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モノクローム浮遊学院  作者: ナール
第一章 入学初日編
8/16

07 番号シャッフル

地図を片手に広大な学園内をしばらく彷徨い、ようやく目的地の近くに辿りつく頃には昼休みも残り10分となっていた。この昼休みもひたすら歩きっぱなしだったから、結局のところ何も休めていない。


俺は廊下を歩きながら、新入生に配れている予定表を確認した。次はホームルームの時間となり、そこで学園の細かい説明がされるらしい。今日は朝から色々ありすぎて俺は既に疲れを感じていた。だがまだ午前中が終わったところに過ぎない。俺は頬を叩いて気合いを入れ直し、自分がこれから1年間使う事になるであろう教室へと歩を進めた。


新入生に配られた手引き書では、それぞれの番号がどこの教室へ向かうべきか指定されている。俺の持ち番号はI-027だから、向かう先は《1年F組》の教室だ。


_____



13:55

俺はようやく目的の教室へと入る。もうホームルームが始まる5分前だ。この教室では既に半分以上の生徒が着席している。いや、まだ半分しかいないとも言うべきか。もう開始5分前なのに大丈夫かと心配になってくるが、俺は大人しく席に座るとする。

俺は自分の持ち番号が記された席を見つけて、椅子に手を伸ばした。


挿絵(By みてみん)


ピタッ

その瞬間、俺の反対側で別の生徒が同時に椅子に触れた。俺は驚き、その生徒も俺に驚く。


「あ…あの…」

俺の反対側に立つ生徒が困ったように俺を見る。その表情を見て俺も戸惑う。


「え…ここ俺の席じゃないの?」


椅子には確かにI-027と記されている。間違いなく俺の椅子だ。なんだ?この人は間違えているのか?


「シャッフル…されたの…ご存知ですよね…?」


言葉の意味がとっさに理解できず、俺はつい沈黙してしまった。シャッフル?どういう事だ?俺はその生徒の顔を茫然と見つめる。そこで俺はようやく違和感に気づく。


その生徒の額には I-027 と書かれているのだ。


つまり、俺と同じ番号だ。俺は訳が分からくなり、とりあえず謝ってその場を離れる。ひとまず深呼吸をして頭を整理する事にした。


「シャッフル…?」


時計を見れば、もうホームルームが始まるまで残り3分となっている。だがこの教室はまだ6割くらいの席しか集まっていない。そして、周囲がやけにザワついている事にここで気づく。


「はぁ? 私の持ち番号が全然違う数字になってんだけど」

「あぁクソ、だったら俺の席はどこだよ!」

「マジかよ こんなの聞いてねぇぞ!?」


などという声が周りから聞こえる。俺はようやくこの状況について把握する事が出来た。つまり、生徒の持ち番号が“シャッフル”されたのだ。

……つまりどういう事なのか。俺はまだ当惑していた。自分の“持ち番号”が変化した。…それは分かった。だが、同時に理解出来ない。


俺は頭を抱えて廊下に出た。とりあえず腕に刻まれた数字を確認してみる。


挿絵(By みてみん)


そこにはI-183…と記されていた。どういう事だ?いつ変化したんだ?何かアナウンスはあったか?学園側の遠隔操作で生徒の番号をいつでも変更出来るとでもいうのか?頭の整理が追い付かない。色んな疑問が頭をよぎる。だが、今の俺が向かうべき席は「183番」だという事は明確だった。ホームルームまで後3分もない。考えるのは後だ。


俺は183番の席がどこにあるのかを確認する為に、再び手引き書を取り出す。183番が指定されている席は…この「F組」の教室ではなく「C組」の教室にあるようだ。俺は急いで地図を取り出し、Cの教室を探す。どうやらここから反対側の校舎らしい。早歩きでも5分くらいは掛かりそうな距離だ。



俺は急ぎ足で廊下を歩きながら、この状況を整理する。番号シャッフル。つまり、数字がまたランダムに入れ替わったという事。これが意味するのは――


俺を道案内をしてくれたI-002。入学式前に知り合って、後にヴァンパイアだと分かったI-028。昼食の時間に歓談をして打ち解けたあいつら。彼ら、もしくは彼女らとはもう会えない…という事だ。


つまりそういう事になる。いや、そんなバカな。廊下を急ぎながら、俺はその可能性が非常に高い事に気づいてしまう。外見も声も統一されていて、しかも1学年600人もいるこの学園だ。それはつまり、もう会う手段は事実上無くなったも同然という事を意味する。

