第1話:夜桜と出会って
灼熱、地獄、深淵。
この言葉で人は何を想像するだろうか?
死の灰が舞う世の中を想像することなど誰に出来ただろうか?
50年前、目が焼ける程の閃光と一緒に世界は崩壊した。
数発の核弾頭によって引き起こされた悲劇を感じる暇など人々にはなかった。
僅かに生き残った人類は地下へと居住を移した。地上は放射能にまみれ、建家は崩壊し人類の文明は消え去った。
月日が流れ、人類はまた地上へと進出する。
住居を作り人々が住まう。
この街もその1つだ。
今は昼時、食料を求め市場を散策する。
「さあさあ!買った買ったー!食料配給カード1枚でこの量の肉だよー!」
店員の呼び込み声がそこらかしこから聞こえる。
紙幣の概念が無くなった今の時代では、労働の見返りに得られる食料配給カードか物々交換で品物のやりとりをする。
労働と言っても様々だ。
居住地を広げる為に街の外での作業や食料調達。
街を清潔に保つ為の清掃。
いつの時代も労働を対価に生活を得る。
かくいう俺も外での作業を終えて帰って来たばかりだ。
食料を買って家へ帰ろう。仲間が待っている。
「配給カード2枚だ。2つくれ。」
店員から肉の入った袋を2つ受け取り帰路につく。
「達也ー!今日は2つも買うのかい?奮発してるねー飢えるんじゃねぇぞー!」
馴染みの店員と軽く挨拶を交わす。
肉はここの店が1番うまい。
家の扉を開けてテーブルに買い物袋を置く。
「達也、帰って来たのか」
仲間の一人がおもむろに語りかける。
「お前と同じ外での作業に行ったやつらが帰って来ないんだ。ストーカーにやられたかも知れん。」
ストーカー。核攻撃によって異変をもたらされたのは何も文明の崩壊だけではなかった。
高濃度の放射能によって生態系に異変をもたらした。
ストーカーもその1つだ。
もとは狼なのだろうか?
口は爛れて牙がむき出しになり常に飢えている様に見える。
そういった怪物から身を守る為に街には分厚い防護壁が設けられている。