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僕はチョイチョイと悪魔に手招きしながら、
「ごちゃごちゃと御託を並べてないで、良いからさっさと掛かって来ませんか、この糞虫。
そんなんですと、負けたとき恥ずかしいだけですよ」
と、言いました。
うぅ、少し恥ずかしいですが、まぁ、このくらいの啖呵を切っておいた方がちょうど良いかと思います。
悪魔は、白目と黒目の反転した瞳を細めて、脇を締め左腕を前に半身になり構えました。
軽くその場でトンっと跳ねます。
む?
ボクシングの構えっぽいけど……?
そして、ジャブを打つように左腕を前に突き出し──
ガンっ、と僕の顔面に衝撃が走りました。
な、なんだ?
兜のお陰でそこまでダメージはないけれど、若干くらっとします。
どういうこと?
悪魔との距離は、まだだいぶ離れているのに……。
僕が混乱していると、立て続けに攻撃がガンガンと届きます。
僕は慌てて両腕を顔の前に出して、ガードしました。
盾もあるし、鎧越しならほとんどダメージはないのですが、顔に当たると衝撃でクラクラするので、それを避けるべく、こうなりました。
ボクシングで言うところのジャブなので、そんなに強力ではないですけど、速度が速く、連射されてしまい、動けなくなってしまいました。
それに……この距離。
どう考えても腕の届く距離ではありません。
となると、まず考えられるのは魔術なのですが……今、それはあり得ません。
何故なら、この空間一帯に、魔力を放出するのを防ぐ結界が張られているからです。
そうなると、これは魔力を使っているのではない?
なにかのスキル?
例えば、単純に腕がびよーんと伸びるとか(そんな格ゲーのキャラがいましたしね)?
……まぁ、普通に考えるなら、腕を突き出した瞬間に、衝撃を飛ばすようにしているのでしょう。
ゲームや漫画みたいですけど、これはスキルなんだと言われたら、納得するしかありません。
僕だって、スキルの恩恵は受けていますからね。
「どうした?
威勢のいいことを言っておいて、そうやって亀みたいに閉じこもっているつもりか?
我はそれでも構わんがなぁっ!」
むぅ……。
いつから少年誌のボクシング漫画みたいなことになってしまったのでしょう?
悪魔の戦闘スタイルが少々おかしい件について、誰か聞いてくれませんか?
それはさておき。
確かに、今の僕は亀みたいな状態でガンガンと攻撃を受けていますが、救いがあるとすれば、鎧があるからほとんどダメージがないことです。
このままでいれば、そのうち悪魔の体力がなくなるんじゃないですかね?
ただ、アイツの態度からすると、もしかしたらずっとあのままでも攻撃し続けられるのじゃないだろうか?
可能性としてはあり得ます。
なら、こちらが動く?
例えば、僕も弓矢で遠距離攻撃をするか?
しかし、これだけ衝撃を放たれたら弾幕になって、弓矢での攻撃も通用しなさそうです。
それに、その動作中はどうしても相手の攻撃を無防備に受けざるを得ないため、まともに狙いを定められるとは思えません。
これは、投石も同様ですね。
僕の遠距離攻撃手段が封じられてしまいました。
どうしましょう……?
こっちが手も足も出ないのを見てとった悪魔は、左のジャブに加え、右のストレートと、さらにキックも混ぜてきました。
爪先からも衝撃が飛んでくるなんて……。
ハイヒールなのに、あんなに動きながら蹴りをするとか、どうなってるんでしょうかね?
右ストレートは、速度はそれほどではないですけど、威力がそこそこあります。
蹴りも同様ですが、拳と違って弾道が腰よりも低めになるので、対処しにくいです。
これらは鎧の上からでも結構痛いので、避けるか、ミスリルの小盾で受けるようにしています。
この衝撃弾(仮にそう呼びます)は目に見えませんが、突き出した拳などの延長線上に飛んでくることと、その際に、なんとなく空気の揺らぎのようなものがわかることで、なんとか防御と回避をすることができています。
ただ、エルフの視力を持ってしても、集中しないと対応できません。
……というか、左ジャブには対応しきれていないので、衝撃弾は顔に当たらないようにだけ気を付けて、残りはガンガン鎧に当たっちゃっています。
ダメージはないとは言え、気になって鬱陶しい……。
それに……今の悪魔は、ローズマリーさんの成長した──20代半ばくらいの女性の姿をしています。
しかも、スタイルは抜群過ぎるほど抜群でして……シアやヴィッキーに勝るとも劣らない破壊力を持っています。
それが、薄手の白いドレス姿で飛んだり跳ねたり、拳を突き出したり蹴りを繰り出したり……。
はっきり言って、たわわな胸がたゆんたゆんと暴れまわるわ、むっちりとしたフトモモの辺りまで裾が捲れ上がってしまっているわで、かなり目の毒なのです。
気になってしまって、とてもではないですが戦闘に集中できません!
まさかとは思いますけど……これも作戦のうちだとすると、悪魔というのは、本当に侮れない相手です!
こんな状態で負けてしまったら、情けなくて関係各所に顔向けできません。
いやぁ、本当にどうしましょうかねぇ……?
「ぴゅ〜……」
やれやれ、というマシロの呆れたような囁きが聞こえたので、そろそろ真面目にやりましょうか──いや、これまでも真面目にやってきましたけども。
もうそろそろ悪魔の攻撃にも、目と身体が慣れてきた頃合いですし。
……いや、本当に慣らすために耐え忍んでいたのですよ?
決して、たゆんたゆんに気を取られていたわけではないのです。
ないったら、ないのです!
こほん。
なんやかんやありましたが、それでは……これから反撃開始です!