だが、突然すぎる。何の前触れもなかったじゃないか。


02番や28番、まだあいつらと話していない事は山ほどある。

02番。道案内をしてくれた事は感謝しているが、俺から許可なくお菓子を盗ったお前をこのまま逃がすわけにはいかないんだ。別のお菓子を俺に贈るくらいはしてくれないと困る。


28番。お前とはまだ話したい事はある。あの後どうなったのかとか、教師に何を言われたんだとか、「強制的にこの学園に入らされた」というその境遇とか、入学式が始まる前に具合悪そうにしていたのは何故かとか、気になっている事は沢山ある。


関わったことのない種族、人々と知り合うのは楽しいものだ。……と、そこまで考えて、俺はさっきまで「ワクワク」していた事に気づいた。この感じは、これまでの学園生活では感じた事のないものだった。ここに来てようやく俺は「新しい世界」の扉を開く事が出来たのだ。


……そう、開けてきたはずだった。

その新たな扉を『番号シャッフル』などという、この不条理なシステムが再び閉ざしてしまった。


ホームルーム開始1分前。廊下は今もザワついている。



_____



結局、俺が反対側の校舎にあるC組の教室にたどり着く頃には、ホームルームの時間が3分ほど過ぎた頃だった。幸いにもまだ全生徒が着席したわけではなく、俺が最後ではなかったと分かって少しホッとする。そこから更に5分くらいが経過した頃に、ようやく全ての席が埋まった。

突然の「番号シャッフル」に新入生の誰もが困惑していたのだ。それもそのはず、事前に何の説明も無かった。


黒板の前に立つマネキン姿の教師はこの状況になれているのか、全員が集まるまで無言で待っていた。俺の席は最前列の真ん中だったわけだが、この教室全体が困惑や憤りの空気に包まれている事は感じ取れる。


「やっと集まりましたか。このタイミングでシャッフルされるのも、もはや毎年恒例ですね」


挿絵(By みてみん)


教師はどこか呆れたようにそう話す。


「番号が入れ替わるなんて聞いてないんですけど」

「そんな説明受けてないぞ!?どういう事だ!」


それは俺も同じ気持ちだった。教師は黒板の前でやれやれという動作をしつつ答える。


「おっと、持ち番号は不変であるなどと、そんな説明は最初からしていないのですがね」


…確かにその通りだ。しかし、それは明らかに不親切というものだろう。姿が統一されたこの学園で、外見から唯一相手を判断できる要素は「持ち番号」だけだ。それが変化してしまったらもう誰が誰なのかが分からなくなる。シャッフルされる度に人間関係さえもリセットされ、常にみんなが初対面みたいな状態になるのではないか。

そして、新たな疑問も出てくる。


「じゃあ あんたら教師はどうやって各生徒の成績を管理するんだ?」


俺が今まさに疑問に思った事をそのまま言葉にしてくれた者がいた。


「ナンバー573、それに関しては安心してどうぞ。わたしたち教師だけが認識できる別の固有番号で貴方たちを管理しています」


「は?」「ズルくね?」という声が聞こえてくる。やはりそういう事か。外見の額・足・腕に刻まれる持ち番号とは別の固有番号が存在していて、教員たちは何らかの手段でそれを目視し、生徒を識別している。そしてその固有番号は、どういう仕組みなのか生徒には認識する事が出来ないようになっている。


「シャッフルはどんな頻度で行われるのですか?」


穏やかな口調の者がそう訊ねる。毎日のように行われるのか、それとも半年に1回とかなのか。


「生徒の誰かの正体が1人でも明かされてしまった時です。その事実をこちらが確認しだい、すぐにシャッフルは行われます。後は、毎週1回ずつは必ずシャッフルされますよ」


おいおい、そんな重要なルールを入学するまで説明しないのはどういう事だ。教室は更にザワつく。毎週必ずシャッフルされるだと?それは想像以上に間隔が短いではないか。


「最低でも毎週1回ずつってこと…?」

「それじゃあ誰とも知り合えないじゃん」


全くその通りだ。そして「生徒の誰か1人でも明かされた場合」というのも厳しい話だ。だったら今回突然シャッフルされた原因はやはり、昼食の時間でのヴァンパイア晒し騒動が原因なのだろう。


