30.最初の手
婚約パーティから暫くして、侯爵家に新しい侍女見習いがやって来た。ロッソ男爵家の三女レーラ。身元はハッキリしているし、元々見習いに来る予定だったらしい。
当然怪し過ぎるので偵察で見張ると、案の定何かを紅茶に入れて出してくる。
ふむふむ、と鑑定してみれば、即効性は無いが内臓が弱っていく神経毒だった。飲み続けると具合が悪くなっていくもの。浄化すれば無毒化されたので、何も気付かなかった様に飲む。
取り敢えず様子を見るが、この毒をお母様に出されては堪らないので、偵察で個人の部屋も見張り、毒のある場所を突き止める。誰も居ない隙に彼女の部屋に近付き、全体的に浄化をかける。念の為鑑定してみたが、ちゃんと無毒化されていた。これでただの粉なので、誰に入れられても大丈夫。
さて、彼女を調べてみたい所だが生憎そんな伝手など無い。身元とかは家令のセバスに聞いただけだし。
そもそも考えてもみて欲しい。ただの侯爵令嬢にそんな怪しげな伝手などある訳ない。
昔、お父様に侯爵家に影とか隠密的な者は居ないのか聞いてみたが、そんな者居るはずないだろう? と笑われてしまった。
むー、ちょっと憧れていたのに。残念。まあ、王族にはいるかもね? と言われたので今後に期待しとこう。
こうなると分かっていたなら、冒険者時代にそんな輩を探しておいたのになぁ。一瞬カイト先生に聞いてみようかとも思ったが、巻き込むのも気が引けるのでやめた。
頼る伝手がないなら自分で調べるしかない。って事で、具合が悪くなったフリで寝込む。丁度良いので偵察しまくり。でも誰かに接触してる感じはなかった。
ないならしてもらいましょー。
毒を小瓶から移す時を狙い、窓から風を起こす。小瓶を倒して毒を撒き散らしておく。
さて、少なくなってしまったからには補充をするはず。
どれどれと見てたら、次の日にお休みを取って実家に帰るとな。
ふむふむ、それではついて行ってみましょ〜。
土魔法で自分そっくりの人形を作ってベッドに寝かす。ぱっと見わからなければ大丈夫だろう。
冒険者ルックでスワロウの扇は浮きまくりだが仕方ない。気配を消しつつ後をつける。お家確認。屋根に登って偵察で中を見る。
「お父様、毒を溢してしまって、もう直ぐ無くなりそうなの。どうしたら良いかしら?」
「何をしてるんだ! バレたのか?」
「いいえ、バレてはないと思うわ。あの女も具合が悪くなって、今寝込んでいるから」
「そうか、順調なようだな。仕方ない、トレハス侯爵に言ってもう一度都合してもらう事にしよう。届き次第また連絡する。侯爵家に恩を売れるチャンスなんだ。失敗るなよ」
「分かっているわ、大丈夫よ。あんな女ラインハルト様に相応しくないもの」
「そうだ。その意気だ、頼んだぞ」
おっとー、中々に性悪だね。
借金で脅されてとかじゃなさそうだし、遠慮しなくて良いかな。
さて、トレハス侯爵か。確か第二妃派だったね。うーん、バルバラ様がやった訳でもなさそうだなぁ。取り敢えず調べてみますか。
そのままトレハス侯爵の敷地に侵入して屋根に登り、寝っころがりながら偵察。この頃には偵察もレベル8になり、半径80mは3次元で見れる。屋根の真ん中に居れば屋敷全体が偵察可能なのだ。
でもそんな簡単に都合良く分かる訳もなく。ロッソ男爵が来たのは3日後だった。もっと早く行動してよっ! まあそのお陰で何やら怪しい隠し場所も見つけたけどさー。
「申し訳ございません。娘が溢してしまい、もうすぐ無くなりそうなのです。追加分を貰えないでしょうか?」
「何をしてるんだ! バレたんじゃないだろうな?」
「その点は大丈夫です。現に効いて寝込んでいるそうなので」
「そうか……まあ、いい。気を付けてくれたまえ」
そう言ってトレハス侯爵が執事に目配せすると、部屋を出て行き隠し場所から毒らしき物を持ってきて渡した。
「確かに。では」
ロッソ男爵が出て行った後、トレハス侯爵は執事に
「成功したらアレも消せ。娘も一緒に」
「畏まりました」
わるーい。悪役っぽいよ!
てか、どうやって消すんだろう?
その伝手知りたいです!
「サーバンドの娘が死んだら、プラデルタの娘でも売込んで、彼奴にも恩を売ればよかろう。バルバラ様にも喜んで頂ける筈だし、一石二鳥だな」
そんな事を言いながらお酒を飲んでいる侯爵。
うん、ハズレかぁ。
レーラが次の休みに家に帰って持ってきたので、隙を見て無毒化しておく。
ついでにお昼寝をたっぷりして夜中にトレハス侯爵家に侵入して、隠し場所に入ってた書類一式を頂く。私が隠密っぽいわ。
戻ってから確かめてみるが、さっぱり分かんない。
転生者が誰でも書類を見ただけで不正があるって分かると思うなよ! こんな書式も決まっていない書類を見たって分かるもんか。えーん。
まあ、隠してあるんだから疚しいに決まっている。人の命を狙ったんだから、これくらい貰ったって良いだろう。その内何か使えるんじゃない? て事でアイテムBOXに収納しておく。
もう調べる必要がなくなったので、仮病は終わり。追求はせずにそれとなくレーラを辞めさせる。その辺はセバスにお任せ。しばらく新しい人を入れるのはやめて貰えば、大丈夫だろう。
ふと気になり、ロッソ男爵を調べてみたら、一家で病気になり亡くなってた。失敗しても消されちゃったんだね。
さて、次はどんな手かな〜と思っていたら、お父様に呼ばれた。
「ルティカ、一体何をしているんだい?」
あれ? 昼間居ないのバレてた?
オーラが怒ってますね。
「何の事でしょう?」
「レーラの事だ。何かあったのだろう?」
「分かっていたのなら入れなければ宜しかったのに」
「そういう訳にもいかなかっただけだ。で?」
「……毒を仕込まれただけですわ」
「!! 一体誰が……?」
「トレハス侯爵です」
「……どうやって調べたんだ? 誰かに頼んだのか?」
「え? 自分でですけど?」
あら、深〜い溜息をつかれちゃいました。
「あまり、危ない真似はしないでくれ。ルティカが強いのは分かっているが心配なんだ」
「はい、善処します」
「……する気ないだろう?」
「え? ……いえ、そんな事は……そうそう! トレハス侯爵がこんな物を隠してましたよ!」
何食わぬ顔でアイテムBOXから書類を取り出す。
「思いっきり話題を変えたな。まあ、いい。それはなんだね?」
「隠し場所にあった書類一式です。私には分かりませんでしたが、何か使えるんじゃないかと思いまして」
「どれどれ……これは私が預かろう。精査しとくよ」
「よろしくお願いします。でもまだ手を出さないでくださいね」
「分かったよ。他に私に出来る事はあるかね?」
「今の所大丈夫です」
「そうか、何かあったら言いなさい」
「はい、分かりました。有難うございます」
お父様は文官で税務を担当しているから、任せておけば大丈夫だろう。巻き込むつもりはなかったんだけど……別件で挙げて貰えばいっか。




