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 僕はゆっくりとクリスタルに近付き、そのすぐ近くで立ち止まりました。


 クリスタルの中の、悪魔(デーモン)だという存在と同じ姿の女性は、全く微動だにしません。

 正直、白目と黒目が反転した瞳を見開いたまま、ピクリとも動かずにいるので、とても不気味です。


 10mはあろうかという六角柱のクリスタルの上部に埋まっている女性を見上げます。

 服を着ていないあられもない格好ですが、クリスタルの反射光の加減で上手いこと隠されています。

 なんとなく、アニメの温泉シーンの湯気みたいだなぁ、とかいうどうでもよい感想が浮かんできました。

 ……本当に、どうでもよいですね、反省。


 それにしても。

 管理人さんは、悪魔(デーモン)の本体を探せ、と言っていましたが、その本体とはこのことなのでしょうか?


「ということは、この身体を破壊すれば、悪魔(デーモン)は死んでしまう?」


「ぴゅ?」


 …………。

 えー?

 そんなバカな……。

 いくらなんでも、そんな単純なわけないですよねぇ……?


「そんなに簡単なことではないが。

 それをされると、少々困るな」


「っ!?」


 僕の独り言に答えるように、背後から声が聞こえました。

 慌てて振り向くとそこには──黒いワンピースを纏ったローズマリーさんが立っていました。

 いつの間に……と思いましたが、すぐに答えは出ます。

 彼女は空間転移できるのでしたね。


 クリスタルの中の女性と見比べれば、やはりよく似ています。

 なんなんでしょうね、これは……?


 コツコツと靴音をさせて、ローズマリーさんは僕の方に──というか、クリスタルの方に歩いて来ました。

 そして、僕の横に立って、クリスタルを見上げます。


「まぁ、無理に破壊しようとしたところで、そう簡単に壊れはしないのだが……な」


 そう言って、僕を流し見ました。

 僕は兜を外してから、口を開きます。


「そうは言っても、形あるものなのですから、絶対に壊されないなんてことはないでしょう?」


「確かにな。

 不壊のものなど、神のものくらいだろう」


「なら、どうして貴女はそんなに落ち着いているのですか?

 あれになにかあれば、貴女だってただでは済まないのではないのでしょう……?」


 どうにも怪訝な顔になってしまいます。

 それとも、僕ごときにクリスタルを壊すことはできない、と思っているのでしょうか?


 ローズマリーさんは、僕の言葉を聞いて微笑みました。

 その表情はまるで、子供が大言を言うのを耳にしたときのものです。

 しかし、そのローズマリーさんも少女にしか見えないので、なんかおかしな感じです。


「そんなに変なことを言いましたかね?」


「いやいや、これは失礼した。

 別に、君を侮っているわけではない。

 ただ、出会ったばかりの妾の心配をするなんて、かなりのお人好しだと思っただけだ」


 クスクスと笑いながら、ローズマリーさんは言いました。

 今度は年相応の顔で、本当によくわからないですね。


「それに……」


 次の瞬間、真剣な表情になりました。


「妾としては、これをすぐさま破壊して欲しくてな。

 できるものなら、やってもらいたい」


 …………。


「そんな顔をするな」


 そうは言いますけどね。

 なかなかどうして、11、2歳の子供が言うことではないでしょうに……。


「くくっ。

 妾はこんな姿だが、それなりに生きているぞ。

 なんせ、悪魔(デーモン)と共にいるからな……」


 それはどんな自虐ネタですか?


 僕は首を振って、気を取り直します。


「ところで、疑問があるのですが。

 何故、大事なものをこんなところに置いておくのでしょう?

 それも、こんな風に目立つような状態で……?」


「そうは言うがな。

 そもそもこの場所は、出入り口がないから、普通なら行き来できないのだよ。

 我々のように、空間転移できるなら話は別だが」


 それにしたって1度はここに来ないとならないのだが、とローズマリーさんは言いました。

 つか、ここ密閉されているのか?

 ……空気は大丈夫かな?


「まさか、床に穴を開けて来るとはな……」


 うん、まぁ、それに関しては、ちょっと申し訳ないかな、とは思います。

 非常事態だった、ということで、勘弁してほしい。


 ……っと、それで聞きたいことがあったんだった。


「ヴィッキーたち──僕の仲間はどうなってますか?」


「アレが上で施術しているよ。

 ──ああ、安心してくれ。

 妾とは違って、完全には掌握できないから、アレを倒せば元に戻る」


 僕の顔色が変わったからか、後半は少し早口になったローズマリーさん。

 彼女の言う通りなら良いのですが……。


「貴女は無理ですか?」


「時間だけはあったからな。

 念入りにアレと絡み合ってしまっている。

 もう分けることは不可能だ」


「そう……ですか」


「他に聞きたいことはないかな?」


 んー?


「通常であれば悪魔(デーモン)は、人の身体を奪い、人の人格を乗っ取って、存在することができる。

 しかし、その身体が壊されてしまえば、如何に悪魔(デーモン)といえど、消滅は避けられない」


「うむ」


「そこであの悪魔(デーモン)は、貴女の全てを奪うのではなく、自分の力を分割することでバックアップ──貴女の複写を用意することにした。

 もし仮に、貴女が壊れたとしても、自身の消滅は防ぐために」


 ここまでは良いと思います。

 で、です。


「そのバックアップとして用意したのが、ここにあるクリスタルの中の身体だと思うのですが……何故、わざわざ貴女の姿を成長させたのですかね?」


「特に意味はない、と言っていたよ」


 ローズマリーさんは自分の未来の身体を見上げます。


悪魔(デーモン)は、奪った身体を自由自在──幼くも、年を取ったようにも変化させられるらしいからな。

 ただ、最も扱いやすい年頃に変える傾向があるようだ。

 恐らく、妾の身体だと、あれくらいがちょうど良かったのではないかな。

 万が一、何者かに襲われたときに、戦うにしても、逃げるにしても、十全に力を発揮できなければならないから。

 特に、ただでさえアレは力を分割しているのだからな」


 バックアップがあるとはいえ無為に失うことは許容しない、とローズマリーさんは言いました。


「それで、そのバックアップを何故、こんな風にしておくのでしょう?

 先ほども言いましたが、壊されることを考えていないのですか?」


 大事に隠して保管しておくよりも、自由に動き回れる方が良いと思うのですが。


「その自由に動き回れるのが、今は上にいるアレだよ。

 仮に、アレが壊れても、まだここにあるのがあるし、妾もいる。

 ここにあるのが壊れても、上にいるアレが逃げ出してから新たにバックアップを用意すれば良い」


「その考えでいくなら、もっとたくさんあっても良さそうですけど?」


「あまり力を分割すると、それはそれで困るからな」


 あー、弱くなりすぎるのか……。


「……ということは、今は大体、3分割されている?

 ここのと、動いているアレと、貴女と。

 あれ? じゃあヴィッキーたちは……?」


「ほんの僅かな力を分けて、操ることができる。

 尤も、アレが死んでしまえば、すぐに解除されてしまう程度なのだが……」


「なんで、そんなことを?」


「恐らくは……ただの戯れだろう。

 最近、なにをするにも「飽きた」と言っていたからな。

 それと、万が一の場合の、君に対する人質でもあるな」


 なるほど……。

 なるほどなるほど。


 戯れ、ね?

 人質、ですか?


 ふむ?


 管理人さんの言う通り、悪魔(デーモン)というのは傍迷惑な連中なのですね。


 存在自体が、糞虫以下みたいだ。

 どこかにアイツラを殺す殺虫剤ないですかね?






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