「誰だよジュースに聖水とか混ぜてヴァンパイア晒し出そうとした奴」

「そもそもヴァンパイアとか入学してくんなよ」


教師は入学早々からシャッフルされるのは毎年の事だと言っていた。そして先ほど診療所で話したゴーレムも、この騒動は毎年あるような事を言っていた。つまり、あのヴァンパイア晒し騒動が起きて番号シャッフルされるという一連の流れは、もはやこの学園の風物詩のようなものになっている…と思っていいだろう。


「毎年ああいう事する新入生が入ってきますからねぇ。まぁその結果、貴方たちはこの学園のルールを早々に思い知る事になるのですから。彼らも立派な仕事をしているという事でしょう」


生徒数が多いとはいえ、毎年必ず現れるというのも妙な話だ。そして犠牲になるヴァンパイア族が毎年出てくるのを承知の上で、あえて放置しているという事だろうか?今回の犠牲者である28番は何とか奴らを返り討ちにしたわけだが、毎年そうなるとは限らないだろう。


「野放しかよ」

「学園側も対策考えろよ」

「全部ヴァンパイアのせいかよ…マジクソだなあいつら」


ヴァンパイアのせいだという批判はこの問題の原因、その根本の部分をはき違えているとしか思えないが、学園側も例の騒動に対して何かしら対策すべきだと思うのは俺も同意だ。


だがそれはともかく、そんな頻繁に「シャッフル」されるのだとしたら、今度は気になるものが出てくる。それは、寮の個室に関してだ。寮にある自分の部屋の番号は、そのまま自分の「持ち番号」とイコールのはず。シャッフルされるとしたらどうなってしまうのか?

ここで、この教室の最前列真ん中に座る者として何か質問しておくべきだろうと思った俺は、ゆっくりと手を挙げてその疑問を口にした。


「寮にある自分の部屋はどうなるのです?」


俺がそう質問すると、後ろのほうで「それだよなぁ?」「私の部屋…」と聞こえて。みんなの疑問を代弁出来たらしい事を誇りに思いつつ、教師を見る。


「そこも安心してどうぞ。この学園の寮にあるドアには、それぞれ固有の転移魔法が施されています。番号がシャッフルする度に貴方の部屋と繋がるドアも変化しますが、その先に繋がる貴方の個室は卒業するまで変わりません。」


わりと高度な魔術が使われているようで感心した。いや、感心してる場合ではないのだが。でも確かに今朝自分の部屋に入った時、どこか違和感を感じたのを思い出す。窓から見える外の景色が、廊下で見た外の景色とは違う場所のような気がしたのだ。


今の説明で周囲の者たちは納得したのか、生徒達のざわつきは少し収まる。だが教室全体を包み込むどこか重い空気までは消えない。頭を抱える者。憤りを見せるもの。意外と冷静な者。自分がいる最前列の席から見える範囲で辺りを確認するが、そんな様子の人達が視界に入る。きっと後ろのほうも同じ感じだろう。


「もう質問はありませんね?ではホームルームを始めますよ」


そう言って教師は用意していた資料を黙々と配り始める。生徒達のザワつきは静まったものの、どこかやるせない空気までもは変化していない。


突然起こったシャッフルの衝撃度はそれだけ大きい。俺もわりと堪えている。食事会であえて打ち解けさせ、一気に突き放す。…まさかとは思うが、学園は“わざと”そうなるように仕組んでいるのだろうか?

シャッフルを起こすには、誰かの正体がバレなければならない。そう考えれば、ヴァンパイア族の弱点である聖水を使って正体を暴き出す騒動を起こした黒幕は、実は学園側である可能性すら出てくる。シャッフルを起こす理由を作るには、それはある意味で一番手っ取り早いのは確かだ。この騒ぎが“毎年”起きているのだとしたら、それはあながちあり得ない話でもない。


入学式が始まる前に28番から聞いた話の意味を、ようやく理解したと思う。28番はこれら不条理な学園の噂をどこかで聞いていて、ここでは結局のところ“1人でも平気な人”が生き残るという事を察していたのだ。


1人でも平気な人…か。俺はある意味でその状態がデフォな学校生活をこれまで送ってきてしまっている。つまり不本意ながらも孤独な状況に慣れてしまっているわけだが、そうでない人にとってはこの学園は過ごしにくいだろう。何しろ、いつまで経っても友人や知り合いが出来ない仕組みになっているからだ。

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