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第21話 『むやみに餌をあげないでくださいという注意は、動物専用とは限らない』

しばらく間が空いてしまいすいませんでした。

やっと一話分できましたので投稿します。

誤字報告ありがとうございます。


 さて、土魔法で作った磁器のような容器に瘴気沼の不思議な水を汲んで帰ったアナスタシアは、早速何かに使ってみたいと考える。

 時刻は夜の11時を回り、電気的な文明の発達していないこの世界は子供も大人も寝静まるころだ。

 魔法による照明や魔道具の明かりは高価なため、夜遅くまで起きているのはよほど追い詰められて仕事をしている人くらいだ。


 何か、公爵邸の中に適当な被検体ぎせいしゃはないかと、アナスタシアは部屋を抜け出して探し回る。

 照明が落ちた真っ暗な廊下に出たアナスタシアは、目立たないように弱い光魔法を無詠唱で発動して視界を確保すると、とてとてと廊下を歩く。

 階段はレビテーションで一気に降り、食堂についたアナスタシアはテーブルに目をやった。

 食事がかたづけられた大きなテーブルには、小さな鉢植えが中央付近にきれいに並んでいる。


 実はこの鉢植え、公爵家の収入源の一つである『モウセンゴケ』の仲間なのだ。

 商才にあふれる父、カール・プラティニアは、臣籍に下ったときに賜った領地に、このモウセンゴケの群生地である湿原があることを知る。

 食虫植物であるこのモウセンゴケに興味を持ったカールは、自ら先頭に立ってモウセンゴケについて調べ、付近の村で台所やダイニングルームの害虫駆除にこのモウセンゴケが活躍していることを知り、商品価値を見いだした。

 周辺住民を巻き込んで、難しいと言われているモウセンゴケの栽培に成功し、それまでこれと言って産業の無かった田舎に新しい収入源をもたらし、販路の拡大とともに公爵家の財政を潤す商品の一つにまで成長させていた。

 このモウセンゴケは魔力を含んだ育成地の湿原の水でないと育たないため、出荷したモウセンゴケが他の地域で栽培されることが無かったのも、プラティニア公爵家の独占的利益を生み出すのに一役買っている。

 魔力を含まない水を与えても1ヶ月程は枯れないが、2ヶ月は持たない。この性質が定期的な購入につながり、この商品をロングヒットさせている。


 当然、公爵邸でも、ハエや小バエ、蚊などの小さい害虫を減らすために多くのモウセンゴケを利用しており、夜間のキッチンやダイニングルームには、モウセンゴケの鉢が毎晩多数並べられるのだ。



『湿地の水で育つのなら、もしかして瘴気沼の水でも育つかも……』

 父からは育成地の水でないと育たないと聞いていたが、何をどう勘違いしたか、アナスタシアはメイザースから預かった沼の水でもいけるような気がして、テーブルの上のモウセンゴケにたっぷりと振りかけた。

