06 診療所のゴーレム
俺と28番は、20~29番用のテーブルへと戻った。
血を吸われた21番は失神して保健室に運ばれ、姿が晒された24番は教員たちにどこかに連れていかれた。このテーブルにヴァンパイアを痛めつけた彼らはもういない。俺たちはここでゆっくり昼食をとる事が出来る。
だがあんな騒動が起きた後に、明るい空気での食事とはいかないだろう。28番はボロボロな姿になっていたし、恐ろしきヴァンパイア族である事がこの場にいる全ての新入生に知られてしまったのだ。
周りから聞こえてきたヴァンパイアに対してのあの罵声を思い出せば、このテーブルのメンバーも28番を歓迎はしてくれないだろうと思う。きっと気まずい空気の中での昼食になるに違いない。俺はそれを覚悟していた。
「大変だったわね~」「おや、無事だったか」
テーブルに戻った時に最初に耳にしたのがそんな言葉だった。あれ?と思う。俺はともかく、ヴァンパイアである28番に対しての警戒はどうしたのだろう。
「ここにあったジュースにも聖水が混ざってたと思うから、怪しいのは全部捨てておいたぜ」
「勿体ねぇよな」
警戒どころか、ボロボロになった28番を気に掛ける様子だ。彼らの口調はどこか嬉しそうにさえ聞こえる。どういう事なのか俺は考えた。
俺は周りを見渡してみる。会話で盛り上がっているテーブルは殆どなかった。どこもボソボソという感じだ。あの騒動について話しているのか、料理について話しているのか。ともかく、自己紹介が禁じられている上に、外見も分からないというこの異質な空間においては食事の時の共通の話題が無くて困るものなのだろう。
少数の種族であり普通に暮らしていれば遭遇する事もないような珍しい『ヴァンパイア族』がここにいるのだ。この食事会で、これ以上に興味深い話題など見つかるはずもない。このテーブルに集まるメンバーが、28番をむしろ歓迎する理由が分かった。彼らは嬉しいのだ。無個性でひたすら話題に困るこの空間の中で、有名人となったヴァンパイアの者がここに来てくれた事が。
「お気遣いなく。私は水で結構ですから…」
「あら、これも美味しいのに」
ここでは28番は、ある種のスターのようなものなのかも知れない。本人はもう疲れ果てているだろうが、周りは放っておかないだろう。
案の定、それからの時間は28番を中心とした話題が続く事になった。
「ヴァンパイアってどんなもの食べるの?」「美形が多いって本当?」
「身体能力が凄いってマジ?どれくらいジャンプ出来る?」
などと、そんな身も蓋もない事を聞いてくる。28番はそんな質問に短く簡潔に答えたり、はぐらかしたりしながら食事を口に運んでいく。
このテーブルに集まったメンバーの中で一番おしゃべりだったのは、29の番号を持つお嬢様口調の者だ。その生徒は「こちらも美味でしてよ」などと言って色々料理を勧めてきた。
ここに自分の故郷の料理が混ざっていたらしく、その完成度の高さについて称賛していた。しかしそれらの料理は全てダーク・エルフ族のものだから、実質自分の正体を明かしているも同然だというツッコミは控えておいた。
…だがこの打ち解けた光景を見ていて、ある事が脳裏をよぎる。24番が言っていた「番号シャッフル」の話だ。持ち番号が全てシャッフルされてしまえば、せっかく打ち解けてきたここにいる奴らとも事実上もう会えなくなるのと同じだ。俺はその話題を口にする事が出来なかった。せっかく明るくなってきたこの雰囲気に水を差してしまいそうで気が引けたのだ。
そんなこんなで、昼食の時間が終わるまで俺や28番が教員たちに何か言われる事は無かった。それが不思議だった。俺はともかく、28番は正当防衛とは言え他の生徒の首輪を外してしまったのだ。この学園的にはそれは咎められるものではないのだろうか。周りを見ても教員たちは相変わらず無言で立っていたし、さっきまでベランダにたむろしていた少数の上級生たちは、例の騒動が終わった途端に姿を消している。
