第二話 『目覚めればそこは……』
どれくらいの時間が流れたのであろうか。
確かにワールギプスの剣によって切られたはずのフランソワーズは意識を取り戻す。
そこは知らない天井だった。
豪華な装飾が見え、ベッドにはレースの天蓋が施されている。
壁を飾るのは王太子妃たるフランソワーズの寝室にも劣らない見事な調度品だ。
しかし、それは見慣れぬものばかり……
王城の自室ではないことだけは明らかだ。
「ああぅおぉ」
『ここはどこ』と言おうとしたフランソワーズの口から出たのは、言葉にならない母音の塊だった。
喉までやられたのかと思ったフランソワーズだが、自身の体にすさまじい違和感を覚える。
起き上がろうとしても体がいうことをきかないのだ。
ジタバタともがいたときに、ふと自分の手や腕が目に入る。
なんだこれは……
フランソワーズはその違和感に驚き、凍ったように動きを止める。
フランソワーズは当然大人であった。
その手や腕は古今東西でも一二を争うほど美しくしなやかと言われていた。
しかし……
視界に写る自分の手足はとても小さく、まるで幼児、あるいは乳児の手足のようなのだ。
理解が追いつかない。
しばし呆然としていると、どこかで見たことがあるような金髪で毅然としたたたずまいの若い美女が部屋に入って声をかけてきた。
「あら、アナスタシアちゃん、目が覚めたの?
おなかがすいたのかしら」
その言葉は自分に発されたものであると理解されたが、そこに出てきた名前に思わずハッとする。
『“アナスタシア”……
そうだ。
この女性は処刑されたアナスタシア公爵令嬢に似ているのだ。
にもかかわらず、このアナスタシア様に似た女性は自分に向かってアナスタシアちゃんと声をかけてきた。
まさか……』
今の自分はどう見ても乳幼児のような状況……
自分をアナスタシアと呼ぶアナスタシアによく似た女性……
あの女性が今の私の“母”なのであれば……
もともと聡明なフランソワーズはここに至って一つの仮説に行き着く。
『私はアナスタシア様に転生した!?』
その仮説が正しいことは、若き日のカール・プラティニア公爵が自分を抱き上げ、父であると伝えながらあやしてくることで確信へと変わる。
『なんということなの……』
フランソワーズは転生したのだ。
王太子によって無実の罪を着せられ処刑された令嬢、アナスタシア・プラティニアへと……
しかも転生先の公爵家は、王家の陰謀によって破滅する運命にある。
自らもその公爵家の消滅へ期せずして手を貸してしまうことになる----その公爵家へと転生したのだった。
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