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第四話 『魔力と魔法』

【本話から地の文での主人公はアナスタシアで統一していきます】




 魔力の鍛錬……

 その方法はフランソワーズとして物心つくかつかない頃から孤児院を運営している教会でいやというほどたたき込まれてきた。

 ひたすら体内の魔力を循環させ、眠る前には使い切る。

 この繰り返しだ。

 魔力を循環させることで体内の魔力回路を太く複雑に成長させ、使い切ることでキャパシティーを増大させる。

 効果は成長期ほど大きい。

 しかし、思考力がある程度成長しないと鍛錬法そのものを実行できない。

 魔力循環訓練ではバランスよく全身を循環させた方がより強い魔力回路を形成できる。

 そのためにも、しっかりと状況を理解して魔力を調整する力が必要だ。


 その点、今のアナスタシアは前世の意識を引き継いだおかげで問題なく大人と同様の鍛錬ができる。

 乳児期という人生で最大の魔力の成長期に、魔力回路と魔力量の鍛錬ができると言うことだ。

 前世では幼さ故の思考力不足でつまずいたこともあるが、今の自分はそのつまずきすらも糧とした状態にある。


『これはチャンスよ!

 せっかく生まれ変わったんだもの。

 必ず流れを変えてみせる』

 決意も新たに魔力を循環させ、疲れてくれば魔力を使用して枯渇させ眠りにつく。

 アナスタシアは一日に何度もこの鍛錬を繰り返す。

 赤ん坊は一日の大半を眠って過ごすのが普通であるため、アナスタシアが魔力を使い果たして眠りこけていても、この鍛錬は誰にも疑われることがなく、毎日4回以上のサイクルで鍛錬を続けられた。


 最初は順調に進んだ鍛錬だが、アナスタシアの成長速度の速さが思わぬ形で問題を引き起こす。

 訓練を始めてしばらくは、初歩の生活魔法を数度使うことですぐに枯渇していたアナスタシアの魔力量は、日を追うごとに増え、そして予想以上に大きくなってしまったのだ。


 数ヶ月もすると、魔力を循環させる感覚が、まるで質量のあるものを循環させているがごとく感じられるほどになる。

『体中の血管をゴリゴリこさぎながら魔力が循環するように感じるわ。

 こんなこと、聖女と言われたフランソワーズだったときにすらなかった。

 乳児期の魔力鍛錬は効果抜群ということかしら』

 まあ、ここまでは、鍛錬のたびに血管をこさぐような違和感に苛まれるくらいで我慢できなくはない。

 実際アナスタシアはその感覚によって自身の鍛錬の成果に自信を深め、ひたすら魔力を鍛え続けるモチベーションを維持していた。

 しかし、それと同時に増えすぎた魔力の総量は、クリーンの生活魔法だけで魔力を使い切るのが極めてやりにくいまでになってきている。

 あまりの膨大な魔力量に、使い切るまで時間がかかりすぎるようになったのだ。


『もっと魔力を大量に消費する魔法を使えないかしら。

 けど、確か前世のアナスタシアは火・水・風・土の四大属性には適性が高かったけど、回復や光、時空などの適性はなかったのよね……

 前世のフランソワーズは聖女だけあって聖と光と回復、それに水の魔法の適性が高かったんだけど……

 こっそり使うなら回復がよかったんだけどなぁ

 残念ながらアナスタシアに生まれ変わった今、多分だけど適性がないのよね……』


 さてどうしたものかと考えるアナスタシアだが、前世のフランソワーズは『習うより慣れろ』『考えるより実行せよ』という脳筋思考、よく言えばポジティブシンキングの持ち主だった。その性格を引き継いだ今のアナスタシアもダメ元で回復魔法を試して見ることにする。


『悩んでいても仕方ない。

 ダメ元で回復魔法を試してみましょう……

 そこの虫さん、ごめんなさいね……

 ちょっと協力してもらうわよ』


 ちょうど折、悪しく通りかかったコガネムシに、アナスタシアは謝りながらも得意の風魔法を発動させ、壁にたたきつけて大けが状態にしようとする。

 ろれつが回らない乳児のアナスタシアはもちろん詠唱できるはずもなく、無詠唱での発動だ。

 死んでしまうと申し訳ないので多少手加減しようとしたのだが、魔力を鍛えすぎたおかげでかなり予定より強めに風魔法が発動した。

 壁に打ち付けられたコガネムシは羽があらぬ方向に曲がってしまっているし、頭というか首ももげかかっている。

 触角は千切れ、2つある結節部はあらぬ方向に曲がっているようにも見えるではないか。

 心なしか内臓のようなぐちゃぐちゃしたものが胴体の継ぎ目からはみ出している。

 これでは大けがと言うより瀕死である。いや既に手遅れ気味か……


『あら、大変。

 このままじゃ死んでしまうわ』

 アナスタシアは自分のせいでコガネムシがこの世と別れを告げそうになっている状況に慌て、全力で回復魔法を使う。

 感覚は無意識に聖女である前世のフランソワーズだったときのものを再現する。

 しゃべれないので、もちろん無詠唱だ。


 アナスタシアが魔法を発動した瞬間、まばゆい光がコガネムシを包み、あっという間に羽や頭は正常な状態に戻る。欠損していた触角まで元通りだ。

 しかし、それだけにはとどまらず、有り余るアナスタシアの魔力を受けたコガネムシはあろうことか巨大化した。

 そのサイズ、実に10センチを超える。

 元々2センチくらいしかなかったことを考えると、長さにして5倍、体積にして125倍に巨大化したことになる。

 もはやコガネムシとはいえないサイズだ。


『まずいわね。

 カブトムシよりも大きくなってしまったわ……

 こんな巨大なコガネムシが発見されたら、大騒ぎになるかもしれない……』


 どうしたものかと悩んだアナスタシアだが、そのとき使えそうな魔法を前世の知識の中から思い出す。


『そうだわ、たしか闇魔法に生命力を減衰させるものがあったはず……

 過剰回復で生命力を与えすぎて大きくなったんだから、増えすぎた生命力を減らせばいいはずよ』


 焦っているアナスタシアには、前世のアナスタシアにもフランソワーズにも闇魔法の適性はなかったことなど気がつくはずもない。

 ただひたすら、先ほどの回復魔法と逆の現象を意識して魔法を発動すると、黒っぽいかすみが球体となりコガネムシを覆った。

 果たして結果は……

 元のサイズより少しばかり大きいが、3センチ弱ほどまで縮んだコガネムシがやみかすみの中から現れた。


『はあ、なんとか成功ね……

 あれ?

 私、闇魔法が使えた???』


 夢中で自分がしでかした結果に思わずフリーズするアナスタシアだったが、まあ使えたものは使えたんだから気にしてもしょうがないと開き直る。


『まあ、結果よければすべてよしよね。

 使える手段が増えたことを、ここは純粋に喜びましょう』


 その後アナスタシアは、時空魔法や空間魔法など、前世で使えなかった属性の魔法も次々と覚えていくのだが、それはまた別のお話。

 いずれにせよ、どんどん規格外の力を蓄えつつあるアナスタシアであった。







次の第5話から、短編では描いていなかったエピソードが入ってきます。

第5話は明日の更新予定です。


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