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そろそろ十分な量の食べ物を口に入れた俺は、右肩の怪我を何とかしようと保健室に向かう事にした。マントを羽織っているから隠れているが、結構な血が出ているはずなのだ。本当ならすぐに処置すべきだが、腹が減っていては仕方がない。
時計の針は12:30を指していた。昼食会は1:00までと聞いたが、もう大体の人は食事を終えている。俺は質問攻めにあってくたくたになっていた28番に声をかけた。
「なぁ、俺保健室に行こうと思うけど、お前はどうする?」
「そうですね… せっかくなので一緒にいきましょう」
28番ももうお腹いっぱいなのだと思うし、ここにいればテーブルにいる者たちのお喋りに付き合わされる事になるだろう。28番も保健室に行ったほうが落ち着くはずだ。
「なんだ、27番も怪我してたのか?」
テーブルの反対側にいる23番に聞かれる。やはりこちらは無傷だと思われていたようだ。俺は「まぁな…」と軽く返事し、その場を後にする。
「今度またお話しましょうね~」
お喋りなダークエルフ?の29番が手を振ってくる。何だかんだ気の良い奴らが集まっているテーブルで助かったとは思う。
さっきの騒動で聞いたような、種族差別的な罵声を浴びせてくる奴らをここで思い出さずにはいられない。俺は心のどこかで、この場の“全員”がああいう過激な奴らなのではないかと思っていたかも知れない。誰もがヴァンパイアを憎んで、悪として認識しているのだと。
だがそれは錯覚に過ぎなかったようだ。『少数の非難の声ほど大きく聞こえる』とは良く言ったもので、大半はヴァンパイアを憎む以前にそもそも見た事すら無いのだ。
このテーブルに集まった20~29番の殆どは、そもそもヴァンパイア族とは会ったこともないようで、身内が被害にあったという話も無ければ事件の噂を聞いたことすらも無いという。そんな彼らが28番を敵視する理由はどこにも無いのだろう。
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俺と28番は無言で保健室へと向かっていた。
一応は近くの教員に保健室に行っても大丈夫か聞いてみたが、特に問題は無いようだ。ちなみに俺たちが向かう先は保健室ではなく『診療所』と呼ぶらしい。それもそのはず、合計で2500人以上が暮らす浮遊島だ。病院のような施設は必要だろう。5分ほど歩くと、俺たちはその診療所にまで辿り着く。
入口に入ると、ナースの恰好をしたマネキン姿の受付が俺たちを出迎えた。診療所の中にはその受付1人しかおらず、他には誰も居ないようだ。
「えっと…怪我人が2人、俺とこの28番なんですけど」
俺はともかく、28番はマントがボロボロに焼け崩れており怪我人なのは一目瞭然だ。それを見て、受付の者は何かに察したような顔をする。
「…あぁ、新入生ね。どんな怪我か見せてくれる?」
俺は右肩のキズを見せる。だがそこで俺は違和感に気づいた。変化魔術の影響で、傷の具合が殆ど分からない状態になっているのだ。ナイフで数センチ刺されたはずだが、この姿ではそのキズも曖昧なものにしか見えず、血も流れていない。
「えっと…」
俺は傷を見せつつ、どうしたものかと狼狽えていた。こんな状態でどうやって傷の手当をするというのか?
「なるほどね、そっちは?」
だが目前のナースはこの曖昧なキズを一瞥しただけで次に移る。
「私は、見ての通りです」
28番は、そのボロボロなマントが軽傷ではない事を物語っている。だが変化魔術の影響で、その身体が実際にはどんな有様になっているのかは分からないのは同じだ。
「2人とも個室行きね。付いてきなさい」
ナースの恰好をした者は俺たちの傷の具合を瞬時に見抜いたというのか。変化魔術越しで怪我の状態を把握する術を身に着けているという事なのだろう。
とりあえず俺たちはそのナースに付いていく。静まった診療所の廊下を進んでいくと、ベットが並んだ部屋を通り過ぎていく。どのベットも無人かと思いきや、1つだけ誰かが横たわっているのを確認する。あれは21番だろうか?
