25.分岐点
彼女を見て最初に浮かんだ言葉は『なぜ?』だった。
なぜ此処に?
なぜそんな簡易馬車に乗っているの?
なぜ護衛の騎士が二人しか居ないの?
なぜそんなに儚げなのーっ!!
一瞬、逡巡したが私の取った行動は、フードを取り、胸に手を当て立て膝にて首を垂れる事だった。ドレスじゃなく冒険者用のパンツスタイルだったから。
ホントならそのまま逃げてしまいたかったが、万が一にも私の素性がバレたらマズい。仮にも貴族の端くれ、お父様に迷惑をかける訳にはいかない。
「お止めください! 私はもう王族ではありません。それに貴方様には助けていただいたのです。どうぞお顔をお上げになって」
そう言われれば上ぬ訳にもいかず、ご尊顔を拝見させていただく。うむ、眼福。
「私をご存知という事は貴族の方ですか?」
「はい、ルティカ・ユイ・サーバンドと申します」
「サーバンド侯爵の蒼の宝石でしたか。初めまして、フェリシア・フォン・エクセライクです。助けていただいて、有難うございました。お強いのですね」
お父様は社交界で、私の事を何て言ってるんですかね? 一度問い詰めねば。
この儚げな美人さんは王様の妹君で、現在は公爵家に降嫁されている。お見かけした事はないが、姿絵を見た事はあるし、貴族なら知ってて当たり前だ。
「いえ、それ程でも。それにしても間に合ってよかったです。護衛が二人とは少なくないですか? それにその馬車は……?」
「ええ、少し事情がありまして、護衛の半分は前の街に引き返している所だったのです。この辺は比較的安全なので大丈夫だと思ったのですが、いきなり囲まれてしまって……本当に助かりました」
何やらきな臭いカンジがしますよー。
「是非お礼を。一緒に屋敷に来ていただけませんか?」
「いえ、そんな、当たり前の事をした迄です」
「そんな事を仰らずに。何もせずにお帰しするなど出来ません」
「……では、このウォーウルフ達を貰っても宜しいでしょうか?」
「えっ? ええ……勿論です。そんな事で宜しいので?」
「はい、有難うございます」
「でもどうやって持ち帰られるのですか? せめてお手伝いでも……」
そう言って護衛の方々に指示を出そうとするので
「いえ、大丈夫です。私はアイテムBOX持ちなので。ご心配なく」
さっさと入れてしまう。
おぉ……とか護衛の人が言ってるけど、これって普通じゃないの? アレ?
ついでにこのままお礼を言って立ち去りたい。
「有難うございました」
「お強いだけではなく、冒険者としても一流なのですね!」
「そんな事はございません。私などまだまだです」
「あの……もし宜しかったら王都まで護衛をお願い出来ませんか? あの者達も怪我をしてしまっていますし。勿論護衛代はお支払致しますので」
ですよねー。不安ですよね……仕方ない。
「構いませんよ。お礼も無用です。ではご一緒させていただきますね」
勿論顔には出さずに、にこやかに対応出来てる私、偉い! 貴族っぽいよ!
◇
どうしてこうなった?
おっかしいなー。普通護衛って外に居るもんじゃないの?
何故にフェリシア様と向かい合って、馬車に乗り込んでるんでしょうかね?
最初は気不味かったが、話していく内に緊張も解れていった。フェリシア様は気さくでとても話し易い方だった。
冒険者の話にはキラキラと目を輝かせておられ、失礼ながら可愛い方だと思った。お母様より年上のはずなんだけどなぁ。
「ルティカ嬢はどなたかとパーティを組まれいるのですか?」
「いえ、私はソロですね」
「まぁ! それは……危なくないのですか?」
「大丈夫ですよ。私は強いですからね。この前も夜盗を捕まえて騎士団に渡しておきましたよ」
「本当にお強いのですね。素晴らしいです」
盗賊や夜盗など見付け次第、捕えるなり報告したりするのも冒険者の勤めだ。
以前に森の中で拐った女性に乱暴しようとしている所を見つけて以来、私の中で盗賊は殲滅対象になった。とは言え、取ったものとかの在り処を聞き出したりするのが面倒なので、とっ捕まえて騎士団に丸投げしている。
「それにしてもどうしてこんな少人数で移動などされているのですか? 危ないですよ?」
「ええ、元々は護衛も五人居たのです。でも昨日泊まっていた街で馬車が壊れてしまって。明日のお茶会に呼ばれていたものですから、急遽この馬車を借りて出発したのです。その際に事後処理のためお一人残られました。それからここに来る途中で、盗賊に襲われている商人の方がおりまして。護衛の方に助けるように頼んだのです。それで捕まえた盗賊を街に連れて行くためと商人の方の護衛で二人。結果こちらに残ったのが二人になってしまったのです」
作為的ですね。
しかもタチが悪い。善意を基に考えてある所が悪質だ。
「もう王都も近いですし、大丈夫だと思っていたのですが、いきなりあの群れに襲われまして。本当に驚きました」
「誰かに狙われている可能性はあるのですか?」
「えぇ、まあ……」
あるのか。
まあ、高位の方々には色々とあるのだろう。
「今後お気を付けになられた方が宜しいかと」
「はい、有難うございます」
「あの……失礼な事をお尋ねしても宜しいですか?」
「何なりと」
「ルティカ嬢に婚約者は居られますか? もしくは好いた方など?」
「? いえ、その様な方は居りません。私は冒険者としてやっていくつもりなので結婚も今の所考えておりません」
「そうですか……」
そう言ったっきり黙り込んでしまったフェリシア様をこれ幸いと眺める。
金髪碧眼。さすが顔面偏差値の最高峰の王族だけあって、素晴らしく整ったお顔立ち。その儚げな雰囲気は、守ってあげたい気分にさせられる。しかも昨年公爵様がお亡くなりになってしまい、未亡人。まさに世の男性を虜にする事間違いなし!
