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モノクローム浮遊学院  作者: ナール
第一章 入学初日編
10/16

09 コンタクト

挿絵(By みてみん)

そして17:30くらいになった。雲海は夕焼け色に染まりつつある。


俺は1人で当ても無く辺りを彷徨っていた。ここが浮遊島のどの辺りなのかさえも分からない。周囲を見渡しても人影はなく、物音もしない。「もしかしたらこの浮遊島にいるのは俺だけなのではないか」とさえ思えてくるほどの静寂さだ。


この浮遊島は端から端まで直径約4kmもあるが、地中空間と校内を含めれば、その倍以上の広さはあるだろう。だが、生徒が立ち入れる場所は限られている。

さっきの学園案内で聞いた説明によれば、ここはもともと無人の浮遊島であり、放置されていた古代遺跡があっただけだったという。


その広大な古代遺跡の一部をそのまま学園の施設として利用しているわけだ。どうりで建築物の作りがやけに神殿めいているわけだと納得した。


石造りの白い柱が立ち並ぶ回廊から外の景色を眺める。ここは生徒にも開放されている地下外周エリアだが、足を滑らせればそのまま雲海に落ちてしまうだろう。当てもなく歩いていたらこんなところに来てしまったのだ。


挿絵(By みてみん)


相変わらず辺りに人はおらず、古代神殿特有の厳かな静けさが辺りを満たしている。

ここは今から約2000~3000年くらい昔に、当時のライト・エルフ族が築いたものだと推定されている。


エルフ族の歴史書によれば、その時代は「古代アルテス時代後期」という時代区分になる。その時代は世界の各地で豊かな文明が栄えていたようで、今となってはロストテクノロジーになってしまった高度な魔法技術の数々が生み出された痕跡も残っている。


だがそれは更に大昔の「超古代 宇宙文明時代」の技術レベルにはさすがに劣るもので、その時代の技術が再発見されたものに過ぎない。とは言え、古代アルテス時代の魔法技術を甘くみてはいけない。建設当時から未だ稼働しつづける「浮遊建築物」がその技術の凄さを物語っている。


挿絵(By みてみん)


そんな大掛かりな浮遊建造物が、遥かな時を得た今もこの浮遊島を軸にゆっくり回転している。現代の技術で同じ事をやろうとすれば、すぐに落下してしまう事だろう。


俺はこの石造りの柱を両手でしっかり掴み、風で落ちないようにしつつ外の景色を眺めてみる。今は立ち入りが禁止されていて誰も入れなくなっているあの浮遊建造物も、数千年前には人がいて暮らしていたのだろうか。


すっかり暗くなってきた空を背景に、この遺跡が遺跡ではなかった頃に思いを馳せる。そうしていると、次第に無人の古代神殿を1人で彷徨っているかのような気分になってくるが、残念ながらここは学園だ。


昔はここにも沢山の人が暮らしていたかも知れないが、時を経た今も沢山の人が暮らしている事に変わりは無い。その違いは、エルフ族の民族であるか、それともマネキン姿の多種族であるか。


今朝出会った02番や28番、あいつらの事を俺は思い出す。俺は先ほど逃げるようにして1人になり、気づけばこんな人気のない場所にまで来てしまった。心地よい静けさのあるこの空間にいれば穏やかな気分でいられるが、同時に俺は遣る瀬無さを感じていた。


夕闇に包まれたこの空間で、俺はそんな虚しさに浸る。目の前には神秘的な景色が広がっているが、その感動はこの遣る瀬無さに塗りつぶされていた。


「はははっ」と俺は誰にも聞かれない笑い声を辺りに響かせる。もし、まだ02番や28番と逸れずにいられたのなら、この時間俺はどうしていただろうか。


外見が“皆と一緒”になるという夢を叶えさせてくれたこの学園だが、友人を作る事に関しての難易度は依然同じくらいをキープしているようだ。


気づけば空もだいぶ暗くなってきた。そろそろ戻るとしよう。俺はこの何とも言えない気鬱な想いを胸に、薄暗いその通路を引き返そうと柱から手を放す。最後に夕闇に染まるこの場の空気を大きく吸い込み、深呼吸をする。


「やっと見つけました。27番さん」

「うぉわ!?」


後ろを振り向いたその瞬間、俺のすぐ真後ろに突如現れた謎の人物とぶつかりそうになり、俺は足を滑らせた。そのまま俺の身体は外の雲海に真っ逆さまに――


挿絵(By みてみん)


サッ

その謎の人物は素早い動作で俺の身体を支え、すぐに通路側に引き戻した。俺はそのまま倒れるように地面に四つん這いになり、遅れて足が震えだす。全身に冷や汗が出て、俺はしばらくそこでうずくまる。


「こんなところに1人でいるとは。貴方も変わり者ですね。」


その聞き覚えのある喋り方を聞いて、俺は自分の耳を疑う。一瞬前に感じた落下死の恐怖などどうでもよくなった。


「え…?お前……」


足の震えと冷や汗がすぐに収まる。俺はその者の顔をすぐに確認し、刻まれた番号を見た。I-199と記されている。知らない番号だが、間違いない。この生徒は…


「ええ、先ほどまでの28番です。ようやく見つけました…」


その者は胸を撫でおろし、ほっと一息をつく。目の前に突如現れたこの生徒は、信じられない事だが、数時間前までの28番…だというのか?

