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ズンッと震動させて、僕は取り出したクリスタルを元あった台座に載せます。
どこから?
答えは──〈道具〉からです。
そうです。
とても大きいクリスタルですが、特に台座に固定されていたというわけではなかったので、簡単に〈道具〉に収納できてしまいました。
大きさや、重量の制限がなかったことには、僕も驚きました。
それと、生きているものは収納できなかったはずなので、クリスタル内に埋め込まれているもう1つの悪魔の身体があるとムリかもな、と思ったのですが、やってみたらできたので、あの身体は死体扱いにされているのでしょう。
上手くいって良かったです。
ローズマリーさんからは、このクリスタルとても頑丈でそう簡単に壊せるものではない、と聞いていたので、無駄な労力を使うことがなくなって、本当にラッキーでした。
……まぁ、魔法を使えばどうとでもなると考えていたので、〈道具〉に収納できなくても問題はなかったのですけどね。
それはともかく。
突然現れたクリスタルを見て、すっと目を細める悪魔。
あんな知りたがっていたのに、もう忘れたのかな?
「この中に埋まっているあの身体はアンタの力のバックアップ──複写された身体なのでしょう?
もし、そこのアンタを倒しても、これがあれば元通りってわけですよね?」
ポンポンとクリスタルを叩きながら、僕は言いました。
「どうしてそれを……? まさか、ローズマリーか?」
悪魔は、いつの間にか自分の横から離れていたローズマリーさんを見遣りました。
そのローズマリーさんは、悪魔の視線を避け、自分の足元に視線を落としています。
本当は、管理人さんからの情報ありきなのですが、それを言ってもわからないと思うので、黙っておきます。
「というか、逆にどうして、ローズマリーさんに裏切られないと思ったのか、そっちの方を聞きたいのですけどね。
身体を奪われて、自由を奪われて……それで慕われるとどうして考えられるのです? バカなの?」
愕然としている様子の悪魔に問い掛けますが、答えはありません。
……まぁ、僕も期待はしていませんけども。
僕は出したクリスタルを再び〈道具〉に仕舞うと、ローズマリーさんと、その彼女を睨む悪魔を黙って見遣します。
悪魔はしばらくローズマリーさんを睨み付けていましたが、奥歯をギリリと鳴らすと、視線を僕に戻しました。
「……まぁ、ローズマリーのことは後で良い。
まずは、ハイエルフ。貴様のことが先だ。
その消したクリスタルのことなど、いろいろ聞きたいことがあるが、その前に……」
グッと腰を落とし、前傾姿勢になる悪魔。
「貴様には落とし前を付けてもらおう。
少々痛い目に遭うだろうが、自業自得と知れ。
そして、聞けることを聞いたら、そのあとに惨たらしく殺してやる。
貴様が死ねば、再び魔術が使えるようになるだろうからな」
ふむ。
実は僕を殺してもこの結界は解除されませんけど、まぁ、わざわざ教えることはありませんね。
……それはそれで面白そうではありますけどね。
生憎、僕は殺されるつもりはありませんから。
「我の魔術を封じたからといって、我を殺せると考えたなら、大間違いだぞ。
我はこの身体を十全に扱うことができる上に、近接戦闘のためのスキルも多数ある。
それに……」
チラリと悪魔はローズマリーさんを見ました。
口の端が持ち上がり、愉快そうに笑います。
「いくらローズマリーが裏切ろうと、アレは我に逆らうことはできんのだ。
万が一、いや、億が一にでも我になにかあれば、アレは我のために動くのだからな」
知ってます。
知っているからこそ、こうしたのです。
僕はとある漫画のワンシーンを思い出しながら、できるだけワルモノっぽくチョイチョイと悪魔に手招きしました。
「ごちゃごちゃと御託を並べてないで、良いからさっさと掛かって来ませんか、この糞虫。
そんなんですと、負けたとき恥ずかしいだけですよ」