なんて、考えていたら、フェリシア様が思い詰めたようなお顔になっていき、どんどん心配になった。どうしたものやらと思っていたら、いきなりバッとお顔を上げた。
「ルティカ嬢! お願いがあります。どうかお聞き届けください!!」
「! ……えっと、何でしょうか? 私に出来ることですか?」
「はい、むしろルティカ嬢にしか出来ない事だと思います。今お話しして冒険者になりたいというお気持ちは十分に分かっています。ですが、どうしてもお願いしたいのです。どうかっ! 息子を……ラインハルトを助けてください!」
「!!」
そう言って頭を下げて、懇願されるフェリシア様。
元とは言え王族がこんな簡単に頭を下げてはいけないだろう。
それにこんな美人さんにお願いされて断れる人など居るのだろうか? いや、居まい。
「お顔を上げてください。一体どうなされたのですか? ラインハルト様に何かおありで?」
「いえ、そういった事ではありません。……ルティカ嬢はラインハルトの噂をご存知ですか?」
ヤバイ。社交界なんて全然行ってないから、噂なんて全く見当がつかないよー。
「それは……」
「いえ、何も仰らないでください。分かっております。でもあれは本当にラインハルトの所為ではありませんのよ。立て続けに3回も婚約が白紙にされても、全部向こう様の都合だったのです。ラインハルトは何も悪くありません」
おっとー。勘違いして頂いて助かりました。でも3回って凄いね。何があったのだろう?
でも流れ的にイヤな予感がします。
「ええ、そうですね。それで……私への頼みとは?」
「是非ラインハルトの嫁に来てくださいっ!!」
やっぱりーっ!! てか、婚約者じゃなくていきなり嫁ぇっ!?
「ルティカ嬢は強くて正義感もあり、美しく、優しい方です。お話しして分かりました。素晴らしいご令嬢だと。是非私の娘になってくださいっ!!」
「えっと〜それには……まずラインハルト様に聞いてみなくてはいけないのでは?」
「あの子は……もう色々と諦めてしまっているようで……もう結婚もいいと言っていました。でも、あの子は悪くないんです。どうかっ! ルティカ嬢の強さであの子を守っていただけませんか?」
そう言われても……ねぇ。
でも……気付いた。私は気付いてしまった。
先程からフェリシア様を眺めていて、彼女が……微毒状態である事に。
鑑定のレベルが8である私には、相手の名前や状態がステータスバーとして頭上に見えるようになっている。つまり、HPやMPの最大がどれ位あって、今はどれ位あるのかが分かる。ホントにゲームみたいだ。
通常そのバーは白色で見えるが、状態が変われば色が付く。HPが減っていけば黄色に、瀕死になれば赤に。そして毒状態だと緑に。
フェリシア様のバーはうっすらと緑だ。よく見ないと分からない程。つまり微毒。長期の毒を飲み始めているという事だろう。先生曰く、王族や高位の令息は幼い頃から毒の耐性を付けるという。耐性とは即死しないためであったり、効きにくいというだけであって効かない訳じゃない。このまま続けられていれば、いずれ何らかの影響が現れるだろう。
このまま知らないふりをして、フェリシア様に何かあったら……。
この儚げな美人が損なわれるなど、あり得ませんっ!
人類の損失ですよっ!!
「フェリシア様。よかったら暫く目を瞑っていていただけませんか?」
「? はい、良いですよ」
いや、良くないですよ。
今日会ったばかりの怪しげな人の前でそんな無防備に目を瞑っちゃダメでしょう?
……まあ、可愛いから良いんですけどね。
フェリシア様が目を瞑っている間に、治療をかける。キラキラ〜
バーが白に戻った。
ついでに浄化もかけておく。しゅわしゅわ〜。
ちなみに私が効果音を考えているだけで、実際に音はしていないから気付かれない。
「? 何かされましたか?」
「いいえ、もう良いですよ。でもこんな怪しい人物の前でそんな簡単に目を瞑ってはいけませんよ」
「ふふ、大丈夫ですよ。ルティカ嬢はそんな事しません」
その自信はどこから?
嬉しいけど。
「まあ、先程のお話は一度ラインハルト様にお会いしてから決めても宜しいですか? 後、お父様にも聞いておきたいです」
「もちろんです。そうしてください」
「では、暫く侯爵家に居りますので、そちらにご連絡ください。もちろんラインハルト様にも確認をとってくださいね」
「分かりました。すぐに連絡いたしますね」
淡く微笑まれて、心が温かくなりますー。有難や。
はぁ〜。
でも厄介な事になっちゃった。
王族に関わりたくなかったんだけどなぁ。
まあ、助けた事に後悔はないから良いんだけどね。




