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僕は悪魔の攻撃──左ジャブに右ストレート、ローキックから飛び出す衝撃弾に、遠距離から袋叩きにされています。
10m以上離れたところから、僕を中心に回転するように円を描いて付かず離れず動いているので、その姿を捉えるのにも一苦労してしまいます。
今のところ、ダメージはほとんどありませんけど……。
一体、どこの少年誌のボクシング漫画だ、などとどうでも良いことを考えてしまうのです……。
ですが、もうそろそろ、反撃しましょう。
魔法が使えず(自分でそうしたのですけど)、弓矢や投石もできない状態で、離れた場所にいる相手にどうやって攻撃するか?
その答えは──愚直に近付くのみ、です!
腕に着けたミスリルの小盾を顔の前に構えて、ジリジリと前へと進みます──が、当然と言うべきか、僕が近付いた分だけ、悪魔は離れていきます。
これが、本当にボクシングなら、リングがあるので追い詰めることもできるのでしょうけど……ここはとても広い地下空間。そんなことはちょっと難しいですね。
「くはは!
亀のように甲羅に閉じ籠ったかと思えば、今度はノタノタと歩くのみか?
それで我を殺そうなどと、よく言えたものだな!」
左ジャブからの右ストレートで衝撃弾を放ちながら、悪魔は嘲笑います。
「そちらこそ。
その程度の攻撃では、蚊に刺されたほどにも感じませんよ。
離れた場所からチクチク仕掛けるしかできないなんて……そんなに僕が怖いですか?」
「…………。
後悔したいのか……?」
「できるものなら、させてもらいたいものですねぇ」
僕の挑発に、しかし無言になる悪魔。
煽り甲斐ないですねー。
「良いだろう……。
我のこの攻撃は、近付けば近付くほどに威力が増す。
聞きたいことがあったが故に手加減していたが……まぁ、良い。
腕や足の1本や2本、無くても問題あるまい」
おー、怖いことを言いますね。
でも、そうだろうと思います。
悪魔にしたら、ほとんど攻撃が僕に通じてない以上、このままではなにも変わらないため、近付くしかないのですから。
まぁ、本来なら、離れた場所からあの衝撃弾でボコボコにして、動けなくしてから改めて話を聞くつもりだったのでしょうけど、僕の防御力の高さに膠着状態になったのは、悪魔の誤算なんでしょうね。
他に攻撃手段があったなら違うのだろうけど、魔術を使えなくなってしまったために、こうなったのは悪魔にとっては想定外だったと思います。
僕は、ある程度ローズマリーさんから話を聞いていたので、こうなる展開は読めていましたけど、思ったよりも悪魔が慎重だったので、いらない挑発をする羽目になったのは……ちょっと恥ずかしいのでした。
ふぅ……。
さて、ここからが本番ですかね。
悪魔が、1歩踏み込んで来ました。
左ジャブを放つと、確かに先ほどまでのものと威力が違います。
それでいて速度も上がっている(近いからそう感じるのだけど)ので、ちょっとキツいです。
また1歩、悪魔が距離を詰めます。
僕も近付いているので、彼我の距離は5mほどになりました。
けれど──それ以上縮まりません。
再び、僕が近付いた分だけ、悪魔が離れます。
ヤツは徹底的に、アウトレンジから攻撃を仕掛けるつもりのようです。
慎重というか……狡猾ですね。
ただ、先ほどまでとは、衝撃弾の威力が大きく違います。
鎧を通り抜けて、衝撃が身体に伝わってきて、結構痛いです。
顔に当たったら、涙が出そう……。
……まぁ、逆に言うと、その程度なのですがね。
ローキックからの衝撃弾は、喰らい続けると足が動かなくなりそうなのでできるだけ避けていきます。
一応、当たっても『自動治癒』によって回復できますが、わざわざ痛い思いをすることはありませんからね。
ちなみに、現在この空間は『封魔結界』によって魔術が使えなくなっていますが、あくまでも魔力を放出できなくなっただけです。
なので、僕の体内で常時発動している『自動治癒』と『身体強化』は、普通に効果があるのです。
もう1つ言うと、一般的な身体強化のための魔術は、身体に魔力を纏わせる必要がある(パワードスーツみたいな)ため、この『封魔結界』内では使えないのでした。
また、回復魔術も同様に、治癒のための魔力を放出してから使うので、この空間一帯では使用できません。
つまり『封魔結界』は、僕だけが有利な空間になるのです。
それはさておき。
そんなわけで、悪魔は5mの距離から付かず離れずで攻撃を仕掛けてきます。
僕の攻撃は届かないと思って、一方的にやりたい放題してきやがりますが……そこまで近付けば、こちらにもやりようがあるのですよ!
僕は〈道具〉から小石を取り出して、軽く悪魔の顔に向けて放ります。
もちろん当たらないし、仮に当たってもダメージにはなりません。
しかし、悪魔にとってはそんなことはわからないので、警戒してそちらに意識がいきました。
衝撃弾の弾幕が一瞬緩み──僕はその隙に強引に足を前に踏み込ませると同時に、〈道具〉から魔鉄の巨剣を出します。
全長3mを越える巨剣の柄を握り、突進しながら剣を左から右に薙ぎ払いました。
身体を伸ばすようにして剣を振るったので、なんとか届きます。
悪魔の顔に驚愕が浮かび、剣を回避しようとバックステップしました。
剣先がギリギリかすり、髪の毛が切れて舞います。
左右には動けないのでそうなるのが必然なのですが、スゴい反射神経だな、ちくしょう。
これで仕留められると思ったのに……。
重量のある魔鉄の巨剣を無理矢理振り回したので、僕の身体が泳ぎます。
足に力を入れて強引にバランスを取ろうとして──ブチブチと筋肉が断裂する音がしますが、『自動治癒』に任せて無視しました。
悪魔のニヤけた顔が見えます。
ムカつくな、それ!
僕は剣から手を離し、もう1振りの魔鉄の巨剣を〈道具〉から頭の上に出現させます。
慣性によって流される身体を無理矢理動かして巨剣を掴み、悪魔に向かって振り下ろしました。
またブチブチと嫌な音が身体中から聞こえますが、知ったことではありません。
そのニヤけたツラを叩き潰してやります!
まだバックステップの余韻で空中に身体を浮かしている悪魔は、この一撃を避けることはできないはず。
「っ!?」
死ね、糞虫!
僕の振り下ろした魔鉄の巨剣が悪魔に迫り──