俺と言葉を交わし、診療所で教師たちに連行されていったあのヴァンパイア本人なのか?


「……」


だがどういう事だろうか。俺は目の前にいる元28番の顔をじっと見ながら茫然とする。その顔も変化魔術でマネキンにしか見えないのだが、見覚えのある感じの表情と仕草は紛れもなく28番だ。


もう永遠に会えないくらいに思っていたその人が、突然何の前触れもなく目の前に現れた。もしかして偽物か。何かのいたずらか。或いは古代遺跡がもたらす謎の幻影か。


「お前……マジで28番なのか…!? でも…どうやって…?」

「貴方の血の味は忘れない。と言ったはずですよ」


薄っすらと微笑みながら話すその感じも、もはや懐かしく思えた。だが俺は言われた言葉の意味が分からず、首を傾げる。俺の血の味?そこから思い当たるものは1つしかない。


「も、もしかして…あのナイフか?」


昼間の時の例の光景が思い浮かぶ。俺の右肩に突き刺さって血が染みついたナイフを、たしかにあの時28番は舐めていた。だが元28番が俺の血の味を覚えている事と、こうして俺を見つけ出した事の関連性が分からない。


「はい、少量でしたが、あの血の味は忘れません」

「……」


何故か嬉しそうに言う28番。そういえば俺の血の味が美味だとか言っていたが…。今の俺が27番本人であると認識出来た理由も、やはり血を舐めたからなのだろうか。その辺について詳しく聞いてみたほうが良さそうだ。


「けど、どうやって俺を見つけたんだ?こんな誰もいないような場所で…」

「あなたが人がいない方向に移動してくれたから、私がこうして見つけ出す事が出来たのです。私が見つけやすくする為に、わざと1人になったのではないのですか?」


元28番は小首を傾げながらそう答える。どうやらヴァンパイア族の特性というものがあるらしく、それで俺を見つけたという事なのだろうか。


「俺がここに来たのはただの気まぐれだぜ?まぁ確かに、どうやったらお前に会えるのだろうとか考えてたけど、まさかテレパシーが伝わっちまうとはな…」


というのは冗談だが。元28番はやれやれという素振りをする。


「テレパシーはある意味正しいですね。私たちは血を吸う事で相手の情報や波長を読み取るわけですが、その読み取った血の波長はしばらく相手の波長がある方向を指し示すので、それを辿っていくことで相手を見つけ出す事が出来るのです。」


そんなヴァンパイア族の特性は初めて聞いた。元28番は自分の首輪を指差して説明を続ける。


「それはこのような変化魔術などで隠せるものではありませんが、やはり薄れてしまうようなので、かなり集中して気配を辿っていく必要がありました」


つまり人が多い場所だとその波長を探すのが困難になるから、こうして人が少ない場所に来た俺を無事に見つけ出せたというわけか。


「…そ、そういう事か。びっくりしたぜ…」


俺はついぎこちない感じの返答をしてしまう。こうして元28番と突然思わぬ形で再会出来たのは、願っても無い奇跡のようなもので、本当に現実なのか疑いたくなる。けど同時にその「血を口にした者の居場所が分かる」というヴァンパイア族の特性の話はどこか恐ろしい響きを持っているように感じられ、目の前の姿が分からないヴァンパイアが途端に怖い存在に見えてきたのだ。

俺はその恐れを振り払うようにして言う。


「ちょうど心細い思いをしていたところだ。っていうか、お前とはまた会えるとは思わなかったよ正直」

「番号シャッフルがされてから、貴方の波長を感じ取る事が中々出来ず、私も半ば諦めかけていたところでした。特に今回はごく少量でしたから、早く見つけないと波長が分からなくなってしまいます。後10分も遅ければ、もう2度と会えなかったかも知れません」


つまり、番号シャッフルが行われてからずっと俺の事を探していたという事なのか。限られた制限時間以内に俺の微かな波長を読み取りながら見つけるという高難易度なミッションを、元28番はクリアしたわけだ。俺がもう会えないと嘆き諦観していた中で、28番はずっと俺を探していたとは。


