銀狐
銀狐の毛皮はすべすべとして滑らかで、内側から光を放っているようでした。
国の富裕層は皆、こぞって銀狐の毛皮を欲しがりました。
狩りにつぐ狩りで、銀狐の数はとても少なくなってしまいました。
それでも強欲な人間は、銀狐の毛皮を欲して止みません。
ある貴族が、森で銀狐の子供を捕まえました。
子供ではまだ毛皮は小さいので、檻に捕えて成長を待つことにしました。
檻の周囲はぐるりと有刺鉄線が囲んでいます。
それは重厚でもじゃもじゃとして、まるで悪魔の牙でした。
銀狐の母親が、囚われた我が子を遠くから見ています。
あの囲いを破ってでも、子供を助け出さねばなりません。
母狐は周囲を警戒しながら檻に近づきました。
母親に気付いた子狐が、か細く鳴きます。
その声は、母狐の胸を締めつけるようでした。
母狐は有刺鉄線のごく僅かな隙間に手を入れました。
たくさんの棘が刺さります。
血が流れて、滴り落ちても、母狐は手を伸ばすことを止めません。
坊や。
私の、可愛い坊や。
毛皮になどされてなるものか。
母狐は鼻面も突っ込みました。棘が刺さります。
子狐が、怯えた瞳で母親を見て、近づこうとしましたが、母狐はそれを拒みました。
子供まで傷つける訳には行きません。
もう少し。
もう少しで、坊やに手が届く。
やがて日が暮れて、夜になりました。
それでも母狐は棘の囲みに挑み続けました。もう全身が傷だらけです。
もう少し。
母狐は狂わんばかりの妄執で、血眼になり我が子を救おうとしました。
血はどんどん流れていきます。
翌朝。
血塗れの、銀狐が檻の前に横たわっていました。
もう動くことのない冷たい塊。
子狐は、それでも母親を呼び、鳴くことを止めませんでした。
また再び目を開けることを疑わず、鳴くことを止めませんでした。