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僕は小屋から出ました。
外から見てみると、やっぱり想像通り、あまり大きくない掘っ立て小屋でした。
その隣に、もっと小さな小屋があったので覗いてみたら、斧や鉈などのいろいろな道具が置いてあったので、荷物置き場として利用していたのかな、と思います。
斧やなんかは錆だらけだし、持っていくのもどうかと思うので、そのままにしておきます。
あと、イー君は死んだことにしようと考えているので、下手に物を持ち出すと怪しまれる可能性があり、そのことからもここの道具はそのままにしておきます。
おっと。
そうこうしているうちに、パチパチと小屋が燃えてきました。
先ほど室内に油を撒いたので、火の回りは早いと思います。
一応、あのクソエルフどもの死体をいくつか残してあるので、何かトラブルがあって火事になった、と考えてくれるとありがたいのですが。
尤も、そうでなくても、特に問題はありませんけど。
僕はチャッチャとトンズラしますからね。
さて。
どこに行けば良いのかわかりませんけど、適当に行きますか。
エルフとしての勘を信じてみましょうかね。
と、森の中に入ろうとしたら、そこには管理人さんが立っていました。
「やあ」
……うーんと。
さっき、もう2度と会えないねと言わんばかりに、良い感じに挨拶してお別れしたと思うのですが。
そんな軽く手を振ってこられても……。
「まぁ、そんな顔になる気持ちは、よくわかります。
私もちょっと複雑なのだけれどね。
こちらにも事情があって、少し時間をもらえるとありがたい」
「はあ」
そんなことより、文句があるのですが?
何故、イー君が女性なのだと教えてくれなかったのですか?
「あれ? 言わなかったっけ?
……申し訳ない。
伝えたつもりだったんだけど……」
「イー『君』というから、男性なのだとばかり思っていました」
「ああ……それは本当に申し訳ない。
混乱させてしまったようですね」
全くです。
目覚めたら女性になっているとか、どこのラノベかと。
「……でも、今は容姿も性別も変更しているね。
あれを使いましたか?」
はい、そうです。
先ほど小屋の中で、『容姿変更用化粧箱』を使いました。
本当は、この辺りから離れてから使おうと考えていましたけど、兄エルフやクソエルフどもがやって来てしまったので、予定を変更し、急遽『化粧箱』を使用したのです。
万が一、作業中に誰かがやって来ても、少なくともイー君の仕業だと思われないようにしたかったのです。
まぁ、自分でも多分ムダかなぁと思いながらやっていたほど、ザルな計画でしたけどね。
ちなみに今の僕の容姿は、四宮奏汰とイー君を足して2で割ったような顔付きです──いや、7:3でイー君かな?
髪の毛の色も、くすんだ金髪に黒髪が斑に混じっていますから、変な色になってしまってます。
男にはなりましたけど、エルフのままですし、イー君の面影が残っちゃっているので、見る人が見れば、イー君が髪の色を染めて男装をしただけに見えてしまうのです。
変更を終えてから、失敗だと気付きました。
これでも、いろいろ試行錯誤したのですけどね……。
「管理人さん? どうしてこの『容姿変更用化粧箱』って、完全には変えられないのですか?」
「ああ、えーっと……」
僕が詰め寄ると、管理人さんは困ったように頭を掻きました。
「魂は四宮奏汰君で、肉体はイー君なのが、今の君なわけで。
それぞれの影響を無視すると、どんな瑕疵が出てくるか、ちょっとわからないのですよ。
なので、どうしても2人が混ざったような容姿になってしまうのは、仕方ないと言うか……」
「聞いてないですよ?」
エルフのままで、というのは聞いていましたけど、それ以外は初耳です。
「容姿がどんなものでも思いのまま、とは言ってない……というのはちょっとズルい言い方かな?」
むぅ……。
「なんというか、わざと勘違いをさせるような言い方をされているな、とは思います」
イー君の性別にしても、今のも。
僕に、ミスディレクションを仕掛けても意味ないでしょうに……。
「あー、それはね……。
私も神ではないにしても、それの関係者でして。
どうしても、それに引き摺られてしまって……言い訳にしても酷いな、これ」
んー?
どういう意味です?
「神といっても、何でもできるわけではないのです。
正確に言うなら、何でもできるけど制限がある、というべきか。
あまり詳しくは話せないのですが」
…………。
ふぅ。
まぁ良いか。
あれです、役所とか国家機関とか、そういったものだと思いましょう。
柵とか、いろいろあるんですよね。
これは、問い詰めても無駄に終わるやつでしょうし。
「なんというか、申し訳ない……」
「いえ、もう良いです。男に戻れましたし、それで十分です。
それと、申し訳ないと思っているのでしたら、森の外まで案内してくれません?
その方が助かります」
「ああ、うん。
直接は案内できないけど、その方法を教えることならできるから。
魔法で、『マップ』というのがあるから、使ってみて』
『マップ』? ん、これかな?
ポチっとタッチすると、視界の隅にレーダーみたいのが出てきました。
なんぞ、これ?
「それはね。その名の通り、地図だよ。
オートマッピングしてくれるし、拡大や縮小もできるから、旅には重宝する」
おー。スゴいですね、これ。
「まぁ、おいおい慣れていってください。ゲームをやっていたなら、なんとなく理解できるとか思うから」
管理人さんがドヤ顔していますね。
でも、わかります。地図の利便性って、計り知れないですから。
「ここから北の方角に向かえば、森から出られる。
方位磁石もあるから、大丈夫でしょう」
ん。それならなんとかなりそうです。
それじゃあ、いろいろお世話になりました。
では。
「気を付けて……って、ちょっと待って!
まだ、用事が済んでない!」
え? まだ何かあるのですか?