「さっきも3人くらい来たのよね。そのうちの2人はただの擦り傷だったけど」
きっと28番と戦って敗れた例のグループ達の2人の事を言っているのだろう。番号は確か106番と234番だ。
「あれで擦り傷だったのか…」
俺は思わずそう呟いてしまったが、彼らをケガさせたのは俺の隣を歩く28番だ。
「後の1人はああなっているわ。あの様子だと数時間は目覚めないわね」
ベットで横渡る21番の事を言っているのだろう。そしてその21番を失神させたのも、俺の隣を歩く28番だ。だが28番は何も言わず、ベットに横たわる21番を見ても何も反応はしない。
俺たちはそのままナースに付いていき階段を上がっていく。2階には広々とした空間が広がっていた。そして幾つかの小部屋が見える。
「28番はあの奥の個室に、27番はそのとなりの個室に入って。後はゴーレムの指示に従ってね」
個室が並んだ通路に来てそう指示するナース。あの中で首輪の変化魔術を解除し、怪我の治療をするのだろうか?そして「ゴーレムの指示」とは何なのか。とりあえず言われた通りに中に入ってみるしかない。
28番は奥の部屋へと入っていき、俺はその隣の部屋に入る。個室の中は3畳くらいの広さになっており、黒い壁、簡単な椅子と小道具、姿見が設置されている。そして細身のゴーレムが無言で立ち尽くしていた。
俺はどうすればいいのか分からず、そこで立ち止まる。あのナースは「ゴーレムの指示に従え」と言っていたが、そのゴーレムは微動だにしない。俺がこの椅子に座れば起動するのだろうか?とりあえず腰を下ろしてみよう。
「ドアノ鍵ヲシッカリ閉メテ下サイ」
イスに座る直前に突然そんな声が聞こえて俺はビビった。そういえばカギを掛けていなかった。いや、それよりもこのゴーレムは喋るのか?ひとまず鍵をかけてから、ゴーレムに注意しつつイスに腰掛ける。
「首輪を外シテ下サイ」
次にそんな指示が来た。なるほど、やはり首輪を外しても誰にも見られない為の個室だったわけだ。この学園では、他人に自分の姿を見せたり招待を明かしたりする事を禁じられているのは知っての通りだ。だから怪我の処置などは、このゴーレムが担当するのだろう。きっとこのゴーレムには応急処置の知識が組み込まれているのだと思う。
俺は言われた通りに首輪を外す事にした。
「首輪を外シテ下サイ」
もう一度、ゴーレムの指示が聞こえてきた。だがそれは俺の目の前にいるゴーレムからではない。隣の部屋からだ。28番が入った隣の部屋でのやり取りが、この部屋にも聞こえてきている。それもそのはずだ。この個室は天井が抜けているし、防音対策は何もしていない。
つまり、変化魔術を外した28番の“実際の声”も、ここでは筒抜けに聞こえる。という事になる。俺はその可能性に気づいてから、思わず首輪を外す手が停止した。
変化魔術は外見だけではなく声すらも変えてしまうから、本人がどんな声をしているのかさえ分からない。だが実際の声を聞けば、少なくとも「性別」くらいは分かるはずなのだ。俺は28番の性別が気になっていた。
ここまで一番言葉を交わした28番は一体どっなのか?もし同性なら俺の肩の力も抜けるというものだ。今日一番言葉を交わした彼とは、良き友人になれるかも知れない。だが異性だとしたら、ちょっと話が変わってくる。俺はこれまで異性と会話した事が殆どなく、同年代の女子を前にすれば動揺してまともに話せなくなってしまうのだ。28番と今後はどう接するべきかという重い課題が俺にのしかかる事になる。
そう考えると、28番の性別については逆に知らないほうが良いのでは…?と思えてくる。ここは耳を塞ぐべきなのかどうか、俺は一瞬パニック状態になった。
「早ク外シテ下サイ」
「あッ…はい…」
ゴーレムの声で正気に戻る。気づけば俺は冷や汗をかいていた。こんな事で動揺してしまうとは。
首輪を外すと、聞きなれない魔術音と共に俺の変化魔術は解けていった。同じような音が隣の部屋からも聞こえてくる。
「デハ、怪我ノホウヲ見セテ下サイ」
俺は言われた通りに、上着を脱いで右肩の傷をゴーレムに見せた。今になってようやく自分でもその傷を確認出来るわけだが、傷は深く血も沢山出ている。
「確認シマシタ。ソノママデイテ下サイ」
ゴーレムは小道具を取り出している。消毒とかしてくれるのだろう。その間、俺は隣の部屋の音に耳を澄ましていた。
「酷イ有様ダナ。完治ニハ時間ガ掛カルダロウ」
隣の部屋のゴーレムはそう言っている。やはりヴァンパイアにとって聖水はただ事では済まないのだ。
「去年来タ子ハ モット酷かったゾ」
そして突然、そんな事を言う隣の部屋のゴーレム。ただの動く人形だと思っていたが、去年の記憶を持っているのか?
