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やあ、ひさしぶり。
元気かな?
ん? 誰だって?
イヤだなぁ、忘れちゃったかい?
私、私だよ。
いや、オレオレ詐欺なんかじゃない。酷いな、全く……。
私は管理人だよ、神の代行の……。
そうそう! いやー、思い出してくれて良かった。
たった数ヶ月で忘れられるとは思わなかった……まぁ、それだけ濃密な数ヶ月だったのかな?
え? 姿も見えないし、声も籠って聞こえたので、よくわからなかった?
はて?
…………。
……おお! どうやら接触不良だったみたいだ!
ちょっと待って、今なんとかするから……これでどうだ?
字幕を出して、読めるようにしてみたんだけど……?
よしよし。
上手くいったみたいだね?
では、改めて……ひさしぶりだね。
うん。
うん? なんの用か、だって?
いや、ひさしぶりなのにいきなりそんな言い方はないんじゃないかな?
久闊を叙する、というやつがあるじゃないか。
いや、まぁ、確かに今はそれどころではないけれど……。
もうちょっと、こう……なんかあるよね…………あ、ハイ、申し訳ない。
わかった、話を進めます。
えっと……どこから話したものか……。
まずは……そうだな。
君が先ほど出会ったアレについて、だね。
そう、あの白目と黒目が反転したアレ。
アレは──悪魔なんだ。
そのなかでも上位の、上級悪魔と呼ばれているものなんだ。
まぁ、悪魔と言っても、便宜的にそう呼んでいるだけで、地球の宗教とかに出てくるような悪魔とはかなり違うのだけど。
んー? そうだな……?
私は、寄生虫だと思っている。
それも良くないヤツ。
内側から喰い破るような……それで最終的に宿主を殺して、取って代わる質の悪いヤツ。
あー、あった! 漫画でね、脳を乗っ取っちゃうの。
で、主人公は運よく右手だけで済んで、乗っ取った連中と敵対するっていう……。
そうなんだ。
悪魔ってのは、まさにそういう感じで。
と言っても、実際のところは、ヤツらの本当の目的はわからない。
人に乗っ取って世界を侵略しよう、とまではしない……はず。これは私の印象だけど、ね。
じゃあ、ヤツらはなにしているのか、っていうと、ただ生きているだけなんだ。
だけど、思考というか、感覚とか、そういうのが全く違うから、もう存在しているだけで迷惑なんだよ。
よくわからないだろうけど、大丈夫、私もわからないから。
まぁ、幸いなことに、そんなにたくさんいるわけじゃないから、そう簡単には出会わないんだ。
悪魔の存在自体、知らない人の方が多いと思う。
現に、私が君にコンタクトを取ったのだってヤツに出会ったからで、そうでなかったらこの邂逅はなかった。
それくらい、イレギュラーなことなんだよ。
さて、ではもう少し具体的に話すと。
悪魔というのは、物質的ななにかではなく、なんて言うのかな……精神的な存在なんだよ。
だから、この世界に存在するために、肉体が必要になる。
そのために、生物に乗っ取ったりするのさ。
うん。
で、それができるのは上級悪魔だけで、力の弱い下級悪魔なんかは無機物や、せいぜい昆虫の身体を奪うことくらいしかできない。
そういうヤツらは暴れまわるしかできないんで、ちょっと強めの魔物として冒険者たちに倒されていたりするんだけども。
上級悪魔になると、そうはいかない。
ヤツらもなんとしても生きようとするから、一筋縄では済まないんだ。
そう。
君が出会ったのも、上級悪魔だ。
しかも、相当狡猾なヤツだね。
通常、ヤツらが身体を得るのには、生物の身体を奪う必要がある。
その過去も未来も、なにもかも全てを奪う。
それは、そうしないと自分の持つ力を十全に発揮できないんだ──いや、厳密に言うと、全力を出すとせっかく奪った身体が壊れてしまうので、できる範囲内で力を出すには、ということなんだけども。
とにかく、そうして身体を得て自分の力を奮って好き勝手に生きる、というのがヤツらのやり方なんだ。
ところが──そう、ところが、だ。
君が出会ったアレは……違う。
アレはそんなことはしない。
悪魔どもは、身体を奪って己のものとする。
ただ、それは己のものとなったその身体が壊れてしまえば、ヤツらは存在することができなくなってしまう、ということでもある。
まぁ、悪魔は、強い力を持っているから、そう簡単に死ぬことはないけども……それでも絶対ではないからね。
なにが言いたいのかっていうと、ヤツらは強力ではあるけれど、無敵の存在ではないということ。
そこで、とある悪魔は考えた。
自分は強い。
しかし、身体を得ても完全にその力を使えるわけではなく、自分より強い存在がいれば、やられてしまう。
それは許容できない。
ならば、どうするか?
完全に力が使えないならば、そんなものはいらない。
どうせ自分より強いのがいるのだから、力の大小など一緒だ。
そんなものなど、いくつもに分割してしまえば良いのだ、と。
そう。
その悪魔は、自分の一部を分けたんだ。
力が小さい分、相手の身体を全て奪うことができなくなるけれど。
そうしてしまえば、仮に1つ身体が壊されても、本体が残っていれば死なないで済む、というわけだ。
その上で、ひっそりと隠れてのうのうと生き延びているんだ。
全く……本当に厄介なヤツさ。
アレは、君が会ったローズマリーという少女に棲んでいる。
そこそこ力を注いで、彼女の未来を奪ったようだ。
どういうことかって?
さっき話したけど、悪魔は全てを奪うんだ。
身体のみならず──過去も未来もなにもかも。
ちょっと説明しづらいけれど……あり得なかった過去や、あり得る未来すら奪う。
そうすることで、悪魔としての力を押し込めることができるわけだ。
アレは少女の輝かしい未来を奪って、それなりの力を注ぎ込んで身体を形作り、自分の本体を守っているらしい。
何故、そんなことをするのかはわからない。
その少女の身体に、自分の本体を守らせれば良いはずなんだけども。
ふむ?
いろいろ想像はできるけど……そろそろ時間になりそうだ。
申し訳ないけれど、この辺でお別れかな。
なんか話が中途半端な感じだけど、なにが言いたかったかというと、君が出会ったアレは危険だということだ。
君がアレと敵対することは可能だけど……あまりお勧めはしない。
できれば、逃げた方が良い。
忠告はしたからね。
それでも戦うと言うのなら……1つだけアドバイスをしよう。
アレの本体を探すんだ。
君が見たアレではなく、別のアレを見付ければ、どうにかなるだろう。
それでは、健闘を祈る。
また会えると良いね。
グッドラック。




