15.刺激的だった(ステファン視点)
最初は受けるつもりなどなかった。サーバンド侯爵から指名依頼を受けても、面倒なだけだと思った。しかし、条件に神聖契約が必須だった事が気になった。そこまでの事かと思ったが、興味を惹かれたので引き受ける事にした。
初めて見た印象は綺麗な『お嬢様』だった。でもすぐに覆された。
「お父様、お顔で選んだのですか?」
いきなりそんな事を言ってくる令嬢など居なかった。
学院を主席で過ごした事や、それなりに整っている顔のせいで煩わしい事が多かった。人の顔を見て頬を染めるなんて意味が分からん。研究の邪魔しかしない令嬢など必要なかった。
しかし彼女の瞳には熱など全くなかった。
言葉から察するに美しいとは思っている様だが、美術品を眺めるようにだた美醜を判断しているようだ。
令嬢なのに冒険者になりたいとは変わり者だが、キラキラと目を輝かせて話す彼女は楽しそうだ。貴族が嫌で猫を被っているなんて普通は言わない。面白いと思った。
そして知った彼女の秘密。
最初はとても信じられなかった。異世界の記憶などとは。
でも見せられた彼女の魔法に、魅せられたのは私の方だった。
次々に移り変わる属性。見た事のない鳥が優雅に舞う姿。
すべてが信じられない程に美しかった。
彼女に教えるどころか、教わる方が多かった。どっちが先生だか分からない。
まず考え方からして全く異なった。異世界では魔法がない代わりに科学というものが発達しているらしい。彼女は魔法が凄いと嬉しそうだが、私にしてみれば、科学の方がよっぽど凄いと思う。
しかも知識量が半端ではない。何を聞いても、大方理解し、更に意見を述べてくる。そんな女性は初めてだ。研究所は男性ばかりだし、女性に話をしても興味を示す事などなかった。
前世は大人だったと言っていたので、研究者だったのかと聞いてみた事があったが、ただの主婦だと答えられた。学校は行っていたものの、最高学までは行ってなく、よくても一般人の中程だと。
これで庶民などとは信じられない。一体どうなっているんだ? 異世界?
その頃にはもう子供には見えなかった。落ち着いた女性にしか見えない。見た目は全然違うのに。
そして彼女の繰り出す魔法は美しい。
龍という異世界の伝説の生物は神秘性すらも伴っていた。
ずっと研究していた古語をすらすらと読み、古代魔法陣すら読み解こうする。
素晴らしい。
彼女と一緒に研究すれば、一気に進むだろう。
そしてきっと……楽しいだろう。
彼女から教わった方法で私の魔法も変わりつつある。
魔力操作という新しい捉え方で扱う魔法は、今までとは全く違っていて、思うがままだ。
もっと知りたい。
科学を。彼女を。
ずっと一緒に居られれば……。
そんな事を考えていたのが悪かったのだろう。
「ルティカ嬢、私と結婚してください」
気付けば口から出ていた。えっ? 何言ってんだ? 私。
「えっ? 嫌です」
しかも、速攻で断られてるし。
でも彼女の目に拒絶の色がない事にほっとする。
「そんな〜。どうしてですか?」
茶化して問えば、
「だってステファン先生と結婚したら、ずっと研究の手伝いをさせられるに決まってます」
「良いじゃないですか。一緒に研究しましょうよ〜」
「やだやだ。私は冒険者になって世界を見て回りたいんですー」
そう彼女も乗ってくれて、他愛無い会話にすり替えてくれた。
でも、そんな会話も心地良くて。
また聞きたくて、繰り返した。
8割の冗談と2割の本気を込めて。
調子に乗っていたのだろう。侯爵から依頼を外されてしまった。
残念だ。
彼女との関わりは、様々な意味で刺激的だった。これ以降彼女以外で、ここまで話し合える女性などいるとは思えない。
まあ、元々どうにかなるとも思っていないから、それは良い。
私は契約によって彼女の事は誰にも話せないのだ。
この甘やかな束縛で満足するさ。