「大変だったんじゃないか?俺のことなんて放っておけばいいのに、そこまで頑張る必要は…」

「ある生徒から貴方に伝言を頼まれたのですから、そう無下には出来ませんよ。その人は一応恩人でもあるのですから」


その言葉から、ただ俺に会いたいわけではなかったらしい事が分かって少し落胆するが、どちらにしろ同じ事だ。この元28番は俺に伝言を伝える為に頑張ったのだ。そして目の前の元28番に「恩人」の生徒がいるとすれば…


「お前の恩人の生徒… まさか02番か?」


食事会で起きた例の騒動で、体を張って28番を助けたのは2人しかいない。あの時27番だった俺と、そして02番だ。


「そうです。よく分かりましたね」

「まぁ…あの生徒とは一度世話になったしな…」


やはりそうだったようだ。しかしあの02番が俺に伝言とは。それは一体何なのか。あいつにお菓子を盗られた事を今思い出してムカついてきたが、そんな元02番が俺に何か言う事があるとは思えない。

お菓子を堂々と盗めたのは、あいつが番号シャッフルの事を予め知っていて、逃げ切れる自信があったからではないかと俺は推測していたのだが。

寧ろ俺と出会わないように避けてるのなら分かるが、逆にその02番のほうから俺にコンタクトを取ってくる理由が分からない。


「私たちが診療所から出ようとしていた時、私は教員たちに指導室へと半ば強制的に連れていかれましたが、その途中で02番は私にメモを渡してきました。」


小さな紙きれをマントの懐から取り出す。


「これを27番…つまり貴方に渡してと、近くの教員に聞こえないくらいの小さな声で耳元で囁いていきましたよ」


差し出してきた小さな紙切れを受け取る。28番が頑張って俺を探したのはこの紙切れを渡す為だ。俺は風に飛ばされないようにしっかりとそれを握る。


「何が書いてあるんだろうな…」

「私も確認していないので分かりません」


元28番が教員たちに連行されたのは『番号シャッフル』が起きる直前だったと思う。

02番が俺に直接コンタクトを取らず、わざわざ28番を通じて伝言を渡そうと思ったのは何故だろう。


02番はヴァンパイア族の「血を舐めた者の位置を探れる」という特性を知っていて、ヴァンパイアである元28番が番号シャッフル後に俺を見つけ出せる事を知っていたからだろうか。確かに、シャッフルされた後に2人と合流したいなら、それはわりと合理的な方法だとも言える。


だとすれば、02番は何らかの目的で俺たち2人と合流したいと考えているのだろう。だがそうだとしても、このやり方を思い付き実行に移す02番の行動力も相当凄いのではないか。


「見てみるぞ」


そこまで考えて、俺はおそるおそるその紙切れを広げてみる。小さな紙に書かれた手描きの文字が視界に入った。


挿絵(By みてみん)


「人間族とエルフ族のお菓子を両方持ってるなんて粋なヤツ☆

 そしてお守りを2つも持ってる そんな贅沢なキミに頼みたい事がある

 ボクのおやつが欲しかったら 今日の21:30に 指定の場所に来て。

 となりにいるヴァンパイアの子と一緒にね?」


紙に書かれている待ち合わせ指定の場所は「リスがいたところ」だけだ。リスがいたところと言えばあそこしかない。これは俺と02番だけにしか分からない場所の指定だ。つまり万が一俺たち以外の者にこのメモを読まれてしまった場合の対処だろう。


「どんな内容でしたか?」

「…俺とお前へのお誘いだな」


目の前にいる元28番にも見える位置に紙を移動させる。


「……なるほど、待ち合わせですか。フフッ、どんなおやつが用意されているのでしょう」


紙には「人間族とエルフ族のお菓子を両方もっている」なんて事が書かれているわけで、これは俺がハーフエルフであるという個人情報に関わるものだ。だが俺は目の前にいる元28番のことをヴァンパイア族だと知っているし、これくらいなら堂々と見せてもいいだろう。

だがそんな事よりも「おやつ」という単語を聞いて、俺はそろそろ腹が減ってきた事に気づく。


「そろそろ腹が減ってきたな…」


すっかり暗くなったこの通路の出入り口のほうを眺める。相変わらず無人で、風の音が微かに聞こえるくらいだ。


「食堂で食べますか?」

「そのつもりだ」


学園案内の時に聞いた説明によれば、この学園での食事のとり方は『弁当を注文する』か『食堂で食べる』かの大きく分けて2択になるそうだ。後は『自分で作る』生徒もいるらしい。


ともかくこの学園には幾つかの食堂があり、ここからだとどの食堂が一番近いのかは分からない。とりあえず外をうろついてみたら分かるだろう。

俺はすぐ隣の元28番を見て「せっかくだから一緒に食べるか?」と言おうとしたが、それは愚問だと思って言わないでおく事にした。


「よし行くぞ」


代わりに俺は一言だけそう言って、薄暗い通路を進み始める。そして元28番は何も言わず俺の後ろを静かに付いていくるのであった。

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