 30鉢全部にまんべんなく振りかけたところで水は無くなる。


『残念、キッチンに置いてある方にはかけられなかったわね……』

 その後、仕事を終えたアナスタシアは、誰にも気づかれること無く自室に戻り、眠りにつく。


 そして翌朝、新たな事態が起こるべくして起こったのだ。



 本来モウセンゴケの食虫行動は、『待ち』一辺倒である。

 すらりと伸びた細長い茎の先端にある捕食用の葉に多数の繊毛を生やし、繊毛先端に虫が好む香りを発する粘液を水滴状に発生させる。

 匂いにつられて虫がこの樹液に触れると、樹液は主に絡みついて外れなくなり、更に楕円形の葉が丸まって虫を包み込み、粘液の力で虫を消化分解し、吸収するのだ。

 虫がおびき寄せられて葉の先端の繊毛に触れるまでは全く動かないはずである。


 しかるに、アナスタシアが沼の水を与えた翌朝の、公爵邸ダイニングテーブル上にあるモウセンゴケはひと味違った。


 最初の目撃者は、モウセンゴケの鉢をダイニングテーブルから片づけて、朝食の準備をしようとした配膳係のメイドであった。

 30鉢のモウセンゴケを昼間の保管場所に移すため、丁寧にお盆にのせ、5鉢ずつ運んでいく。

 最初の5鉢をお盆にのせているときに、たまたま小さな蛾がテーブル上を飛んだ。

 このメイドはモウセンゴケの不思議な食虫行動に興味を持っていた。 

『あの蛾がモウセンゴケの繊毛に止まれば、捕食の様子が久しぶりにライブでみれるかも』と考えたメイドはなんとなく蛾の飛ぶ様子を目で追う。


 すると……、

 モウセンゴケの上空10センチほどのところにさしかかった瞬間……、

 モウセンゴケの捕食用の葉を支えている細い茎がググンと伸びた。

 そして、樹液をたっぷりつけた繊毛があやまたずに蛾を捉える。

 すぐに楕円形の葉が蛾を取り囲み、茎は元の長さに戻った。

「えっ、うそ……」

 史上初めて、自ら虫を捕まえに行くモウセンゴケ誕生の瞬間であった。


 奇跡の瞬間を目撃したメイドは、すぐにメイド長に報告する。


 メイド長は、モウセンゴケが自ら動くという眉唾ものの報告に最初は訝しんだが、言い張るメイドに根負けし、台所の裏のゴミ置き場で一匹のショウジョウバエを捕まえると、メイドが報告したダイニングのモウセンゴケの近くでそのハエを放した。


 果たして結果は……


 粘液の香りにつられてふらふらとモウセンゴケに近づいていくショウジョウバエが15センチほどの距離に来たとき。

 先ほどメイドが報告したのと同じ現象が起こった。


 メイド長は早速執事を通じて当主であるカール・プラティニアに報告する。


 アナスタシアが身なりを整えて朝食会場にたどり着いたときには、公爵邸の主立ったメンバーが一堂に会して、モウセンゴケの捕食行動を観察していた。


「あの……、

 おとうさま……、何かあったの?」

 アナスタシアは2歳児らしくたどたどしい口調でしゃべっているつもりだが、世間一般の常識ではこれほど流暢に言葉を操る2歳児も珍しい。


 アナスタシアが来たことにすら気がつかず、固唾かたずをのんでモウセンゴケに見入っていたカール・プラティニア公爵がアナスタシアの声にハッとしたように振り向いて説明してくれる。


「おお、アナスタシアか。

 実はダイニングに置いてあったモウセンゴケが進化したようなのだ。

 キッチンに置いてあった方には変化がないのだが、こちらにあった方は自ら動いて食虫するようになったのだ」


 アナスタシアのこめかみに冷たい汗が流れる。


「あの……

 おとうさま……

 原因は分かっているのれしょうか……」


 自らの昨夜の行動が引き起こした結果だと本能的に理解したアナスタシアは、こわごわ聞いてみる。


「いや、なんでこうなったかは分からない。

 しかしこれは商品になる。

 おそらく今までのモウセンゴケの10倍、いや15倍は値がつくだろう」


 どうやらプラティニア公爵は、新しい商機を見いだして興奮気味のようだ。

「とりあえず二、三日様子を見て、人に有害でなければ特産品販売店舗で試験販売だ」


 カール・プラティニア公爵の指示で、ダイニングのモウセンゴケ30鉢は公爵邸の植物園へと運ばれ、出荷を待つ間、3日ほど観察されることになった。


「理由は分からないが、今後もこのダイニングに置いたモウセンゴケが同様の進化をするか注視する必要があるな……」

 アナスタシアの横で呟くカールの言葉を聞いてしまったアナスタシアは、額だけでなく背中にも冷たい汗をかくのだった。







次回予告:またまた常軌を逸した魔法を伝授するメイザース。それを苦もなく習得するアナスタシア。とどまるところを知らない師弟は更なる強者を創造する。次回、『ヒロインのような王太子妃がライバル令嬢に生まれ変わるお話』第22話『新たなる驚異の誕生』。お楽しみに!

↑次話の内容に沿っていないかも知れません。ご注意ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] やらかし、原因を判っているのに伝えられない。さて次のやらかしは何かな。
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