31.次の手は
暫くは何事もなく、フェリシア様の所に行ってお茶をしたり(ついでに治療もする)、お母様のお友達とお茶したり。結婚式のドレスを見繕ったりしてた。
そんなある夜、偵察の地図マップに不自然な動きの輩が現れた。
遂に来ましたか。
レベル8の偵察だと地図マップは半径1km見れるので敷地外まで確認出来る。そろそろ来るかな〜と思い、冒険者ルックで寝ていたので準備も万端。
屋敷に入られると困るので、敷地に侵入する所を待っていると音もなく塀を越えて、全身真っ黒な服を着た男が入ってきた。
……出来る。(言ってみたかっただけ)
こちらに気付く前に、魔力の檻で捕獲する。これは以前に傷付いたスワロウを捕獲するために作ったんだ。対象を魔力の球で包んで動きを物理的に封じるモノ。そう言えば魔法は試した事ないなぁ。通っちゃうかも。要訓練だね。
「誰からの依頼か言えますか?」
いきなり見えない物に捕われて警戒している所に、にっこりと微笑みながら声を掛けてみる。
男はこちらを確認すると、力を抜いた。
「抵抗なさらないのですか?」
「……あんた強いだろ? 俺は勝てそうにないからな」
「そうですか。それで、言えますか?」
「……いや、言えない。とゆーか知らない。俺達は暗殺ギルドだ。依頼主は上しか知らないからな」
暗殺ギルド!?
そんなモノがあるんだ。
「このままお帰り頂く事は可能ですか?」
「無理だな。失敗=死だからな」
「寝返る事は?」
「はは、あんた面白いな。でも無理だ。弟が居るからな」
「そうですか……」
どうしようかな?
弟を助ければ良いのか? でもな〜、うーん。
「なぁ、あんた。頼みがあるんだが」
「……何でしょう?」
「俺が死んだら、死体を外に出しておいてくれないか?」
「今の所殺す気はないのですが?」
「死体がないと逃げたって思われるからな」
「いや、だからっ!」
「俺がしくじったから、これから増えると思うが頑張れよ。じゃあな」
「えっ?」
えっ? と思っていると、彼はいきなり苦しみ出した。
「何してるのっ!?」
慌てて治療をかける。
が、私の今のレベルでは即死の毒は治せない。
「いや……いい……んだ」
「でも!」
「お……れが……死なないと……ユノ……が……殺……され……るか……ら……」
「……」
そう言われてしまえば、私に出来る事などない。
彼が動かなくなるのをただ見つめるしかなかった。
そのまま運んで、屋敷の外にそっと下ろす。
あの言い方なら誰か仲間が居るのだろう。
マップには引っ掛からないので、朝方にでも来るのかも。
誰にも気付かれないように部屋に戻る。
はぁ……。
暗殺ギルドか。厄介だなぁ。
もちろん私を殺しに来るのだから、相手を殺すつもりはあったよ。
あったけど、あれはちょっと……。
取り敢えず治療のレベルを上げるべく、限界まで治療しまくってから、少し寝た。
◇
あれから彼の言った様に、毎夜の様に暗殺者がやって来た。
人数が増えたり、同時に違う場所から侵入されたり、時間差でやって来たり。
捕らえると全員死んでいく。
毎日じゃない辺りが、また地味にクル。
当然警戒していて寝れない。
それに加えて、昼間は茶会だの、夜は夜会だの出ている訳で。
正直しんどい。
夜会で無意識に溜息をついちゃうくらいに。
「どうかされましたか? お疲れの様ですが」
「いえ、大丈夫です。少し人に酔ったのかもしれません」
「ではバルコニーに行きましょう。外の空気を吸いましょうか」
そう言って優雅にエスコートしてくれるラインハルト様。
優しいね。
「最近顔色が優れませんが、本当に大丈夫なのですか?」
「ええ……少し疲れてしまった様です。夜会は苦手ですわ」
「そうですか。では気晴らしにどこか行きますか?」
「え? ラインハルト様と?」
「ええ、勿論ですよ。どこが良いですか? 食事でも演劇でもどこでも良いですよ」
そう言ってにっこり微笑まれる。
あぁ、眼福です。
本当に綺麗。その瞳をもっと見ていたい。
思わず、じっと見つめてしまう。
「どうされますか?」
いかんいかん、見過ぎた。
「えっと……思い切り体を動かしたいので、遠乗りにでも行きたいです」
「ルティカは乗馬が出来るのですか?」
「勿論です! 馬は好きなんです。なんなら競争しますか? 負けませんよ?」
「ふふ、良いですね。ではまた連絡しますね」
「はい、楽しみにしています」
やったー!