そんな事を思っていると、突然冷たく鋭い感触が右肩を襲う。「うっ…」と声が出る。目の前のゴーレムが俺の傷を消毒してくれているのだ。その手触りは意外と丁寧で驚く。ゴーレムだからといって甘くみてはいけないようだ。
「…あれは毎年あるのですか?」
傷の痛みに耐えていると、突然そんな声が隣の部屋から聞こえてきた。
28番だ。ようやく28番が“生の声で”喋ったのだ。
「イツモノ 事ダ」
「学園側は何か対策しないのです?」
「ドウニモ ナラナイ ソウダ」
「教員たちは何故沈黙していたのでしょう」
俺は右肩の痛みに耐えつつも、その声に耳を澄ませていた。
…どういうわけだろう。28番の生の声からは「性別」がまるで分からない。男とも言えるし女とも言える…そんな中性的な声だ。
「ソレニハ 答エラレナイ」
「去年のヴァンパイアたちはどうなりましたか?」
「少ナクトモ退学シタトハ聞イテイナイ 我々ニハ殆ド何モ教エラレテイナイ」
聞き取りにくいゴーレムの回答と、28番の真っ当な質問が交互に続く。
「これが最初に起きたのはいつの事ですか?」
「10年以上モ昔カラダ」
「それから毎年必ず起きているのですか?」
「起キナイ時モアルガ、ソレハ稀ダ」
そしてやり取りはもう聞こえなくなる。どうやら昼食会でのあの“ヴァンパイア晒し”は、この学園では毎年行われているのは間違いないようだ。28番の声がやけに中性的なのはともかく、その事実は恐ろしい。学園側は何も対策していないのか?食事会の前にボディチェックをするだけでも回避出来るはずなのに。
そんな事を考えている間にも、俺の傷の消毒殺菌は終了し、包帯がゆっくりと巻かれていく。
「ソコデ ジットシテテ下サイ。ソノ火傷ハ 回復魔法デ癒シテオキマス」
隣の部屋からそんな指示が聞こえる。今あのゴーレムは“回復魔法”を使うと言ったか?まさかゴーレムが魔法も扱えるとは驚きだ。
「あんたらゴーレムは魔法も使えるのか?凄いな」
その話を聞いて、俺は思わず目の前にいるゴーレムにそんな質問をする。魔法が扱えると言ったのは隣の部屋のゴーレムだが、このゴーレムもスペックは同じだと思う。もう既に包帯も巻き終わっていて、怪我の手当はほぼ終わっている。
「我々ハ 初歩的ナ治療ノ術ヲ 全テ体得シテイル。」
「…へぇ、凄いんだな。」
ゴーレムと言えば、魔粒子で動く人形くらいの知識しかない。街で簡単な作業を手伝うゴーレムくらいなら見た事があるが、これを動かすにはそれなりの知識がいるだろうし、作るのは専門家じゃないと無理だろう。ここまで見事なゴーレムは今まで見た事が無い。
「お前らを管理しているのは誰だ?」
「ナース達ガ管理シテイル。治療ニ使ウ魔粒子ノ補給モ ナースガ行ッテイル」
1階にいたあの人もその一人だろうか。高度なゴーレムの管理をするのも大変だろうと思う。
「誰がお前らを作ったんだ?」
「現在時刻から198年3ヶ月14日前、人族ノ手ニヨリ生ミ出サレタ。長イ放置ノ後ニ、我々ハ学園ニ引キ取ラレタ。」
随分古いゴーレムのようだ。この学園は創立98年だと聞いたが、それよりも古いらしい。
そして気づけば怪我の手当はとっくに終わっていた。ゴーレムも棒立ちで俺の質問に答えている。このやりとりも隣の個室にいる28番に全て聞かれている事だろう。
そして変化魔術で変化していない俺の“生の声”によって、こちらが男性である事くらいは隣の部屋にいる28番に知られてしまったはずだ。対して俺は28番の性別が分からないままだ。
「色々聞いちまったな。ありがとうなゴーレム」
とりあえず今のやり取りで、こいつらは単なる動く人形ではなく『意思がある存在』だと分かった俺は感謝の言葉を伝えておく。目の前のゴーレムは目の明かりを点滅させるだけで返事はしなかった。
「コレデ怪我ノ処置ハ完了シタ。首輪ノ装着ヲ忘レズニ退室シテクレ。オ大事ニ。」
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首輪を装着し個室を出ると、そこには既に28番が待っていた。俺より重症のはずなのに、俺より早く終わったとはどういう事か。
「フフッ ゴーレム相手に色々聞きますね 27番さん」
