表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

銀狐

作者: 九藤 朋

 銀狐の毛皮はすべすべとして滑らかで、内側から光を放っているようでした。

 国の富裕層は皆、こぞって銀狐の毛皮を欲しがりました。

 狩りにつぐ狩りで、銀狐の数はとても少なくなってしまいました。

 それでも強欲な人間は、銀狐の毛皮を欲して止みません。


 ある貴族が、森で銀狐の子供を捕まえました。

 子供ではまだ毛皮は小さいので、檻に捕えて成長を待つことにしました。

 檻の周囲はぐるりと有刺鉄線が囲んでいます。

 それは重厚でもじゃもじゃとして、まるで悪魔の牙でした。


 銀狐の母親が、囚われた我が子を遠くから見ています。

 あの囲いを破ってでも、子供を助け出さねばなりません。

 母狐は周囲を警戒しながら檻に近づきました。

 母親に気付いた子狐が、か細く鳴きます。

 その声は、母狐の胸を締めつけるようでした。

 母狐は有刺鉄線のごく僅かな隙間に手を入れました。

 たくさんの棘が刺さります。

 血が流れて、滴り落ちても、母狐は手を伸ばすことを止めません。


 坊や。

 私の、可愛い坊や。


 毛皮になどされてなるものか。


 母狐は鼻面も突っ込みました。棘が刺さります。

 子狐が、怯えた瞳で母親を見て、近づこうとしましたが、母狐はそれを拒みました。

 子供まで傷つける訳には行きません。


 もう少し。

 もう少しで、坊やに手が届く。


 やがて日が暮れて、夜になりました。

 それでも母狐は棘の囲みに挑み続けました。もう全身が傷だらけです。


 もう少し。


 母狐は狂わんばかりの妄執で、血眼になり我が子を救おうとしました。

 血はどんどん流れていきます。




 翌朝。


 血塗れの、銀狐が檻の前に横たわっていました。

 もう動くことのない冷たい塊。

 子狐は、それでも母親を呼び、鳴くことを止めませんでした。

 また再び目を開けることを疑わず、鳴くことを止めませんでした。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点]  自ら命を落としてまで助けようとした子狐がどうなるのかと、母狐の心を想うと、物寂しい気分になります。  可愛い、可哀想だからと保護される動植物、害があるからと駆除される動植物、そして便利だ…
[良い点] 硬いもじゃもじゃは思いつきませんでした。 でも動物の母子ならこういうことになるでしょうね。リアリティがありました。 なんとも切ないお話でした。 あ。そうか。流血ってこれのことだったんです…
[良い点] 拝読しました……。 もじゃもじゃは有刺鉄線……。そこからして切ないですね。 狐のお母さん、力空しく息絶えてしまったのも心にずしんときます。そういう行いをしているのは人間であり、私もその一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