた。猫みたい。
「な、何だよ、コレ!」
「何か移動手段がないかと思って、作ってみたの」
そう! このアーロンこと黒龍は私の試行錯誤の結晶なのだ!
土魔法で何か物を作って、魔力で移動させていて気付いたのだ。それに乗れば、魔女の箒の様に移動出来るのではないかと。
ただ箒だと安定性が悪いのとお尻が痛かろうと、昔から思っていたのでまずはボードを作ってみた。スノボみたいなの。ただ、これは私が乗れなかった。くっ、どうせスキー世代だよ!
ならばと、魔法の絨毯的なモノを作ってみた。これなら乗れたが、動かせなかった。正確には歩く速度程度には動く。が、自在に空を飛ぶ事が出来なかったのだ。
検証の結果、私が動かず、物を動かすことは可能。それもかなりのスピードで。でもそれ自体に乗って位置を移動するのは難しかった。
イメージが足りないのかと空を飛ぶ物を作ってみたが、機械的な物は形だけなので意味がなく、じゃあ、生き物ならと考えた結果、趣味も兼ねて乗れる龍を作ってみたのだった。
最初はお試しで小さいのを作って乗ってみたら、良い感じに空を飛べたのだ。
調子に乗った結果、でっかいサイズになり、鱗一枚一枚に拘り、更には逆鱗も作ってしまった。乗る所には鞍的なものも設置。
と、ここまで作ってようやく気付いたが、ちょー目立つ。こんなのに乗って移動したら、話題をかっさらう事間違いなし。泣く泣く諦めたが、あまりの出来栄えに名前を付けて収納しておいたのだ。
因みに以前ギルに見せてみたら、大層お怒りになり、こんな物は竜ではない!とかなり不機嫌になったので、更に封印される事になった。
『アーロン』
そう呼べば、まるで生きてるかの様に、目を開け私を見る。すりすりと寄ってくれば可愛い。やはりイメージって大事。
「こ、これに乗るのかよ……」
「うん、直線的に行けるし、かなり早いよ。ユノの鞍も作るね」
私の鞍の前にもう一つ作って設置。
「さ、乗って乗って」
「う、うん」
最初だけスワロウの扇で気配を消し、シールドを張って上空へ。
結構な高さまで昇ってから速度を上げる。優雅に龍が游いでいるが、その速度はかなりなもの。
ああ、景色が綺麗。この世界は自然が多くて美しい。
こんなに高く飛んだのは初めてだけど、何て気持ちが良いんだろう。
ここ暫くのストレスが発散出来るようだ。
ユノを見てみると、怖がってはいなさそうだ。
「どう? 近くになったら場所を教えてね」
「……お前、一体何なんだよ?」
どんなに速いといっても、そこは国を一つ挟む位な距離であって、当然かなりの時間がかかる。その間暇なので、私の生まれや今までの事を話した。ご飯はアイテムBOXから手軽に食べれる物を出して食べた。最初は信じていない様だったけど、段々呆れが入った目で見られた。何故だ?解せぬ。
その内ユノも、ぽつりぽつりと自分の事を話してくれた。
幼い頃に親に捨てられて、気付けば奴隷商人に捕まり暗殺ギルドに売られていた。お兄さんと一緒に訓練を受け、生きていく為に仕事をしていた。お互いが枷となり、いいように扱われているのは分かっていたが、どうにもならなかったと。
ユノが所属している暗殺ギルドは、一度引き受けたら、必ず遂行するのを売りにしている所らしく、その界隈では有名処らしい。だからしつこいのか。それにしても暗殺ギルドって何個も有るんだね…。
「今だから言うけど、お前の所に行く事はもう死刑と同じで、最近では何か仕出かした奴が送られる所なんだぜ」
「何それ?」
「あんだけ死体作ってたらそうなるだろ」
「私が作った訳じゃないよ!」
大分時間が経ち、夕方になり月も見えてきた。
夕日も綺麗だね〜。
この世界の月は二個有る。月の周りを回っているもう一つの月があるのだ。流石異世界。
「おっ、そろそろブレアシードだな。バドスの一つ手前の街で降りようぜ」
「そうだね、もう日が落ちてきたし、そこで一旦泊まろうか」
街の近くの森でそっと降りる。
遅くなり街の門が閉まっていた為、勝手に入る。密入国している時点で、もういいかな〜と。
偽名で宿をとって、夕食を食べる。
お風呂はなかったので浄化をかけてから寝る。
「……おいっ! 何で一部屋なんだよ!?」
「えー、別にいいじゃん。ここまできて裏切らないでしょ?」
「まあ、そんな気はもうないけど……」
「今日は流石に疲れたもん。護衛よろしくね。じゃあ、おやすみ〜」
「……お、おやすみ……」