ラインハルト様とデート!!
馬に乗るラインハルト様も美しいんだろうなぁ。
あぁ、楽しみです。
◇
当日ラインハルト様が、護衛の人と一緒に馬に乗って迎えに来てくれた。
ヤバイっ!
リアル白馬の王子様ですっ!!
キラキラしてますぅ〜。
「お待たせしました」
「いえ、お迎え有難うございます。ラインハルト様の乗馬姿が見れて幸せです」
「ふふ、ルティカも素敵ですよ。では行きましょうか?」
王都を出て草原を走り、小高い丘を目指す。この辺りは魔獣も出ず安全地帯なので、思い切り走れる。馬も気持ち良さそうだ。
丘についてピクニックよろしく、シートを引いてサンドイッチとスープを並べる。アイテムBOXなのでスープは温かいままだ。馬達はその辺で草を食べのんびりしている。
「ラインハルト様、お昼を作って来たのです。一緒に食べませんか?」
「え? ルティカが作ったのですか?」
「はい、頑張りました」
今日は朝から気合を入れて作りました。料理はそれなりに作れる。なんせ主婦歴が長かったもので。こちらの世界も大体似たような素材が多い。流石に米や醤油はないけど。もしかしたらどこか他国にあるかもしれない。
料理をするのも気分転換になって良かった。久し振りだし楽しかった。
どうかな? と思って、ラインハルト様を見てみる。
「美味しいです! ルティカは料理も上手いのですね。驚きましたね」
「有難うございます。作った甲斐がありました。嬉しいです」
二人で食べて、草原を眺めながらのんびりと過ごす。流石にラインハルト様と一緒の時に襲っては来ないだろうし、気が緩む。
あ〜、こんなゆったりしたの久し振り。
……いかん、眠気が……。
つい、うつらうつらしてしまったら、ラインハルト様が肩を抱き寄せてくれた。
「眠いのでしたら、少しお休みになっては如何です? こうしていれば大丈夫ですよ」
そう言いながら私の頭を寄せて、肩を貸してくれる。
……温かい。
「では……少しだけ……」
すぐに眠気に負け、眠り込んでしまった。
◆◆◆
そのままの体勢では辛かろうと、彼女の頭を膝に移動させたが全く起きる気配がない。
眠るルティカを見れば、うっすらと隈が見える。
もしかして眠れていないのかもしれない。
私が問いかけても大丈夫としか言ってくれないが。
そんなに私は頼りないだろうか?
それなりだと思っているのだが……。
まさか、ルティカも私から去ってしまうのか?
いや、そんな事は……。
無防備に眠る彼女を見ていると、じんわりと心が温かくなる。
私の周りの女性は、大抵不幸に遭ってしまう。それは幼い頃からそうだった。
本来ならルティカも遠ざけるべきだと分かっているが、それもしたくない。
一緒に居たいと思う。
彼女の強さにも惹かれた。私はその強さに甘えているのだろうか。
様々な葛藤を抱えながら、すやすやと眠るルティカの頭を撫で続けた。
◆◆◆
目を開けると、やけに頭がスッキリとしていた。
あー、よく寝た。
そして見える、微笑みながら見下ろすラインハルト様。
あれ? これって……膝枕になってる!?
いやいや待って! 私何してたっけ?
あわあわと起きれば
「よく眠れましたか?」
「はい、失礼しました。お蔭様で大変気持ちよく眠れました。本当に申し訳ございません」
「何を謝っているのです? よく眠れたのなら良かったです。そろそろ戻りましょうか?」
見れば日もかなり傾いている。どんだけ寝たんだ私!?
「すみません。折角誘って頂いたのに」
「謝る必要はありませんよ。私も楽しかったですし」
「そうですか?」
「はい、ルティカの寝顔を見れましたからね」
「! ……そ、それは忘れてください!」
「ふふ」
「ラインハルト様!?」
「さて帰りましょうか?」
「忘れてくださいよ〜」
「どうしましょうかね?」
そんな事を言い合いながら、帰りはのんびりと走らせて帰った。
初デートは私のお昼寝で終わってしまった。でもラインハルト様も楽しそうだったし、ま、いっか。
誤字報告有難うございます。