何故かニッコリとそう言う28番。俺がゴーレムに色々聞いたりしているせいで長くなったのも知れない。そして28番は回復魔法で軽く応急処置しただけだったからすぐに終わったのだろう。
「まさかゴーレムと意思疎通が出来るとは思っていなかったから驚いたぜ。」
実のところそれについてはけっこう驚いている。28番の生の声が中性的すぎる事に関して考えるのを一時的に忘れるくらいには。
「知らなかったのですか?一般的だと思っていましたが」
自分が暮らしてきた場所では滅多に見かけないが、環境によっては普及しているのかも知れない。
「あまり見た事がないんだよなぁ…」
「私の実家にもいますよ。専属のゴーレム」
「家にいるものなのか、ちょっと想像出来ないな…」
この28番はお屋敷のようなところに住んでいるのだろうか?ヴァンパイア族ならそんなものかも知れないが、一度訪問してみたいものだ。
「彼らにも、私たちとは形態が違いますが意識は宿るので、粗末に扱わない事です」
「まぁただの動く人形だとは思えなかったけどな。覚えとくよ」
そんなゴーレムに関する基礎知識を新たに身に着けたところで俺は時計を確認する。この広い部屋に設置された時計の針は12:40くらいを指している。
昼休みは14:00までだからまだ時間はあるが、次のホームルームの時間には教室にいなくてはならない。その教室がわりと遠いところにあるから、はやめに移動しておきたいところだ。
「…教室ってどこだ?」
「私も分かりません。マントの懐に入れておいた地図も半分焼けてしまっていますよ。困りものですね」
それはマジで困るだろう。教員に言えば予備をくれるはずだ。
「じゃあ一緒に職員室とかに行くか?」
「一緒に来ていただけるのですか?ありがとうございます」
学園の探索もしておきたいから、そういう事なら喜んでお供したい。28番にはどこか自分を重ねてしまうところがあり、今の有様がどうも他人事には思えないというのもある。
診療所と学園内は繋がっているが、しかし地図を見る限りその通路はやけに複雑になっているようだ。学園の構造を把握していない俺たちは、とりあえず外に出てからのほうが、目的地に辿り着きやすいだろう。
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俺たちは階段を下りて、診療所の正面出入口まで戻る。さっきのナースにも挨拶しておこうかと思ったが、そこには誰もいなくなっていた。
「誰もいないな…」
「すぐ外に複数人います」
よく見たら正面出入り口のすぐ外に3人くらいのマネキンが立っていた。あれは生徒ではない。マントの形状からして教員たちだ。3人くらいの教員たちは俺たちの姿を確認すると、診療所の中に入ってきた。
「怪我の処置は済んだかね?」
「……」
俺たちはつい黙ってしまう。この人たちは食事会の騒動の時に何もせず傍観していただけだ。すぐ近くにいたにも関わらず、ピンチだった28番を無視していた。そこにどんな理由があるのか、少なくともこの教員たちに対する俺の印象は悪い。
「大丈夫そうだね。さぁ28番は我々についてくるのだ。」
3人の教員たちが28番をサッと取り囲む。その様子からして、やはり例の騒動について取り締まりに来たのだろう。
「どちらへ向かわれるのです?」
「生徒指導室さ。おっと、27番は付いてこなくていいからね」
彼らにそのままついていこうとする俺は引き留められる。例の騒動の件で連れていくのなら俺も当事者のはずなのだが。生徒指導を受けるのは28番だけらしい。
「俺も当事者ですけどいいんですか?」
「我らに用があるのは、校則違反を犯した者だけだ」
3人に取り囲まれた28番は、そのまま診療所の外へと連れていかれる。校則違反か…俺がやった事と言えば、24番に飛びついたくらいだ。確かに何も問題は起こしていないが、それを言ったら28番だって正当防衛だ。
「28番は何も悪くないですから。あんまり重い処分は無しでお願いしますよ」
「……」
教員たちは何も答えず、そのまま28番を連れて進んでいく。
「27番さん。また会いましょう」
最後に28番は俺のほうを振り向いて、笑顔を向けていった。
俺はただ、その後ろ姿を茫然と眺める事しか出来なかった。




