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 とても広いエントランスホールにある豪奢な階段を上る僕は、ふと後ろを振り返りました。


 先ほどまでアンデッドの群れと戦っていた場所とは思えないくらい綺麗です。


 汚れとかないし……そういえば臭いも全くしなかった。

 アンデッドなのだから腐敗臭がするべきなのだけど……今も全然です。


 あんなにドロドロのグチャグチャだったのに、どうなっているのでしょうね?


 疑問は残りますが、視線はそのまま奥の僕たちが入ってきた玄関(お城でもこの言い方で良いのかな?)の扉が見えて、その上には大きな肖像画が飾ってありました。


 椅子に座っている、黒いドレスを着た女性のようですね。


 女性のよう、というのは、顔が真っ黒に塗り潰されていてわからないからなのですけど(女装をした男性の可能性あり)。


 それでも、何故か視線がこちらを見ているような気がしてなりません。


 ……こういう場所にあるなら、このお城の主なのかな? と思うのですけど、どうなんでしょう。

 もしもそうなら、顔が塗り潰されている理由もわからないですけどね……。


 まぁ、そもそも、このお城はなんなんだ? という疑問はあるわけで……いきなりアンデッドに襲われたくらいだし。


 んー。

 危険がないなら、ホラー系のアトラクション感覚で楽しめるのかなぁ……と、益体もないことを考えてみたり。


「シータ! なにやってるです?」


「すぐ行きます!」


 既にみんなは階上に着いていて、僕はルナに促されて、階段を駆け上がります。


 まぁ、良いか。

 考えても仕方ない……。


 扉の前で何故かソワソワしているヴィッキーを横目に、僕は深呼吸をしてから、〈道具〉(アイテム)からウィルフレッド(ゴーレム)を取り出し、戦闘モード(リザードマン型)にして扉の前に立たせました。

 これなら、開けた瞬間に魔物に教われても、防ぐことができるのです。

 準備ができたので、みんなに軽く頷いてから、扉を開けるべく力を込めます。


 重いのかなと思っていましたが全くそんなことはなくスムーズに開いたので、ちょっと拍子抜けしながら、隙間から中を覗き込みました。


 この部屋もやっぱり明るくて、煌びやかです。


 天井は高く、いくつものシャンデリアが吊られており、両脇の壁沿いには、ハルバードを手にした甲冑がいくつも並んでいます。

 ……テンプレなら、コイツらはリビングアーマーで動いたりするんでしょうね。


 それにしても、広い部屋です。

 一般的な学校の体育館なんかより、ずっと大きい……。


 一番奥には玉座があるのですが、そこまで辿り着くのにゆっくり歩いて2、3分はかかりそうです。


 ここは……謁見の間、ということで良いですかね?


 誰もいないことを確認してから、僕はウィルフレッドを前に恐る恐る中に足を踏み入れました。

 エントランスホールのときのように、急に魔物が現れることなく、僕たちは慎重に歩を進めます。


 これがホラー系なら、横手にある甲冑が動いて襲い掛かったりするのでしょうが……幸い、今はそんなことはありません。

 ……見てないところで、首が動いてたりしないよね?


 10分以上かけて、最奥の玉座の前に着きました。

 3段ほど高い場所にある玉座はとても大きく、人の座るサイズではないような気がしますが、一体どのようなつもりなのでしょうか?

 それとも、人ならぬ存在が座るべきところなのか?


 ……ゲームならば、魔王とか出てきそうな場面ですね、ははは。


 こほん。

 そんなことはどうでもよくて、さて、これからどうしようか?


「あっちの奥には扉があるわ?」


 今にも駆け寄りそうなヴィッキーが言い。


「ここで休憩しても大丈夫じゃないかしらぁ……?」


 疲れたような顔でシアが言い。


「一旦戻って、違う場所を探すです?」


 キョロキョロと周囲を見回してルナが言います。


 んー?

 とりあえず、ここでの休憩はないかなぁ……。

 ずらっと並んだ甲冑があるのが、見張られているような感じで、どうにも気が休まりそうにないです。


 となると、一旦戻るか、奥の扉に進むか。


 想像ですが、ああいうところにある扉は、この玉座に座る存在の私的な場所に繋がっていそうです。

 王様の寝室、とか。


 確認という意味でなら、奥の奥まで進んでしまった方が良いのかなぁ?


 でも、あまり奥まで行くと、今度はなにかあったときに逃げるのに不利になるのですよね……。

 追い詰められかねない、というのは、ちょっと怖いです。


 うーん……どうしようか、と玉座から視線を外したそのとき──


「なんだ? 侵入者というのは、シータだったのか……」


 無人だったはずの玉座から声が聞こえました。


 慌てて目を向けると、そこには白銀の髪をした黒ずくめの少女が座っていました。

 大きすぎる玉座の背凭れに背中を預け、小さな白い素足を投げ出しています。


 いつの間に……?


「ローズマリーよ、知り合いか?」


 と、声が後ろから聞こえ、そちらを振り向くと、誰もいません。

 ……え、あれ?


「話しただろう。外で美味しいご飯を食べさせてくれた……」


「ああ、ハイエルフの……」


 コツコツとハイヒールの音をさせて、玉座の横をゆっくりと歩いてローズマリーさんと話す女性が、そこにはいました。


 ……な、なんだ、これ?


 パニックになりそうですが、その一方で、僕の脳裏には空間転移という単語が閃いていました。

 この2人は、息をするように、空間転移を使っています。


 後から現れた女性は妙齢のご婦人で、漆黒の髪に褐色の肌で、背が高く純白のドレスに包まれたその肢体の美しさは、この世のものとは思えません。


 しかし、まずその女性に目を向けてしまう場所は、なんと言っても瞳です。

 その双瞳は──白目と黒目が逆転しているのです!


 ……いや、いやいや、ちょっと待て。


 逆転、というのならば──ローズマリーさんとこの女性は、全てが逆転しています。


 白銀の髪と、漆黒の髪。

 白い肌と、褐色の肌。

 黒いワンピースと、純白のドレス。

 そして──その瞳。


 2人は、写真のネガポジが反転したかのようで──


 そう思って改めてその顔をよく見ると、12歳くらいのローズマリーさんと横に立つ20台半ばの女性は、よく似ています。

 ローズマリーさんが成長するとこうなるのではないか、と思うほどです。


 普通だったら姉妹なのか、と思うところですが、ネガポジ反転したかのような、玉座に座るローズマリーさんと、その横にいる女性が並んでいる姿は、そんな単純なようには思えません。


 はっきり言って──異様な雰囲気で、ぶっちゃけ怖いです!


 僕たちはそれに呑まれてしまい、全く動けません。

 口を利くことすら、できそうにないです。

 蛇に睨まれたカエル、というのは、こういうことなんだなぁ……と初めて知りました。

 ……もうこんな体験は、今後したくありませんけど。


 現実逃避気味に、僕はそんなことを考えているのでした。






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