37.自己満足
さて、一つ解決したと言っても、まだまだ問題は残っている。
ラインハルト様との仲は悪くはない。夜会に出れば腰を抱かれてのエスコートだし、会話も勿論ある。側から見れば仲の良い夫婦に見えるはず。ただ寝てないだけで。
それにいつ暗殺ギルドがやって来るのか分からない分、私から積極的に動く事が躊躇われた。実際に夜寝る前に話していて、ちょっとイイ感じになったのに、来てしまったため部屋に行けなかった事もあった。
これが重なるとヤバイとは思うがどうにもならず……。
そして何十回目か分からない襲撃があった。
いつもの様に捕まえて問いただす。いつもは一切喋らず、何の抵抗もなく、死んでいくのに今日は違った。シールドの中から出ようと攻撃したり、魔法を繰り出したりしてた。いつもより体躯が小さく、子供かな?と思った。
「無駄だよ。貴方はそこから出られない。抵抗は止めて、寝返らない?」
「……」
彼は私を睨んだ後、諦めた様に力を抜き苦しみ出した。
やっぱり駄目なのか……と思って見てたら、ふと彼の名前に気付いた。
この頃にはようやく治療がレベルMAXになって、即死レベルの毒も治療出来る様になっていた。
間に合うかな?と思いながらも、彼を治療をする。
何とかギリギリ間に合ったみたい。でも息はあるけど、グッタリとして動かない。
そのまま部屋に連れて行って、浄化をかけてからソファーに下ろす。鑑定して見ても毒状態ではなかったので、ちゃんと解毒出来たみたい。良かった。
暫く様子を見てると、ふっと目を開けたと思ったら、いきなり部屋の隅に飛び退いた。びびった。
「……どうして助けた?」
「貴方が『ユノ』だったから」
「何故!? ……どういう意味だ?」
「貴方のお兄さんが、貴方が生きる事を願っていたから」
「!」
そう、彼は一番最初に暗殺に来た、あの彼の弟だと気付いたのだ。
「お前が兄貴を殺したんだろ!」
「……間接的には? 寝返らないか聞いたけど、貴方と同じ様に毒を飲んで死んでしまったわ……」
「……」
「今までの人も全員同じ。特に手を出してはいないよ?」
「まあ、アレじゃあ誰でもそうなる……だから誰も帰って来なかったのか……」
「そうね」
「俺を助けてどうするつもりだ!?」
「……別に?」
「はぁ?」
「彼だけが話をしてくれたし、悪い人には見えなかったから……」
「暗殺しに来たのに良い人もないだろ!」
「まあ、そうなんだけど」
アレが一番後味が悪かったから。
「簡単に言えば、自己満足かな? で、どうする? またやる?」
「いや……お前を殺るのは無理だろ」
「なら、もう家族が居ないなら逃げても良いんじゃない?」
「……」
「そうそう、暗殺ギルドの事って話せる?」
彼は暫く考えた様に、視線を下げていた。
「……! 話せる! どうしてっ!?」
「神聖契約してたの? もしかして一度死んだから? かなりギリギリだったし」
「……そうかも。俺達はギルドに関して喋る事が出来ない様になっていた。でも今は喋れるな」
「じゃあ、場所って言える?」
「ああ、ブレアシードのバドスにある」
ブレアシードは2つ隣の国だ。
そこは傭兵とかが多く、血の気の多い国民性だと聞いた事がある。
ようやく手掛かりがあった!
「ねえ、そこまで案内してもらう事は出来る?」
「今なら出来なくもないが……行ってどうするんだ?」
「え? 壊滅させるに決まってんじゃん。いい加減頭きてるし」
「……壊滅って……まあ、お前なら出来るかもしれんが……」
「しちゃったらマズい? 大切な人とか居るの?」
「いや、全然。むしろやってくれたら助かる」
「じゃあ、決まり。ここからどれくらい掛かる?」
「馬なら俺たちで1週間。馬車なら3〜4週間ってトコかな?」
「そんなに遠いんだ……流石にそんな長い事出掛けられないなぁ。往復で2週間なんて」
「馬前提……お前、お嬢様じゃねーのかよ?」
うーん、うーん。
一度実家に戻るって言えば1週間くらいなら大丈夫かな?
となるとアレで行くしかないか。
「ねえ、契約が切れたトコに悪いんだけど、私と契約してくれない?」
綺麗な赤い目をしてるなぁ。でも眉間にシワが見えますよ。
「……何のだよ?」
「私の事について他の人に喋らないようにする契約」
「何で?」
「ん? 案内が終わったらそれでお別れだけど、流石に言いふらされるとちょっと困るから」
「……まあ、いいぜ」
「有難う。じゃあ明日にでもラインハルト様に聞いてみなきゃね。それまでどうする? ここに居る?」
「そうだな……外に出ると奴らにバレるな。でもここに居て良いのか?」
「え? 良いよ。誰か来たら隠れられるんでしょ?」
「あ、ああ、勿論」
「じゃあ、そういう事で。取り敢えずお休み〜」
「お、おやすみ……」
ちゃんとシールドは張って寝ましたよ。
次の日お父様に手紙を書いて、エドワードに出してもらった。用事で1週間くらい実家に呼んでもらう手紙を書いて欲しいと。ついでに神聖契約の書類も頼んでおいた。流石にいきなり帰ったら問題あるでしょう。
その次の日にはお父様から手紙が届いた。仕事が早くて助かります。
夕食の時にラインハルト様に聞いてみた。
「ラインハルト様。申し訳ありませんが、暫く実家に帰っても宜しいでしょうか?」
「……何故?」
「お父様から連絡がありまして、以前に関わっていた案件について話があるとの事です。折角ですので1週間くらい戻っても大丈夫でしょうか?」
「……良いですよ。ゆっくりしてきてください」
「有難うございます」
「ルティカちゃん帰ってしまうの? 寂しいわ」
「お義母様、すぐ戻って来ますよ」
「母上、良いではありませんか。ルティカ嬢もたまには羽を伸ばす事も必要ですよ?」
「お気遣い有難うございます、ツヴァルツ様」
お許しは出たけど、ラインハルト様は無言で食事を終え、先に部屋に戻ってしまった。次の日も朝早くに出て行ってしまい、会う事もなく実家に帰る事になった。
……怒ったのかな?
何だかどんどん墓穴を掘ってる気がする……。




