プロローグ
――これは、夢……なんだろうか。
特別な日に起こったキセキ。紛れもない、神からの贈り物。
「……――」
人気のない道の一角で、君と目が合う。
それは、長い間切望していたこと。
叶う可能性など、ゼロパーセント以下だったはずの出来事。
そんな奇跡が目の前で繰り広げられ、歓喜というよりはこの事実を信じられない気持ちが大きくて、でもこの奇跡を離したくなくて、手が震えた。
血の通っていない手のひらを広げ。
きょとんとした目でこちらを見ている彼女の顔を通り過ぎ、肩に触れる。
久しぶりに感じる体温と、ぬくもりのある触れ合い。
それがまた俺の涙腺を刺激し、溢れた涙は頬をつたり顎へ行き、膝に落ちた。
「俺は……」
矛先のない感情を言葉にならない声に乗せ。
言ってはならない台詞を、押さえ込んだ感情を、心の奥底でひそかに呟く。
「えっ……」
勢いのまま、俺は彼女の肩に重ねた手をこちら側に引き寄せた。
壊さないように、優しく優しく、そっと手をクロスさせ包み込む。
暖かい陽気の中に時たま流れる冬の残りがで微かに冷たくなった彼女の背中を、力を入れすぎないようにと逆に力を入れながら、彼女の髪に顔を埋めた。
(――あ……)
数秒の後、ぎこちなくも彼女の手が俺の背中に添えられる。
予想外の出来事に一瞬ビクッとなってしまったが、それでも彼女は手を離さず俺の背中に温もりを与えた。
その時、彼女の背中越しにとても綺麗な青空が伺えた。
それは、清々しいほどに真っ青で。
俺はこれが夢ではありませんようにと神様に祈りながら、抑えきれそうもない感情を、収めるのに必死だった。